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情は人のためならず [インド]

ドイツにあるIZA(Institute for Study of Labour)という労働研究機関から、次のようなタイトルの論文が公開された。

Sarmistha Pal and Robert Palacios,
"Understanding Poverty among the Elderly in India:
Implications for Social Pension Policy"
IZA Discussion Paper No. 3431, April 2008


著者のSarmistha Palは英国ブルネイ大学にある研究機関CEDIの教授、Robert Palaciosは世界銀行のエコノミストである。両教授の報告によれば、インド政府が高齢者の死亡率を引き下げるために導入したプログラムは実際には高齢者の相対的貧困状況を悪化させる可能性があるとのことである。このブログでも時々紹介しているように、インド政府は貧困高齢者をターゲットにした所得移転(老齢年金)の大幅増額を含む新たな政策を推進しているところであるが、この研究では、こうした「社会年金(social pension)」は、インドの高齢者が直面する貧困についてあまりに理解することなく安易に導入されていると著者は批判しているのである。

この研究によれば、高齢者がいる家計は高齢者がいない家計に比べて貧困度が高いというわけではないという。この結果は、家計のサイズや家族構成等を変数としても大きな変化はないことも確認されている。貧困層は元々死亡率が高いため高齢者の中に元々貧困者が少ないのではないかという解釈ができる。

これは社会年金政策について非常に重要な意味を持つ。つまり、高齢者の死亡率を引き下げるために導入された政策は実際には高齢者の相対的貧困を拡大する可能性があるということになる。つまり、高齢者の生存率を高めると高齢者の間での格差が他の年齢層と比べて拡大するということである。
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インドの高齢者の問題をブログで取り上げる時、いつも気になっていたのが、高齢者は実際に本当に貧しいのかという疑問である。インドのように生活環境が厳しい国で、そもそも60歳まで生存できる確率自体がそれほど高くない。逆に、それでも60歳を迎えられる人というのは、そういう厳しい環境に耐えられた人々だということなる。

貧しさの定義というのはいろいろあるかもしれないが、僕がデリーで見かけるお年寄りは、子供が外国で働いていて一人暮らしや老夫婦二人暮らしという方が多いので家族と一緒に住まないという点での寂しさはあるかもしれないが、生活が苦しいというわけではなさそうな人が多い。本当に生活が厳しいところで生活して60歳を迎えましたという人にはデリーで出会ったことが少ない。それよりも早くお亡くなりになっているのではないかという気がするのである。

そうすると高齢者に対する所得保障や医療保障というのは導入の是非自体が大きな問題かもしれないという気もする。そもそもが恵まれて老後を迎えた人々の疾病リスクを軽減するというのが社会保険方式で政府によって行われるというのはどうかなと思えるのである。それなりに蓄えもあり、年金も貰っているような高齢者なら、医療保険は個人で加入することも可能だからである。

大事なのは、60歳まで生きられる確率を高める政策と60歳から長く生きられる確率を高める政策が整合性が取れているかということだと思う。都市で病気や怪我をすることなく長く働き続けられるための政策が十分整えられているかどうかを見ないで高齢者のケアの充実の部分の政策だけに注目していると、大切な部分を見落とすことになりかねない。そんな気がする。

但し、ここまで述べた僕も農村の高齢者の置かれた状況を十分承知した上で述べているわけではない。都市と農村では高齢者の置かれた状況は異なるし、導入が必要な政策の内容もかなり異なるのではないかということは十分理解している。

先日、昼休みにNirulaというファーストフード店で昼食を取っていたら、1人で食べに来ていたお年寄りを見かけた。Nirulaは前払い方式なので先ずレジで注文する必要があるが、僕が注文している最中にこの爺さんは横からレジの兄ちゃんに口を出し、割り込み注文を始めた。それを受けちゃうレジの兄ちゃんもなんだかなと思ったので、「オレが先に注文してるんだよ」と注意したところ、この爺さん、何を言われたのかわからず一瞬ポカンとしていたが、その後も平気で口出ししていた。

レジでひと悶着の後、この爺さんの行動を観察していたら、ウェイターの別の兄ちゃんを呼びつけ、自分が注文したハンバーガーセットのバーガーにケチャップを塗らせていた。こういうことを他人にやらせるインド人もスゴイが、そういう命令を文句も言わずに受けてしまうウェイターもスゴイ。

僕が言いたいのは、こんな傲慢な爺さんを増長させるような所得移転はすべきではないということである。本当に支援を必要としているお年寄りがちゃんと支援を受けられるような仕組みにしていかないと、いずれ日本の人口以上の高齢者を抱えるであろうインドでは財政が破綻する。
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