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いまどきの「常識」 [読書日記]

香山リカ著『いまどきの「常識」』、岩波書店、2005年9月

 数年前、岩波新書で出ているある本を読んでいて、香山リカさんが『プチナショナリズム症候群』という著作をされていることを知った。「プチナショナリズム」という言葉をどのようなコンテキストで使っていたかというと、思考停止状態でとにかく「勝ち馬に乗れ」という行動が非常に目立ってきているとして、2003年の阪神タイガース優勝の際のファンの行動を引合いに出してきていた。

最近、世の中の論調が一方向に極端に傾いていることを示す事例がとても多いように思う。阪神もそうだが、今年の千葉ロッテの優勝、女子フィギュアスケートの浅田真央選手や安藤美姫選手の扱われ方、大相撲の琴欧州関、テニスのシャラポワ(フロリダ在住なのに何が「ロシアの妖精」か?)、競馬のディープ・インパクト等、スポーツに関しては何かと偏重報道が目立つような気がする。今年最も大きな政治上の出来事は9月の衆議院議員選挙での自民党大勝であるが、どちらかというと野党の方が総合的な政策面ではまともなことを主張していたと思うのに、郵政民営化だけを争点にして一点突破を図った小泉自民党に大敗を喫してしまった。ソネットのブログを読んでいて、世の中の右傾化がかなり進んでいるのではないかと思うことが多い。中国や韓国に対する論調も、批判的なものが多い。何もそこまでとは思うのだが、そういうコメントをすると十字砲火を浴びそうで、躊躇することが多い。反対意見が言いづらい雰囲気だ。

僕は毎朝テレ朝の「やじうまワイド」を長年見ているが、ここに出てくるコメンテーターは、殆どが同じベクトルのコメントをするので、それがコンセンサスになっているのかとの錯覚に陥ることが多いのがここ2年ほど気になっている。コメンテーターの間で意見が分かれると面白いのだが、そうはいかないみたいで、あれだけの面子を揃えながらコメントの冴えがないように思う。通説と見られる論調から大きく踏み外すようなコメントができないからだと思う。実際、本当は異論があるのだがという苦笑を顔に浮かべる大谷昭宏氏を見かけたことも何度かある。

香山氏の近著は、このような世の中でまかり通っていて議論をさしはさむ余地がないような「常識」的通説に対して、「私はそうは思っていない」という数々の疑問を呈せられている。常識を疑え、そして疑ったらspeak upする勇気を持とうというのが本書の主旨のようだ。本書で槍玉にされている「常識」の中には、僕は色々考えてもやっぱりそうだろうと思うものも含まれている。でも、「そういう見方もあるのだ」ということがわかってよいと思う。

何事も批判的に見直してみる作業は必要だと思う。その上で「勝ち馬に乗る」のも1つの考えだと思うが、大多数が勝ち馬に乗る選択肢に傾いているような現状、敢えて「逆張り」の発想にこだわってみるのも大切ではないだろうか。


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えみる

はじめまして。興味深く拝読させていただきました。
「勝ち馬に乗る」という行為は、本当に理解し、心から納得して賛同していることとも、また違うように思えますね。なし崩し的にイエス・ノーに挙手している状態というのか・・。
そのような選択材料を恣意的な形で与えるマスコミや政治のあり方にも問題はありますが、自分が呼吸をして生きている世界で、他人に踊らされるだけの一生はイヤですね。
by えみる (2005-12-30 14:28) 

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