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『データの罠』 [読書日記]

田村秀著『データの罠―世論はこうしてつくられる』                                                                集英社新書、2006年9月


内容(「BOOK」データベースより)
巷にはデータが溢れている。「視聴率」「内閣支持率」「経済波及効果」「都道府県ランキング」等々…。新聞、テレビ、雑誌に何らかのデータが掲載されていないことはまず無い。そして私たちは、これらのデータからさまざまな影響を受けている。しかし、肝心のそのデータにどれほどの客観性があるのだろうか。実は、かなり危ういデータが跋扈しているのである。本書は、さまざまなデータを検証することで、データの罠を見抜き、それらに振り回されない“正しい”情報の読みとり方―データリテラシーを提案する。

旅の友といえば新書か文庫であるが、先週の国内出張の際にもう1冊携行した本がある。それが今回紹介する1冊である。帰りの新幹線の車中で相当読み進めることができたが、その後の2日間が慌しくて読みきるのに若干時間を要した。それでも、非常に面白い本であることには変わりないと思う。

本書をそもそも読もうと思ったきっかけは、本書が国別ランキングを鵜呑みにするリスクを扱っている点にある。同様に自治体ランキングにも興味があった。僕が今住む三鷹市は、日本経済新聞社が2年に1回行う全国市区行政革新度・行政サービス度調査で全国第1位になり、それなりに喜ばしいことではあるのだが、実感が湧かないと常々感じていたからだ。いったいどのような指標がこうしたランキング調査で含まれているのだろうか。

本書の構成を見ると、先ず世論調査をはじめとした様々な調査の問題点を指摘し、データ特有の癖、分析手法の問題、調査主体と調査対象者との癒着などをしている。そして、データをやみくもに信じる態度をとらず、データの罠を見分ける力、「データリテラシー」を身につけることを求めている。特に、本来公平で客観的な報道に努めるべきメディア関係者こそ、データリテラシーが必須であると指摘している。

本書では、三鷹にほど近い西東京市のエピソードが紹介されている。都市ランキングが下がってしまったことで対立候補に厳しく糾弾され、現職市長が落選したケースである。行政サービス度が2002年の15位から2004年に81位に総合順位が下がったことを糾弾されたものである。先述の三鷹市がトップにランクされた例のランキングであるが、その問題として、首長はこのランキングに無関心でいられなくなり、ランキングを上げることを意識し過ぎる施策がうたれがちであることが挙げられる。結局のところ、このランキングには近年自治体の間で話題になっている先進的な取組みをどの程度多く実施しているかが評価の分かれ目になっているそうであるが、日経が重要と考える指標に関する取組みがなされている自治体ほど評価されるということに過ぎない。結局のところ、日経の恣意的な指標操作にかなり左右されてしまうということである。日経はそこまでのリスクを勘案して指標を組み立てているのだろうか。

さて、最初の僕の問題意識に立ち戻り、国別ランキングについての評価について最後に述べておきたい。著者によれば、これも自治体ランキングと同様の問題を抱えているという。本書で扱っているのは世界経済フォーラム(World Economic Forum)が発表している「世界競争力報告」の国別競争力であるが、このランキングの場合、①国によって指標のウェートや使用するデータを変えている点、②指標の半分程度がアンケートによって決まる(しかも質問項目はかなり漠然とした内容になっている)点を指摘している。昔、米国シンクタンクCGD(Center for Global Development)が発表した「開発コミットメント指数(CDI: Commitment to Development Index)」で日本がなんで先進22カ国中ダントツの再開なのか、指標の内訳を調べてみたことがあるが、幾つか気になることがあった。指標の取り方、ウェート付け、集計方法、利用方法などである。

結局、こうしたデータは利用する人間がその計測方法やリスク、それを勘案した利用方法などについて適切な知識を持たないと、変な結果を招く恐れが大きいというこである。本書は非常に読みやすく、データリテラシーの重要性について指摘している。しかも、最終章は珍しくまとめのために紙面を割いており、user-friendlyな書き方である。市民が自己啓発を図る上でも格好の書籍である。


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