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『開いて守る』 [読書日記]

開いて守る―安全・安心のコミュニティづくりのために

開いて守る―安全・安心のコミュニティづくりのために

  • 作者: 吉原 直樹
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 単行本
最近、僕はまちづくりの本を意識的に重点的に読むようにしている(そう見えないかもしれないけど)。理想は「老若男女共生社会」なのだが、どうもその実現に向けた具体的な方法論とか、それを阻む社会の風潮とか、もう少し理解を深めておいた方がいいかなと思うからである。本書の著者は東北学院大学の社会学の先生である。タイトルが全てを語ってしまっているが、安全・安心のコミュニティを形成について、ゲーテッドコミュニティのような外界から遮断された閉ざされたコミュニティの中での安全・安心の実現を図るようなアプローチが現在台頭してきているが、これは非常にアブナイ思想を内包しており、むしろ地域の構成員が全て参加したオープンなコミュニティ形成が指向される必要があると主張されている。
 
ゲーテッドコミュニティのような閉ざされた空間の中での安全・安心、或いは自治体や警察との連携によって街の至る所に監視カメラを設置して防犯強化を進めるという発想に、筆者は「監視社会の基本的構図」が見えるという。つまり、「一方で自己の生活の安寧を願うあまり過剰なまでにプライバシーに執着しながら、他方で個人情報が他者のまなざしにさらされるのを簡単に許し、結果として自らの自由が大幅に制限されるのを見過ごしている」(p.24)というのである。こうしたセキュリティを至上の課題とする社会形成の考え方は、「軽微な犯罪の放置がやがて重大な犯罪を招くとする割れ窓理論への強い依存にみられるように、自分たちにとって異質な者を不安の対象として排除し、社会的規範を積極的に受け入れる者からなる「閉じたコミュニティ」への傾斜を著しく深めている」(p.26)と著者は危惧する。別の言い方をすれば、「閉じるコミュニティ」は、「コミュニティが異質なものの接近を制御し、そうしたものに対する監視体制を確立するために役立つようなライフスタイル」(p.52)の確立を個人に対しても強く求めてくる。そして、これを受け入れる風潮の背後には、「自らのプロパティ(財産)を脅かされはしないかという不安とその保全に根ざした、生活保守主義的な排他的願望」(p.53)が渦巻いているとする。他者との関係性を断ち切り、自分さえよければ他で何が起きようと構わないという他者に対する無関心を招きかねないということだろう。
 
それに、街の至る所に監視カメラを設置するようなセキュリティ対策は金もかかるし、ゲーテッドコミュニティのような私的取組みもそこに入れる人にはセキュリティ対策への担応力(affordabilityとwillingness-to-pay)が求められる。「ゲーテッドコミュニティでは、人びとは自分たちの関心を囲い込まれた生活空間の内部で私的に充足する一方で、外側に生きる人びとについては、もっぱら自分たちの資源を奪おうとする他者として否定的に取り扱う傾向にある。そして、そうした他者が依存せざるを得ない「公共的なもの」を――貧困ゆえの無力をあらわすものとして――貶め、結果的には都市空間から公共的なものが離脱していく状況を促すのである。」(p.53)コストを負担できる人や地域には万全なセキュリティが提供されるが、そうではないところにおいては十分なセキュリティが提供されないという危険性がある。
 
逆に、「開いて守る」というまちづくりとは、「社会的出自もキャリアも違う異なった階層からなる、多様な人びとが地域に混在して生活しているという「開かれた世界」の現実を踏まえて、むしろ地域にとって異質にみえる者をも積極的に受け入れて、地域内外のさまざまな主体と多様な関係をつくり上げてゆくこと」(p.47)から始まり、その中から、「自分たちの地域の環境や福祉について考える枠組みをつくり、「地域力」の向上とか「地域の活性化」をはかること、そしてそうした実践を通して人びとの不安を取り除き、「安全・安心」へのたしかな展望をきりひらくことを何よりも大切にする」(pp.47-48)ことが指向されるべきであるとする。つまり、地域の全てのステークホルダーが参加し、相互に理解を深めつつ関係性を構築しながら進められるまちづくりは、地域の安全・安心の強化にも繋がるという考え方なのだと思う。
 
ただ、本書の弱点は何かといえば、「閉じたコミュニティ」の事例は幾つか述べられているものの、「開かれたコミュニティ」については、理想としての理念は度々繰り返されているものの、具体的にはどこでどのような取り組みが行われているのかについて言及がないことである。街に監視カメラを設置しつつ地域をあげたまちづくりが行なわれている先進的事例として愛知県春日井市が取り上げられているが、このように世間一般には評価もされている事例にまで危ない要素が内包されているというのが筆者の主張であるため、それでは春日井以上に筆者のお眼鏡にかなった事例がどこの何なのかがあまりよくわからなかった。

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