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『インドの衝撃』 [読書日記]

インドの衝撃

インドの衝撃

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 単行本
昨年の1月か2月頃、NHK総合テレビで毎週日曜午後9時から放送されている「NHKスペシャル」で、インドの今を紹介するという4回シリーズぐらいの番組があったのを覚えておいでの方もいらっしゃるのではないかと思う。出張だったか家族とのチャンネル争いに敗れたか何かで、僕は第1回しか見ておらず、記憶に残っているのは本書の第1部で描かれているインド工科大学(IIT)のエリート育成教育とそこを目指す学習熱でしかない。雨の中トタン屋根が半分も覆っていない教室ですし詰めになりながら講義を聴く受験生の姿は特に衝撃的だったが、それがあの貧困州ビハール州パトナ近郊の話だったことを本書で知り、衝撃を受けた。今インドに来てビハールの貧困指標を見ているので、あの「アカデミー」の熱気がビハールの光景だと言われてもにわかには信じがたい気がする。

このIITを中心とした教育熱の回以外についても、この番組を見たという在留邦人は結構いらっしゃるように思う。日本から出張で来られた方もこのNHKスペシャルを引き合いに出されることが多い。NHKの番組アーカイブにアクセスでもできるのなら、是非全ての回を見てみたいと思う。放送当時は僕は未だインド行きが決まっていなかったので、漠然とした興味でしかインド紹介番組を見ていなかった。今となっては自分の選択が悔やまれる。

でも、この番組を全て見ていなかったとしても、本書を読めば趣旨は理解できると思う。本書はインドの「衝撃」を2つの意味で使っているように思う。1つは、我々が持つインドのステレオタイプイメージ以上に急速にインドは変貌を遂げつつあり、そうした変化を強力に推し進めるだけの基盤が人材面ではあり、それが購買力の向上や外交交渉での力強いポジショニングに繋がっていっているということを示す。インドの「底力」という点での衝撃である。
 
2つ目の「衝撃」は、実は未だ訪れていない。強力な経済成長に下支えされながら大国の途を進みつつあるインドの光の側面だけではなく、影の側面もあり、両者のギャップが許容不可能な水準にまで高まると、そこで生まれる軋轢は計り知れない。どれほどの規模で国を揺るがすのか想像もつかない。その意味での衝撃である。
 
最近日本で発売されているインド紹介本の多くは当然ながら前者に焦点を当てている。だが、急激に変わりつつインドの姿がある一方で、変わらないインドの姿、或いは昔よりも悪くなりつつあるインドの姿もある。本書ではあまり紙面も割かれていないが、第3部の第5章から第7章は非常に重要な側面を扱っていると思う。農村部での農民の自殺に象徴される農村生活の悪化、中央政府と州政府の葛藤、相変わらずのバラマキ政治、農業部門の低成長等が扱われている。そこをちゃんと取材しているという点で、本書は一読の価値があると思う。僕達の見るインドの今を概観するにはとても適した本だと思う。

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コメント 3

インドの本で衝撃的だったのは「女盗賊プーラン」かな?
日本人の知らないインドの生活が良く解る話だね。
いまだにカーストが根強く残ってるとか婚資とか改革する所が多いだけに、力も残っている国のように思うな。
by (2008-02-14 11:13) 

Sanchai

キャサリンさん、いつもコメントありがとうございます。プーラン・デビィの話は90年代半ばに隣国でよく耳にしていました。今でもあんな話がありそうなのがインドの農村だと思います。
by Sanchai (2008-02-15 10:21) 

TiE Tokyo

突然のコメント失礼します。
サンジーヴスィンハ氏(Mr. Sanjeev Sinha)が代表を務める、世界的なインド人起業家ネットワークの日本支部の設立イベントのご案内です。NHKスペシャルにも出演された、米国市場で初上場を果たした、さきがけ的インド人起業家のカンワル・レキ氏(Mr. Kanwal Rekhi)も来日されます。
詳細は、↓から。

by TiE Tokyo (2009-01-17 19:27) 

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