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『地域力』 [仕事の小ネタ]

地域力―地方開発をデザインする

地域力―地方開発をデザインする

  • 編著者: 三好 皓一
  • 出版社/メーカー: 晃洋書房
  • 発売日: 2010/03/01
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
地域間格差、地方の疲弊が叫ばれて久しい。発展するには何が必要か、何をすべきなのかを模索しながら、コミュニティ・デザインの視点から地方開発を分析。「一村一品」運動で有名な大分県の事例を中心に、地方の再生と発展を試みる。

このところ、地域おこし関連の書籍を何冊か読み、このブログでもご紹介してきたが、それは当初1月25日に予定されていた大きな面談に向けた頭づくりの一環として行ってきた。今日がその当日ながら、残念ながらその面談の地が雪の影響で当日移動が困難になり、2月に延期せざるを得なくなった。でも、取りあえず今日を想定して、最後に慌てて読み込んだ1冊がある。それが今回の『地域力』と題した1冊だ。

但し、時間がなかったので、編著者が書いた序章と、編著者も含めて学者さんが書かれた第Ⅰ部の3章、それに、第Ⅱ部の事例報告のうち、今いちばん知りたかった大分・別府のハットウ・オンパクについて紹介されていた第6章と、オンパクも含む他の事例を総合して、「オンパク・アプローチ・モデル」と「アンテナ・ショップ・モデル」という2つの地域開発戦略のモデル化を試みている最終第8章のみ集中的に読んだ。

なぜオンパクかというと、このアプローチを参考にして、ブータンでも試行されている取組みがあるからである。経済省小規模零細企業局(DCSI)が主導で去年1月から2月にかけて、ティンプー、ハ、パロで行われた「Gakyed Gatoen(幸福の祭典)」と題したイベントで、約1カ月の一定期間内に100件弱の試験的、実験的プログラムをローカルパートナーとともに立ち上げ、これらをガイドブックとしてカタログ化し、空港やホテル、飲食店、スーパーマーケット等に配布している(下図)。

2017-1-6 GakyedGatoen.png

でも、お上が実施しているからか、フェスティバルと言っているわりに営業努力が十分とは思えない。また、ハで行われた昨年のGakyed Gatoenへの出店パートナーのプログラムのほとんどが、「ヒュンテ」という地元のソバを皮に使ったモモの調理体験で、あまり変わり映えせず、パートナー間の競争原理も働いているとも思えなかった。オンパクをモデルにしていると言いつつ、Gakyed Gatoenのどこがどうオンパクと違うのか、何が欠けているのか、欠けているのはブータンの特殊な事情なのか、ブータンでは政府が実施しているが、オンパクの場合の政府の役割は何だったのか、この際いったん原点に立ち戻り、オンパク・モデルというのをちゃんと理解しておく必要があるのではないかと考えた。

そして読んでみて良かった。Gakyed Gatoenが政府のトップダウン的に行われているのは違和感があったが、オンパク・モデルと比べてみて、「ハットウ・オンパク」のような実施機関がブータンにはなく、その部分も政府が担っているような構図になっているのがよくわかった。読んでいる途中から、年2回だけのオンパク実施のために、常設の実施機関を設けるなら、それ以外の時期に何を行い、収益を上げていくのかが課題なのではないかと感じたが、Gakyed Gatoenは年1回しか開催されていないわけで、これを常設の第三者機関に持って行くのはもっと難しいだろう。他に収益事業を持っているような企業があって、これが運営を行っていくような形になっていくといいのだろうけれど…。

また、オンパクが形成されていった発端がやはり地元若手経営者の問題意識にあり、「地域づくり」の運動として発展していったという経過も、おそらくGakyed Gatoenに参加しているブータンの企業家には欠けている視点だと感じた。少なくともティンプーやパロの場合は若い人が流入してきている状況だし、ブータンが人気があれば外国人観光客は必ず訪れる街だ。外部からの訪問者数が減って地元経済が立ち行かなくなるという問題意識は、ティンプーやパロの経営者は抱きづらいだろう。地域おこしではなく、自分の事業にベネフィットがあればいい、ぐらいの感じで参加してきているような気がする。

地元住民から湧き上がってくる問題意識というのがない状況で、スクラムを組んでオンパク・モデルやりましょうというボトムアップはなかなか生まれにくいかもしれない。むしろ、人口流出が起きている地域の方がやりやすいのかもしれないが、そういう地域はもともと総人口が少ないので、体験プログラムを何十個も容易できない難しさもあるだろう。また、他業務との片手間ではなく、地域ベタ張りで住民と対話をできるファシリテーターでもいれば、バラエティあるプログラムを幾つか用意できるようになるかもしれない。

それと、挿入口絵に載っていたオンパクのカタログのカッコいいこと! Gakyed Gatoenのカタログも徐々に改善してきているけれど、まだまだ各プログラムの醸し出すストーリーのようなものが見えるところまでには至っていない気がする。Gakyed Gatoenは一応Facebookのページを持っているが、もっと頻繁に更新されるべきもので、これもプログラム実施パートナーのヒューマンストーリーをもっと描いたらいいように思う。ウェブサイトの運営も片手間ではできない。見てもらうにはある程度の更新頻度が必要だし、そのためには取材も頻繁に行わないといけない。

そして、いったんプログラムに参加してくれた訪問客をきっちり確保して、つなぎとめていく工夫も!地域経済を回していくのは、外の人に来てもらうこと、できるだけ長く滞在してもらうこと、できればリピーターになってもらうことが必要なわけで、プログラムの質を上げるとともにバラエティの豊富さも確保し、さらにそれを「営業」していく努力も求められる。

考えれば考えるほど、トップダウンでやるには難しく、少なくとも地元発での運動にならないと、地域おこしにはつながっていかないような気がしてしまった。Gakyed Gatoenというプラットフォーム自体は非常に有用でポテンシャルもあると思うが、それを賢く使っていくには、地域側から湧き上がってくるものがないといけない。それが本書を通じて改めて痛感したところであった。

既に十分長ったらしい記述になってしまったので、第Ⅰ部のアカデミックな各章については、ここでは言及を割愛する。でも、結論となる第8章の冒頭にあった、「地方開発のためには、地方に住む人々や、地方の人々が形作るコミュニティの視点から開発を取上げ、地方の人々がよりよい生活を確保するために、従来の都市偏重の開発戦略とは異なる地方発の地域開発戦略モデルを構築していくことが不可欠である」(p.207)はその通りだと思う。

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