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ナイロビの蜂 [読書日記]

 

ジョン・ル・カレ著『ナイロビの蜂』(上・下)                                                          集英社文庫、2003年12月


内容(「BOOK」データベースより)
ナイロビの英国高等弁務官事務所に勤める外交官ジャスティンは、庭いじりをこよなく愛する中年男だ。礼儀正しく誠実な人柄で知られている。そんな彼のもとに、突然、最愛の妻テッサが、咽喉を掻き切られて全裸で発見されたという知らせが飛びこんだ。人類学者リチャード・リーキーの発掘現場に向かう車中で、何者かに襲われたのだ。静かな怒りとともにジャスティンは、真相解明に立ちあがる。                                                           美しい若妻テッサは、死の直前まで、熱心に救援活動をしていた。ジャスティンは生前の行動を克明に追うことから事件の全貌を解明しようと決意する。それはテッサの問題に、彼自身が向き合うことだった―第三世界に対する医薬品供与の恐るべき実態、官僚と多国籍企業の癒着、それを告発するNGO。いったい世界はどうなっているのか。冒険小説の巨匠ル・カレの到達点ともいうべき最高傑作。

ル・カレって、1960年代からスパイ小説を世に送り出してきている超有名な作家なのだが、驚くべきことに僕は初めて読んだ。扱っているのがアフリカにおける未認可医薬品の投与の実態であり、以前僕がブログでも紹介した帚木蓬生著『アフリカの瞳』でも述べた通り、先進国の製薬会社が途上国の貧困住民に特効薬と偽って投与するようなことは、実際に行なわれているのではないかと疑わざるを得ない。勿論、それがル・カレが描いたケニアで行なわれていると断言するつもりはない。

先週のシンガポール出張からの帰路で上巻を読み始め、この週末にようやく下巻まで読み切った。上下巻合わせると800頁近い超大作であり、読者の書評を読んでいると、ル・カレの描写の細やかさを評価する声の方が大きいのだけれど、僕はもう少しサクサク読める方がいいと思った。それに、僕はこのストーリー展開であれば残された夫ジャスティンが巨悪を暴いて妻の仇を取るという結末を実は期待していたのだけれど、最後の終わり方はハッピーエンドでは必ずしもなく、結局ジャスティンはテッサの追いかけていた真実を突き止める旅を追体験し、妻への愛を確認するという個人レベルで満足感を得る形で終わってしまっている。結局、悪は裁かれたのかどうかは全くわからない。800頁近くも読んできて結局これかという感じの終わり方だ。

勿論、アカデミー賞4部門にノミネートされた映画を観たらもう少し見方も変わるように思う。映画のことを知りたい方は公式HPをご参照下さい。DVDは11月10日発売予定だとか。

シンガポールで開催されていた世界銀行と国際通貨基金(IMF)の年次総会では、世界銀行のウォルフォウィッツ総裁が世銀の腐敗防止(Anti Corruption)への取組み強化を高らかに宣言した。勿論、この場合の腐敗とは主に政府の腐敗のことを指し、ガバナンス強化の必要性が再三にわたって強調されていた。しかし、その一方で、同時期にシンガポールで開催されていたセミナーの幾つかにおいては、腐敗防止に向けて先進国側も、政府だけではなく企業もまた襟元を正して真摯に取り組まねばならないとの指摘も見られ、マネーロンダリング防止策やグローバル企業のコーポレート・ガバナンス強化が叫ばれた。

こういう時期にこのような小説を読むと、途上国という現場だけではなく、先進国に住む僕達は、先進国に住みながらもそこにおいてできる取組みがまだまだ沢山あるように思える。丁度先週末、日本のODA資金の水増し請求がコンサルティング会社によって行なわれていたという報道がなされたばかりであるが、ODA絡みの不正だけでなく、企業の海外での取り組みにも厳しい監視の目が向けられることが必要ではないかと思う。                      


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