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政府の老人ホーム整備構想 [インド]

貧困高齢者向け滞在型老人ホーム、603ヶ所建設へ
Coming Up, 603 Homes For Elderly Destitutes

ニューデリー発、2008年2月7日
 インドの60歳を過ぎた2100万人の貧しい高齢者にとっては心温まるニュースである。政府は、全国全ての県を対象として603の滞在型老人ホーム建設に乗り出した。社会正義・エンパワーメント省は、各州政府が行なう収容能力150人以上の施設の建設に対して、総額2000万ルピーの資金拠出を行なう予算を計上する。
 現在インドには60歳以上の人口が約7000万人おり、うち約30%が生活に困っている高齢者であると言われている。単純計算では2100万人ということになるが、今回政府が建設支援を計画している施設が全て完成したとしても、90,450人しか収容できない。同省高官によれば、これは第一歩に過ぎず、必要があれば施設数を倍増することもあり得るというが、これはひとえに州政府の対応にかかっているとも見られている。現在のインドの制度上は、施設の維持管理は州政府が負担することになっている。中央政府が資金供与するのは施設の建設部分で、来年度より予算計上される見込み。
 入居高齢者に対して、政府は食事、衣類、その他施設の無料提供を行なう。
 現在、同省では全国450の滞在型老人ホームと450の訪問型ケアセンター向けの資金提供を行なっている。こうした施設の運営はNGOが担っている。中央政府が中央のプログラムの下で貧困層向け老人ホーム建設に乗り出すのは今回が初めてであり、同省では必要があれば今後ホームの維持管理を有効に行なうための必要資金を支援するファンドの創設も検討するとのことである。
 それぞれの施設には健康維持・促進のための機材も設置されている。それだけではなく、在宅時と同じ環境を提供するべくテレビも設置されるという。入居者が収入向上事業を行なえる技能と意思を有する場合は、施設側では必要な支援を提供することになっている。ホームでだらだらと時間をつぶすのではなく、経済活動にも関与してもらえるよう推奨し、そこでの収益金はホーム入居者の福祉向上の役立てようとの狙いがある。
 こうした老人ホームの設置は、2007年に制定された「親と高齢市民の維持と福祉に関する法律(Maintenance and Welfare of Parents and Senior Citizens Act, 2007)」の重要なコンポーネントの1つとなっている。同法第19条第Ⅰ項によれば、州政府は、「必要とされる老人ホームを、利用者のアクセスが可能な場所に、必要な数だけ段階的に建設し、維持していくことができる」ことになっている。
出所:IANS(Indo-Asian News Service)


←ラジャスタン州のとある老人ホームの様子

1月に貧困州であるビハール州政府の訪問型老人ホーム建設について記事を紹介したことがある。それとの対比で読んでみると面白い記事かもしれない。これだけ広い国土を持つインドで、中央政府が老人ホーム建設費用を予算計上し、ホームの施設維持管理は州政府が負担し、実際の運営はNGOが行なうという役割分担がおぼろげながら見えてきた。全国に603ものホームを建設し、総費用が2000万ルピー(6000万円)などというのは計算として成り立つのかという突っ込みも入れたくなるが、悪い話ではないと思う。

但し、ビハール州の記事でも書いたが、県に1ヶ所設置というのが本当に貧困者にアクセスしやすいレベルなのかという疑問は残る。滞在型ということだからなおのこと、家族や住み慣れた村から離れて1人で滞在するという選択肢はあり得るのだろうか。仮に入居したとしても、今度は残された貧困家族がそこにアクセスできるのかどうかという疑問がある。日本の施設型介護の是非云々の議論を振り返ってみると、インドの農村部のように家族の相互扶助が未だ残っているところでは、施設型介護サービスで捕捉するよりも家族による在宅介護がもっと有効に行なわれるような施策が併せて必要になってくるような気がする。

第二に、記事で言及されていた法律であるが、州政府の老人ホーム整備は義務ではないく選択肢の1つとして建設、維持していくことが「できる(may)」と書かれている。つまり、「しなければならない(shall)」ではないということである。このあたりに連邦国家インドの中央と地方の政策連携の難しさを垣間見ることができそうだ。

第三に、こうした滞在型老人ホームの入居者がどういった構成になるのかという疑問がある。これは僕の予想に過ぎないが、同県内の高齢者人口の男女比率に対して、実際の入居者の男女比率が男性に偏るのではないかという気がする。出身カーストとか、自宅からホームまでの距離とか、或いはホームの存在をどのように知ったのかという情報アクセス手段とか、既存の在宅型老人ホームの入居者の構成を調べていくと、本当に公平に選考されるのか疑問に思うところが出てくると思う。

日本の例を出すまでもなく、老人ホームのような施設型介護の需給関係は需要が超過する。ましてやインドは途上国であり、施設整備が需要に追いつくことなど不可能に近い。そんなところでどうやって入居者を選定するのだろうか。そんなことを考えさせられる記事だった。


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