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市民講座「少子高齢化と日本経済」(第17回) [少子高齢化]

市民講座「少子高齢化と日本経済」(第17回)                                      「少子化と日本の財政―財政再建は先送りできない」                                                        講師:井堀利宏・東京大学大学院経済学研究科教授

11月11日(土)開催分。僕がこの講座の第1回に出席して輪講の日程案を聞かされた時、もっとも驚いたのは井堀先生の講義が聞けるということであった。僕が今の職場で官民パートナーシップ(PPP)についてレポートを書いた際に、井堀先生の著書を数冊参照にさせていただいたことがある。政府と自民党の税制調査会にも関係しておられる先生が三鷹に来ていただけるなんて、感謝感激である。

本日の学びのポイント                                                                                                                       今回の講座の中で、少子高齢化と財政負担の問題を真正面から取り上げたのは井堀先生の回だけであり、とても貴重な講義だと思う。                   

1.政府の財政再建の目標は2011年度におけるプライマリーバランスの均衡であるが、財政審議会に提出された試算によると、その実現のためには20065年度予算との比較において、全ての経費を一律で18%削減する必要がある。この18%削減を社会保障関係費にも適用すると、2011年度の社会保障は次のような姿になる。

  • 医療費自己負担は、現在の約2倍になる。
  • 介護費の自己負担は、現在の約2.5倍になる。
  • 基礎年金支給開始年齢は、現在の65歳から69歳に引き上げる必要がある。
  • 現在111万人分ある民間保育所は91万人分にまで削減される。
  • 児童手当対象は現在の6年生以下から、4年生以下にまで引き下げられる。

2.勿論、社会保障関係費の歳出削減を一定幅で抑えて、その他を一定率で削減する仮定もできる。その結果として、以下のような事態が起こり得る。

  • 公共事業は現在の6割の規模に縮減される。
  • 防衛費のうち、物件費は現在の6割の規模に縮減され、武力攻撃などの有事における対応や、災害派遣、不発弾等の危険物処理、領海・領空侵犯の監視などの平時の活動について必要な対応ができなくなる。
  • 国立大学の授業料は現在の2.7倍に、私学助成金は現在の6割の規模に縮減される。
  • 科学技術関係の政府研究開発投資は、現在の対GDP比0.70%から、2011年には0.41%程度に下落する。
  • ODAは、現在の6割程度にまで縮減し、2015年度にはほぼ半減となる。これは国際機関経由の支援等を除き、世界の全域にわたって、二国間援助をほぼゼロとする事態に相当する。
  • 治安関係では、国内不法残留者数が現状の18万人が、2011年度には27万人に急増する。パトカーの更新が遅延し、その台数の減少及び老朽化のため、レスポンスタイムは2004年の7分15秒が、2011年度には10分程度に、2015年度には30分程度に大幅に悪化する。

3.財政再建は待ったなしの状況である。無駄な歳出を削減し、増税も視野に入れておかねばならない。今の安部政権は、増税の議論は来年の参院選以後に先延ばししようとしている。政治の悪弊。

4.受益と負担のリンクがある程度明確になっていれば、国民負担率が高まってもその分の便益を実感することができるので、「大きな政府」であっても国民の支持が得られる。しかし、日本ではこのリンクがそれほど明確になっておらず、税率や保険料率などの表面的な負担がそのまま実質的な負担になるため、悪い意味での「大きな政府」に陥りやすい。

5.この受益と負担のリンクの明確化は日本の大きな課題である。その具体的な方策として、①地方分権化を進めて地方レベルで歳出と税収を対応させる、②社会保障に個人勘定を導入し、就労期の自分の保険料で老年期の自分の給付を賄うことなどが考えられる。但し、後者については、団塊世代が引退して受給開始年齢に入ってくると、団塊世代が損をすることになるため、政治的には実現困難という大きな課題がある。

所感                                                                                                                             1.これは、かなりショッキングな試算結果だと思う。個人的には、ODAで2015年度には二国間援助にまわせる資金をゼロにせねばならないという試算結果が最も衝撃的だった。まあ、援助に関してはどう使われているかわからんという厳しいご指摘も受けているわけだし、何でもかんでも国民の血税を使って援助でやらなければならないというわけではなく、NGOによる途上国支援や民間企業による途上国ビジネスをもっと活用していったらいいとか、援助による事業実施の中に官民連携の発想を導入するとか、より革新的な手法を考えていけば、少ない資金でも効率的な援助ができるのではないかと思うが。特に、受益と負担のリンクという点では、NGOを通じて特定国の特定地域の特定事業に出資するという発想の方が、自分のカネがどのように使われてどのようなインパクトを残したのかが目に見えやすいので、税金に比べて国民の抵抗感は少ないと考えられる。

2.さらに、公共事業費も大幅削減というのも大変だ。他方で、財政面だけではなく、公共事業の実施と維持管理に従事するエンジニアが定年を迎えて今後労働市場の需給が逼迫することが予想されるため、公共事業においても、公的資金のみで事業をファイナンスするだけではなく、民間事業者への市場開放といった新たな手法がもっと増えてくることが必要であろう。教育についても同様である。変に税金でなんでも賄うというのではなく、自分の子供を通わせている学校に特別基金を開設し、週何時間かの事業の運営に充当して対象校の教育の質的水準を上げるという発想であれば、資金を提供しようという気持ちは起こりやすいように思う。

3.政府の科学技術関連の研究開発投資の規模を縮小するということは、他方で高齢社会の大きな課題と言われている労働生産性の向上に資するような新たな技術が開発される余地がどんどん狭まっていくということではないかと思う。そうすると、経済成長の源泉となっている資本、労働、技術のうち、技術すらも期待薄ということになり、安部政権が唱えている「成長を通じた財政再建」も、実際には財政再建のために潜在成長率が頭打ちになるというジレンマを抱えているような気がする。

4.個人的には、井堀教授が提唱されていた「個人勘定賦課方式」というのは、負担と受益のリンクを可視的にするという意味でとても優れた構想だと思った。僕の子供達が負担した年金保険料は、親の僕達への給付のみに充当されるのであれば、子供を作ろうというインセンティブにもなるし、しっかりと育ててちゃんと年金保険料の負担に応じてくれるように仕向けようというインセンティブにもなると思う。現状は、折角僕達が子供達を育てたところで、彼らが将来負担する保険料は、子供をもうけずに大きな可処分所得を得て悠々自適の生活を送ってきた独身者や、子供をもうけないという選択をした家計の高齢者の年金給付を支援していると考えると、馬鹿馬鹿しくて子作りも子育てもやっていられないということにもなりかねない。大きな不公平感があると思う。実際、こうした個人勘定は、成熟社会における社会保障の制度設計で必ずと言っていいほど言及される構想であり、子持ちの世帯の主としては、大いに支持したいと思わずにはいられない。

ホント、感動的に面白い講義でした。


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