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A Billion Bootstraps [読書日記]

A Billion Bootstraps: Microcredit, Barefoot Banking, and the Business Solution for Ending Poverty

A Billion Bootstraps: Microcredit, Barefoot Banking, and the Business Solution for Ending Poverty

  • 作者: Phil Smith, Eric Thurman
  • 出版社/メーカー: Mcgraw-Hill
  • 発売日: 2007/02/15
  • メディア: ハードカバー
29、30日とマハラシュトラ州プネに出張してきた。その間にある程度読んでしまおうと思って携行したのがこの1冊。結局30日午後10時の時点で120頁(残り60頁)までしか到達してないので、感想はもう少し後に加筆したいと思います。

11月2日加筆分
感想を書くのが遅くなったが、本自体は3日で読みきった。本文は180頁ほどだが、文字が割と大きいのと口語体で書かれているので読みやすいと感じた。

さて、本書のタイトルであるが、日本語にすると「10億人の靴ひも」ということになる。これは何かというと、自分の靴ひもを自分で引っ張って泥沼から自力で抜け出す例えだという。10億人というのはマイクロクレジットの受益者人口である。従って、本書の趣旨は、10億人が貧困状況から抜け出すのにマイクロクレジットは有効な手段であるというところにある。著者の信念は「雇用機会があることは何者にも代えがたい財産である(A job is a priceless treasure.)」ということにある。そして、Bootstrappers are people who build their business with sweat equity, not by writing intricate business plans, pursuing investment bankers, or wallowing in market research.(p.3)だという。資金があって努力もすれば、貧しい人でも生き方を変えられる(With capital and sweat equity, poor people can change their lives.)と主張する。従って、努力をする人には資金へのアクセスを確保することが大切であり、それが即ちマイクロクレジットであるとする。

但し、この本はそこからの論理の発展のさせかたが日本の状況と合わない。著者の論点は、米国の篤志家がその財産の一部を投げ打って社会的貢献をするのであれば、先進国のチャリティに寄附をするのではなく、途上国のマイクロクレジットに「投資」をする方が100倍大きい社会的収益が得られるというところにある。このため、日本のように大金持ちが社会的目的にそのお金を使うのが一般的ではない社会とはそもそも話が合わないような気がする。その点は差し引いて読む必要があるだろう。しかし、そうであったとしても本書には読んでいて面白いなと思った主張が2つあった。

第1は「マイクロクレジット・プラス(Microcredit Plus)」という考え方である。要すればマイクロクレジットを提供することだけではなく、補完的なプログラムを組み合わせることで借り手の事業成功確率を高め、貸し手が感じるデフォルト・リスクを抑制してマイクロクレジットへのアクセスをより改善することができる、さらに、金融取引の場を教会などに定めることで社会的価値感に関するメッセージを込めてひとりひとりの行動変革に繋げていくこともできるという考え方である。もっと具体的に言えば、借り手に対して簿記や識字、職業訓練、ビジネスプラン策定に関する研修機会を提供することや、保健医療サービスを提供して借り手が健康を害して働けなくなるリスクを抑制することが考えられる。
 
第2には、貧困者支援にも「投資」というメンタリティが必要だという主張である。これもチャリティとの対比で述べられているが、寄付者は自身に寄附行為に対して受益者が感謝をしてくれると期待していることが多いが、受益者はむしろ寄附行為をむしろ寄付者の義務と見ているケースが多いので、感謝を期待するよりも投資に対する収益(成果)を期待する方が寄附行為の効用を最大化できるとする。さらに、チャリティに関する意思決定に投資のノウハウを適用することで、寄付者(donor)と受益者(recipient)はむしろパートナーと呼ぶに近い関係になるという。達成すべき成果に対する両者のコミットメントが高まるからである。

実はこの2つの論点は、政府開発援助(ODA)の実施に対しても示唆に富んでいると思う。公的資金を用いてより優遇された金利でマイクロクレジットに資金を投入できるように日本もすべきだという人が意外と多いが、本書において著者はそうした考えを明確に否定しているし、マイクロクレジット・プラスという考え方に立てば既に日本のODAでやられているプラスアルファの部分は多いと思う。そういうマイクロクレジット・プラス的取組みをもっと拡充していくことが、マイクロクレジット自体への資金投入以上に日本の援助には必要なのではないかと思う。

また、日本のODAに対して感謝をしてくれない国は可愛くないので援助しないという論調も時々目にするが、援助をチャリティではなく投資と考えれば、投資先の開発計画とその実施に対して資金の出し手がより深く関わっていくのは当然のことであるのに対し、チャリティで援助をあげておいて実施を相手国に丸投げというのでは、感謝されるどころか両者の間に大きな距離を置くようなものである。残念ながら、今の日本のODAでは援助を投資と捉えている人はまだまだ少ないように思う。
 
そういう意味で、本書はマイクロクレジットに関心がある人だけではなく、ODAに関わっているような人は是非読んでみるとよい本だと思う。ビジネスで成功を収めた人がその使い切れないお金を社会的貢献のために用い、それがマイクロクレジットに流れ込んでいるという大きなトレンドを実感させられる1冊である。

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コメント 3

降龍十八章

これが本当のブート・キャンプ~?
by 降龍十八章 (2007-10-31 12:28) 

Sanchai

いえ、結構真面目な本なんで…。
by Sanchai (2007-10-31 23:54) 

降龍十八章

なるほどstrapですか。
人の歩く早さの研究(lap)と勘違いしていました。
マイクロクレジットのことを知らないと、難しいようですね。
by 降龍十八章 (2007-11-03 10:05) 

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