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『熱球』 [重松清]

重松清著『熱球』                                                           徳間書店、2002年3月


内容(「BOOK」データベースより)
20年前、町中が甲子園の夢に燃えていた。夢が壊れたとき、捨てたはずの故郷だった。しかし、今。母を亡くした父一人の家に帰ってきた失業中の男と、小学5年の娘。ボストン留学中の妻はメール家族。新しい家族の暮らしがはじまる。懐かしいナインの面々。会いたかった人々。母校野球部のコーチとして、とまどう日々。そして、見つけたのは。

巷は甲子園の高校野球大会で盛り上がっている。(我が故郷代表の岐阜商業は初戦敗退。岐阜城北が出てたらなぁ。)そこで、この夏休みの重松作品として、高校野球を題材にした『熱球』を取り上げてみた。

とは言っても、甲子園に出場するような強豪校の話ではない。様々な幸運に恵まれてフロックで県大会決勝まで行き、決勝戦前日に起きた不祥事によって、決勝戦辞退に追い込まれた高校球児とその女子マネの20年後を描いた作品である。主人公は当時エースだった「ヨージ」。不祥事のために郷土のヒーロー達は一瞬にして郷土の恥と罵られ、高校卒業と同時に故郷を後にする。しかし、長男であるヨージに対して母はいずれ故郷に帰って来るべきと型通りの期待を抱き、実家の家屋を二世帯住宅に改装した。やがて、妻の海外留学を契機にヨージは編集者の職を辞し、小学5年生の娘・美奈子とともに故郷に戻る。母は既になく、67歳になる父との3人暮らしが始まる…。

などと紹介してきたのだが、これまで読んできた著者の長編小説と比較すると、ちょっと面白さが理解できずに読み終えてしまった。主人公は結局故郷での生活に1年でピリオドを打つのであるが、なんとなくそうなるだろうなという結論が中盤で既に見えてしまい、なんでその結論を出すのに8ヶ月も引っ張るのか、どうしても理解できなかったのだ。このまま故郷で暮らすのか、高齢の父親を残して娘とともに東京に戻るのかを決めかねるのはわからぬでもないが、その決断をするまでの間、職探しもせず、家事手伝いと母校野球部の無償コーチをして過ごすのはどうかなとも思えた。

それと、現在の公立高校野球部の体たらく。今の高校球児にとっては甲子園ははるか彼方の「夢」にすらなり得ないというのが現実なのだろうか。公立高校ではフロックでも甲子園に出られない、本気で良い選手をリクルートし、設備を整えた学校でないと甲子園には行けないというのは、悲しい話である。でも、最近の甲子園大会を見ていると、有力校が実力通りに出場してくるという印象があり、甲子園を狙う強豪校と夢にもならない弱小校との二極化は昔に比べても拡大しているのかもしれない。

もう1つ、この田舎町(山口県の下関市ではないかと思うが)のあまりの寂しさ。都会の黄昏とは異なり、本当に何もかも無くなってしまうような寂しさである。


 砂浜に落ちていた流木に並んで座って、オレンジ色に染まる夕暮れの海を眺めた。

 海は凪いでいた。遠くで、島や船の明かりが瞬いている。海岸線の端のほうには造船所を中心に工場や倉庫が立ち並んでいるが、活気が失せているのは、ここからでもわかる。子どもの頃は真夜中でも造船所には煌々と明かりが灯り、風向きによっては僕の家にも鉄のぶつかる音やウインチのモーターの響きが聞こえていた。だが、もうそんな日々は訪れないだろう。永遠に。

 終わってしまった町だ。年老いていくだけの、ふるさとだ。(p.223)



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