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巨大独占 [読書日記]

                                                   町田徹著『巨大独占―NTTの宿罪』                                                            新潮社、2004年8月


出版社/著者からの内容紹介
 民営化後約二十年、依然として電電公社時代の体質が色濃いNTT。だが、ITが国の生命線となっている現在、通信分野での非効率や遅滞は、経済・産業の衰退に直結していることを忘れてはならない。  独占に固執し、独占を武器に日本トップクラスの売上げ・収益を誇るまでになったNTTは、いまや日本経済を脅かす怪物となった──。

「NTTよ、そちもワルじゃのぅ…」と言いたくなる。1980年代に行なわれた国鉄や電電公社の民営化は、「民営化」とは言いつつ、実際には政府が株式を保有していたけれども、それを本当に「民営化」と呼べるのだろうか。そんな疑問を2年ほど前に公共事業の民間開放の勉強を少しした際に抱いた。同じ疑問を抱いた人は他にも大勢いたのだろうと思う。

NTTは1999年に分割され、NTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、NTTドコモに分かれた。しかし、巨大なネットワークインフラは、大きなネットワークを持つ者が競争上有利であることは言うまでもない。それなのに、NTTは競争者として参入してきた第二電電各社やソフトバンク等との相互接続において、独占力ゆえの高い接続料を要求してきた。外国の電気通信事業者と比べて競争力に乏しいので競争導入はそうした体力をさらに殺ぐといった理由で…。しかも、電電時代からの職員を多く抱えるNTTは、政治家にとっては大きな票田であり、政治力は絶大だ。

本書は、電電公社の民営化が行なわれた1980年代から現在に至るまで、NTTがいかに市場独占の保持、競争導入の阻害に努めてきたのか、ドキュメンタリータッチで生々しく書かれている。丁寧な取材、適切なネットワーク産業の構造への理解に基づいており、読み手に対する説得力は十分であると思う。惜しむらくはこの類のドキュメンタリーは、日を追うごとにその鮮度が落ちる。勿論、これまでの20年近くにわたって培われてきたDNAはそう簡単には変わらず、今情報通信産業界で起こっていることは、本書で詳述されているNTTの歴史の延長線上にある。

6月23日の日本経済新聞朝刊総合面に、政府・与党がNHKやNTTなど通信・放送分野の改革で正式合意したとして、以下の内容の記事を掲載している。


 政府・与党合意は4年後にNTTの完全分割論議を始めるとしたことで、NTT改革は半歩前進した。超高速インターネット時代にNTTが光ファイバー網を独占する懸念を両者が公式に認めた形になったからだ。

 総務相懇談会では、全国に光ファイバー網が敷設される2010年にNTT持ち株会社を廃止し、NTT東西など営業各社から、加入者回線を管理する部門を分離し、他の通信事業者と同じ土俵で回線を借りる仕組みを提案していた。

 これに対し自民党は、「完全分割はNTTの国際競争力を弱める」と反発。「10年ごろに検討」と時期をあいまいにするよう求めていた。双方の妥協の結果、検討時期は10年とするが、結論を出す時期はあいまいにして決着した。

 分割論議を始めるまでの間は、政府・与党は「必要な公正な競争ルールの整備を進める」とし、新規参入を加速させることで一致した。NTTの光ファイバー網を他の事業者に貸し出す条件が焦点になる。

 例えば貸出料金の接続料は現在月額で約5,000円。他事業者は接続料に一定額を上乗せして6,000円前後でサービスを提供しており、接続料が高ければ利用者の獲得に影響が出る。このため2008年度にも引き下げる方向で、今秋にも具体的な作業を始める見通しだ。

 政府・与党合意についてはNTTは、「今回の合意を受け止め、安心・安全なブロードバンド・ユビキタス社会の実現に貢献すべく、中期経営戦略の実現に取り組む」とのコメントを発表した。

 KDDIの小野寺正社長は「NTTの組織問題で10年という検討時期を明示した事は大きな意味がある。10年までの間は一層の公正競争ルールの整備を期待する」と評価した。


きっとNTTも自民党に相当なロビー活動を行なったのだろう。

ただ、読んでいると、悪いのはNTTだけではないような気もする。ただ単にNTTを弱体化させて強大な影響力を行使したいという郵政省も結構狭い料簡で電気通信政策を運営していたのだなというのもよくわかる。1994年から95年にかけての新電電とNTTとの間の相互接続ルールに関するトラブル時の郵政省の対応ぶりについて、筆者はこう述べている。

「いつのまにか、郵政省は「競争を導入する」という本来の政策目的を見失っていた。新規参入を促す環境を作り、競争を活性化する必要があるのに、当時の郵政省は「参入を阻み、独占を際立たせて、その独占を潰す」ことを狙っていたのである。郵政省が存分な権限を発揮するために、NTTの弱体化を図ろうとしている、そういう構図にすら見えてくるような情況となっていた。」(p.221)

今は世界の殆どの国が、民間通信事業者の参入を促して、通信費用を大幅に引き下げられれば経済が活性化されるということを常識と捉え、競争促進策に普請し、自らは事業者間の相互接続ルールの設定とその遵守状況の監視を公的セクターの役割と認識しているのに、郵政省は何をやっていたんだろう。そう考えると、独占企業による弊害もさることながら、本来果たすべき政府の機能を果たしていない国は経済活性化も難しいのではないか、そんな気がしてならない。


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