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『百年の藍』 [シルク・コットン]

百年の藍

百年の藍

  • 作者: 増山 実
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2023/06/28
  • メディア: 単行本
内容紹介
ジーンズに懸けた人々の百年にわたる物語。鶴来恭蔵は、故郷の岡山県児島から浅草に来ていた。車夫の政次のアドバイスにより、憧れの竹久夢二に奇跡的に会うことができた。しかし翌日の大正十二年九月一日、関東大震災に遭遇。親を亡くした娘りょう、政次とでしばらく避難生活をしていた。りょうと児島に戻るという時に、政次からアメリカの救援物資にあったズボンを受け取る。生まれつき色覚に異常があった恭蔵だがズボンの藍色に魅せられ、国産ジーンズを作りたいと考えるようになる。時代は進み、日本は太平洋戦争に突入し、鶴来家もその大きな波に巻き込まれた。戦後、世の中が激動する中で鶴来の会社を支えたのは、りょうだった。そして、彼女も日本でジーンズを作るという恭蔵の夢を忘れてはいなかった。ある日、鶴来の家をひとりの男が訪ねてきた。恭蔵の思いは、途切れることなく繋がっていた――
【コミセン図書室】
ちょっと前に成田成璃子『世はすべて美しい織物』をご紹介した。そちらは群馬県の桐生で昭和のはじめの頃から現在に至るまでの歴史をフィクションを織り交ぜて描いた作品だったが、今回ご紹介する作品は、岡山県の児島を中心とする国産ジーンズ開発の歴史を、大正12年(1923年)の関東大震災にまで遡って描いている。この2作品を間髪入れることなく読んでみると、似た構成になっており、両作品を同時期に図書館に所蔵したコミセン担当者にも、何か含むところがあったのではないかと感じざるを得ない。

国産ジーンズ開発の歴史については全く知らなかったが、昭和40年代は自分もボブソンのジーンズを履いていたので、なぜあの時代にボブソンだったのか、改めて考えるいい機会にもなった。途中で笠置シズ子の『買い物ブギ』が唐突に出て来たのには、朝ドラとのタイミングがばっちり合っていて、偶然以上の何かを感じた。それに、60歳になって生活の拠点を児島から神戸に移したりょうの生き方も、今同じ60歳を迎えて、定年延長の打診を断って会社を辞め、生活の拠点も東京から別の地に移そうとしている自分自身と重なるものを感じた。

「自分の信ずる途を行け」———そんな言葉が作品内で何度か出てきたかと思うが、僕も同じ心境だ。

ただ、100年かつ三世代も連なる年月を描くわりに、鶴来恭蔵が追い求めたジーンズの染めの技術の種明かしが、縁者の回想シーンとして最終盤になって語られたのにはちょっと拍子抜けした。竹久夢二や中原淳一の絵画を絡めた序盤と戦前戦中を描いた中盤の展開がものすごく書き込まれているわりに、終盤になってはじめて登場する三世代後の人物を中心とするストーリーがあまりにもサラッとし過ぎていて、ちょっと拍子抜けする終わり方だったなというのは残念な気がする。たぶん、回収されていない伏線が相当散らばっているような気もする。

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『午後の行商人』 [読書日記]

午後の行商人 (講談社文庫)

午後の行商人 (講談社文庫)

  • 作者: 船戸与一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/07
  • メディア: Kindle版
内容紹介
カメラマンを目指し、メキシコを旅する香月哲夫は、ある夜、暴漢に襲われたが、タランチュラと名乗る老いた行商人に助けられる。彼は、民族解放運動に揺れる南東部へ、行商の途中だった。香月は強引に頼んで旅に同行するが、タランチュラの真の目的は、冷徹・非情の復讐行だった! 直木賞作家による、灼熱の長編冒険ロードノベル。
【MT市立図書館】
20年ぶりぐらいの再読である。どういう状況で本作品を読んだのか全く記憶にないのだが、単行本の初版刊行が1997年らしいので、それから数年以内に読んでいるとしたら、多摩に住んでいた頃か、米国駐在時代に読んでいたことになる。多摩に住んでいた頃はそれほど読書好きではなかったので、可能性が高いのは、米国駐在時代に知人から薦められて読んだ可能性が最も高い。

それで、今さらなんで再読したのかというと、この夏、メキシコのチアパス州に1週間ほど行くことになったからだ。メキシコで行われるコミュニティの課題解決に向けたアイデア出しとソリューションのプロトタイピングを短期間で行うというデザインスプリントに参加を申し込んだところ、受理したとの連絡が3月2日に入った。開催地はメキシコ国内8カ所に分散されており、応募の際には第1希望から第3希望まで書けた。チアパス州での先住民女性グループの収入創出活動は、第1だか第2だかで希望はしていたが、僕の経験値から言って、「ドラフト指名漏れ」のリスクの方がはるかに大きい。だから、参加が認められたこと自体が大きな喜びだった。

それでチアパス州に行けるというのは、何かのご縁を感じる。

ただ、内容紹介にもある通りで、本作品を読むと、チアパス州って結構ヤバイところなのかと思えてきて、少々ビビッてしまった。勿論、作品の舞台は1990年代のサパティスタ民族解放軍の活動が活発だった頃のチアパスで、以後テロ活動などは行われなくなったとのことではある。それに、若干のネタばらしになってしまうけれど、本作品で本当にヤバいのは、サパティスタ民族解放軍ではなく、それを鎮圧するために公安組織が養成しようとした、インディオを主力とするバンディード(無法者)なので、反グローバリズムを掲げるサパティスタ民族解放軍の活動の反動勢力としては今は弱まっていると考えてもよいかも。

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『Notion 最強の仕事術』 [仕事の小ネタ]

Notion最強の仕事術

Notion最強の仕事術

  • 出版社/メーカー: シーアンドアール研究所
  • 発売日: 2022/07/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
Notionは「オールインワン・ワークスペース」と銘打っている通り、さまざまなツールの機能を包含したオンラインツールです。使いこなせると便利ですが、機能が多く、どうやって使ったらいいかがわかりにくい面もあります。そこで本書では、「Notionを使ってどのように仕事をするか」という観点でNotionの使い方を解説していきます。メモから始め、タスク管理、議事録、プレゼンテーション、情報収集、社内ポータルなど、実際に著者が所属している会社での具体例をもとに、わかりやすく解説しています。
【MT市立図書館】
昨年知己を得た方から、「プロジェクトのドキュメンテーションプラットフォームはいろいろ試してみたが、Notionが最も使い勝手がいい」と勧められたことがある。ここで言う「プロジェクトのドキュメンテーション」とは、短期間で行われるデザインスプリントのグループワーク―——フィールドワーク、アイデア出し、プロトタイピングという一連の作業を、参加者がどのように行い、何が学びでどんなアイデアが出され、どのような検討プロセスを経てグループで取り組むアイデアがまとまったのか、どのようなツールを使ってプロトタイピングは行われたのか、全てを文章に落とし込むというものである。

写真や動画の挿入は大いに結構。当然ながらプロトタイプを作ったら、設計データも併せて共有しようとなる。そしてこれらが公開されると、世界各国で同じような問題意識を持っていた人々がそれを参照し、それに各々の地元の文脈を加味して改編が行われ、それがさらに文章化されることで、さらに拡散していき、小さなイノベーションの輪がどんどん広がっていくのが期待されている。

従って公開は大前提。しかもグループで作業するので、皆が閲覧して、書き込みができると良い。

この、グループワークと公開が両立しているプラットフォームとして、僕はNotionの他に、Fab ManagerやFabble(ファブル)を使ったことがある。どれがいいのかはまだ良くわからないが、自分が関わったプロトタイピングのプロジェクトの情報共有プラットフォームが、あっちにもこっちにもあるというのは結構具合が悪い。自分はどのような人間で、これまで何を作ってきたのか、そのポートフォリオを1つのプラットフォームで見せられたらいい―――そう思っていたところ、GitとGitLabを使って自分のドキュメンテーションプラットフォームを作ってウェブ公開するという演習が始まってしまった。GitLabでバージョン管理している僕のウェブサイトには、自己紹介のページもあるし、グループワークのドキュメンテーションのページもあって、一応共同作業ができるようになってはいる。ただし、英語だ。

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『我が手の太陽』 [読書日記]

我が手の太陽

我が手の太陽

  • 作者: 石田夏穂
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/07/12
  • メディア: Kindle版
内容紹介
第169回芥川賞候補作。鉄鋼を溶かす高温の火を扱う溶接作業はどの工事現場でも花形的存在。その中でも腕利きの伊東は自他ともに認める熟達した溶接工だ。そんな伊東が突然、スランプに陥った。日に日に失われる職能と自負。野球などプロスポーツ選手が陥るのと同じ、失った自信は訓練や練習では取り戻すことはできない。現場仕事をこなしたい、そんな思いに駆られ、伊東は……。
【コミセン図書室】
芥川賞受賞作品、ないしは候補作品を読もうとするたびに、なんだか自分には合わないと感じることがこれまで多かった。どんな作品を読んだのかと訊かれれば、それほど多くはないのだが、読んだ作品はことごとく、僕にとっては読みづらく、それがあまり食指を伸びにくくしているところがある。だから、作品数が多くない結果につながっていると思う。

芥川賞受賞作品は、初読では理解がしづらく、よほどの動機がないと再読にもいたらないのだが、過去一度だけ再読に至ったケースがあった。「よほどの動機」というのがあったケースだが、再読で所見でのわかりづらさは多少払拭できた気がした。僕の読書の経験値が上がっていたのかもしれない。

勿論、今回は「候補作」であって、「受賞作」というカテゴリーを当てはめてどうこう言える作品ではない。ましてや初読なので、多少の読みにくさは覚悟はしていた。

でも、結果的には、面白かった。「溶接」のような地味(溶接工の読者の方がいらしたらごめんなさい)な作業の描写が、このような形で表現されるのだという新鮮な驚きがあったし、地味とは書いてしまったものの、溶接の仕事の奥深さというのを、自分なりに知ることもできた。

こういう作業でも文学作品の対象になり得るのだというのを知り、新鮮な驚きがあった。

同じ仕事を長く続けていると、自分なりの知りつくした気持ちになり、周囲のやり方がものすごくいい加減だと感じる経験は僕もしたことがある。周囲のやり方が許せない気持ち、さらにその許せない気持ちが言動になって表層化するのを抑えられなくなる状況、そしてそれを独りよがりだと誰かから咎められ、それでも忠告を素直に受け入れられない状況―――僕自身も経験があるし、同じような状況は、30年近くも主婦をして地域とつながってきている自分の妻にも最近感じるところがある。

本作品を読了した直後、妻と喧嘩しました。何がきっかけだったかというと、妻が周囲に押し付けようとする「市民としての正しさ」を、聴いていてつらくなったことでした。言っていることは100%正しい、でもそれが完璧にできる人はいない。本作品が影響していた可能性は大いにあります。

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『世界一やさしい「プチ起業」の教科書』 [仕事の小ネタ]

世界一やさしい「プチ起業」の教科書――3ヶ月で自然と月5万円稼げるようになる

世界一やさしい「プチ起業」の教科書――3ヶ月で自然と月5万円稼げるようになる

  • 作者: 上野 ハジメ
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2023/12/12
  • メディア: Kindle版
内容紹介
「プチ起業」は、元手もかからず、時間と場所も自由!オンラインで、あなたの知識やスキルを必要としている人に教えてみませんか?この本は、経済的に楽になりたいと考えている会社員や主婦が、起業、それも大それたことではなく、自宅で得意なことを人に教えるような「プチ起業」をして、自然と月に5万円、稼げるようになるお手伝いをする本です
【MT市立図書館】
先月後半ぐらいから「退職」の日を意識するようになり、それに伴う収入の落ち込みをどう軽減するかを考えることが多くなった。

そもそも早期退職の途を選んだのは、現在受講中のデジタルファブリケーション技能訓練と仕事の両立が難しいと思ったからで、退職後しばらくの間は、その訓練を終えるのが先決であり、収入の落ち込みは織り込み済で、当面は失業手当と退職金の取り崩しでなんとか暮らしていくしかない。小遣い稼ぎ程度ではあるけれど2つほどお約束している仕事があるため、4月に入れば開業届は取りあえず提出し、事業用口座や事業用クレジットカード等は作ってしまうつもりではいる。それでも、メインは技能訓練を無事に卒業することである。今働いていることによってどうしても自由にならない時間をすべてこの技能訓練に費やすことにはなるだろう。

―――と、そう思っていたのだけれど、最近、もうちょっと小遣い稼ぎ程度の仕事は4月に入ってすぐに積み上げていってもいいような気がしてきた。

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『昭和の青春』 [読書日記]

昭和の青春 日本を動かした世代の原動力 (講談社現代新書)

昭和の青春 日本を動かした世代の原動力 (講談社現代新書)

  • 作者: 池上彰
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/11/15
  • メディア: Kindle版

【MT市立図書館】
実用書を借りた時に、「チョイ足し」で借りたもう1冊は、池上彰さんの著書。意外と最近の刊行だが、今調べてみたら刊行日的にはそれより後の著書が2冊はあるようで、この人メチャ多作だなと思う。ネームバリューもあるし、語る内容もボリュームゾーンにうまく打ち込んでくる。年齢的には10歳以上年下の僕らであっても、この手の本は自分たちの少年時代から青春時代を回顧する上でたまには読みたくなる。そして、語り方も上手い。なんというか、記述にムダがない。

出せば確実に売れる。そう厭味ったらしく書いてはみたけれど、読みやすくて良書が多い。

うちの子どもたちを見ていて常々感じるのは、自分のことは語るけれど、他の人のことにはあまり関心がないという点だ。こちらが尋ねれば自分のことについては饒舌に語ってくれる。僕らは仕事を通じてそういうコミュニケーションの取り方を体得して来ているからか、自分のことを話すよりも、相手のことを聞き出す問いの方に注力する。

ところが、同じことが子どもたちの世代の子たちにはあまりできない。そもそも僕たちを相手にして、何かを聞き出そうというところにはあまり関心もなさそうだ。我が家の3人の子どもたちはいずれもその傾向がある。

だから、自分の親がどのように生きてきたのかには、ほとんど関心がない。たぶん、オヤジが鬼籍に入った時に、自分が受動的に見てきたオヤジの姿をもとにオヤジとの思い出は語れるかもしれないが、オヤジが当時何を考えていたのか、どうしてそんな行動を取っていたのかなど、訊かなければわからないような情報はたぶん取れていないだろうと思う。

今さら「オレの話も聴けなどと野暮なことは言うつもりはないが、オヤジやお袋がなぜあんなだったか、わからなければ昭和の時代をサクッと学べる本書を読めとは言いたい。こういう最大公約数的な時代背景や文化風俗・社会経済の成分が、僕らのその後の行動や生き方を規定した部分は相当大きいと思う。

同様に、僕自身の父や母が生きた時代を改めて理解するのにも、本書は有用だった。「チョイ足し」とは書いたけれど、なかなかいいインプットにはなったかな。

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『世はすべて美しい織物』 [シルク・コットン]

世はすべて美しい織物

世はすべて美しい織物

  • 作者: 成田名璃子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/11/17
  • メディア: Kindle版
内容紹介
染めて織る、私の物語を織り人たちの「業」と「歓び」が織りなす、新たな感動作の誕生。〈桐生の養蚕農家の娘として生まれた芳乃〉と〈東京でトリマーとして働く詩織〉。伝説の織物「山笑う」をめぐり〈昭和〉と〈現代〉、決して交わるはずのなかった、ふたつの運命が、紡ぎ、結ばれていく――。抑圧と喪失の「その先」を描く、感涙必至のてしごと大河長編。
【コミセン図書室】
コミセン図書室で物色していて、タイトルにあった「織物」というワードと、内容紹介にあった「桐生」「養蚕」というワードに惹かれて手に取った1冊。装丁もきれいだなと思った。読み進めていくうちに、昭和10年代の桐生に「ブータン」の織物があったというのに驚かされた。一期一会というのはこのことだ。「織物」というキーワードがあったにせよ、たまたま手に取った本に「ブータン」が出てくる僥倖。ただ、その織物がどんなだったかはイメージがしづらい。「山」シリーズの織物の起源がそのブータンの織物にあったとする展開だったので、余計に気になる。

よく練られたストーリーだった。読めば織物の街、刺繍の街・桐生の歴史がわかるし、戦後の地域経済の復興をスカジャン刺繍が支えたという話も学べる。読んだら一度桐生に行ってみたいと思うに違いない。僕も、この本を読んで、今月末に退職して時間ができたら、機会を見つけて桐生には行ってみたいと思う。

さらに感動したのは、装丁がなぜそうなっているのかが読んでて最後にようやく明かされるというストーリー展開になっていたことだ。ストーリーの半分を占める戦前戦中の桐生での話は、養蚕農家から桐生の商家に嫁いだ芳野のお話なので、家蚕から絹糸を引いて、それに草木染の技法を駆使して色を付け、それを織りに仕上げていく工程が前提となっていた。だが、裏表紙にある薄緑や藍のグラデーションが入った繭は木の枝からぶら下がっており、明らかに野蚕の繭である。大半のストーリーに野蚕シルクは出てこないので、このギャップがどうつながるのか怪訝に思いながら読み進めたら、最後の最後になって「天蚕」という名で野蚕の繭が出てくる。

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『起業家ナース』 [読書日記]

起業家ナース

起業家ナース

  • 作者: 大石 茂美
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2023/02/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

内容紹介
何かを始めるのに遅過ぎることはない!介護士が笑顔で働ける施設をつくりたい――51歳、ベテラン看護師の遅咲き起業物語
【コミセン図書室】
先々週末にコミセン図書室に行って、性懲りもなく3冊も借りてしまったものだから、返却期限までに読まなきゃと、すき間時間を利用した読書が続いている。本書も、なんとなく借りずに帰るのは淋しいからというようなはっきりしない理由で借りてしまったので、なんでこんな本を読んでいるのかと訊かれても、積極的な理由はない。適度な薄さだったし、表紙のイラストを見てたらちょっと元気をもらえそうだった。このイラストの看護師さんと目が合ってしまったとしか言いようがない。

これも、前回ご紹介した畠山織恵『ピンヒールで車椅子を押す』と同じビジネス書だ。しかもこの2人の著者はいずれも関西人で、起業もしておられて、ちゃんとした自社のウェブサイトも持っておられる。分野は障害者福祉と看護介護とで違いもあるけれど、多分本を出された動機はいずれも起業とともに行われる事業広報の一環だという印象。いわば、「名刺代わりの1冊」というやつだ。

苦労しながら今に至るという体験談は、読んでいて面白い。本書の著者も、51歳で介護事業所を事業継承するまでは、わりとあっち行ったりこっち行ったりというのが続いた。勤め先の先々での苦労やそこを辞めて次のステップを踏み出すまで考え方といったものは、読んでて参考になるし、お話の中に引き込まれていく感覚があった。

ただ、その介護事業所をM&Aで事業継承する話は、いきなり唐突に出てきて、誰がどのような経緯でこの話を著者に持って行ったのか、著者がどのような判断でこの事業所を継承することにしたのか、全然わからなくて、著者のご経歴の中でも、その部分だけは謎が多くてあまり共感できなかった。売り手の挙動を見ていれば訳あり物件なのは明らかなのに、それでもあえて購入する判断がよくできたと思う。しかも、事業継承後事業所に乗り込んでからの苦労話も、結局のところ、スタッフは著者の経営方針に対して賛同して一緒に歩んでくれるようになったのかどうかがわからない。スタッフの心をどうつかんだのか、事業所の黒字転換の話は書かれているが、スタッフの支持をどう受けたのかの記述が薄めで、ここもあまり共感できなかったポイントである。

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『ハンダづけをはじめよう』 [仕事の小ネタ]

ハンダづけをはじめよう (Make: PROJECTS)

ハンダづけをはじめよう (Make: PROJECTS)

  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2018/08/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

内容紹介
本書は、エレクトロニクス(電子工作)初心者のためのハンダづけ入門書です。独学で電子工作を学ぶ読者を対象に、さまざまなハンダづけの手法の紹介に始まり、ハンダごてやハンダなど必要な道具の選び方、そして実際のハンダづけの手順、失敗した際の対処法まで、詳しく解説を行い、初めてのハンダづけへの不安を取り除きます。さらに上級者のためには、表面実装部品のハンダづけ方法も解説。日本語版ではテクノ手芸部によるオリジナル作例(紙箱で作るハンダの煙吸い取り器、暗くなるとほんのり光る小さなライト)を追加しました。
【MT市立図書館】
現在受講中の研修の先々週の演習課題で、回路基板を作るというのをやったが、あまりにもハンダづけで苦戦を強いられた。最大の問題は老眼が進む左目と、乱視が進みすぎてものがぼやけてしか見えない右目の組合せだと、ハンダとハンダごて先と、それにランド(またはパッド)の焦点がうまく合わせられず、狙ったところにハンダを落とせない点にあるが、それに加えてそもそもハンダづけをあまりやらずにこの年齢に至ってしまったという点にも、僕の弱点があるように思う。

練習すれば誰でも上達するとされている以上、僕ももっとハンダづけを多くやる必要があると思う。中学校の技術家庭科でラジオやハンダごてを自作するという演習をやって以来、僕がハンダづけをやったことといったら、高校卒業後20年経った38歳の時と、さらに17年が経過した55歳の時の二度しかない。当然、今回やった演習など、ハンダづけは初心者と同じ感覚で、最初からうまくいくわけがないのだ。

もっとやるしかない。当然、本書日本語版に収録されている作例もやってみるまで、本書はお借りしています。


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『人脈もお金もゼロですが、社畜で生きるのはもう限界なので「起業」のやり方を教えてください!』 [仕事の小ネタ]

人脈もお金もゼロですが、社畜で生きるのはもう限界なので「起業」のやり方を教えてください! (ASUKA BUSINESS 2274-8)

人脈もお金もゼロですが、社畜で生きるのはもう限界なので「起業」のやり方を教えてください! (ASUKA BUSINESS 2274-8)

  • 出版社/メーカー: 明日香出版社
  • 発売日: 2023/05/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
◎本書は、企業への「第一歩」を踏み出すための最適な入門書です!本書の著者は、連続起業家として次々と起業を成功させつつ、教育の現場でビジネスも教える立場である福山氏と、サラリーマンとして働きながら会社をやめたいと考える堀田氏がタッグを組み、物語風に展開されます。

堀田氏は、「このまま歯車として働き続けても将来が不安…」「わずらわしい人間関係にうんざり…」「でも、会社をやめたら生活できない」という思いのもと、福山氏からさまざまなアドバイスを受けて成長していきます。

福山氏が、起業の苦労や楽しさ、ビジネスの勘所はもちろん、お金のリアルや驚きの夢まで、率直な語りで打ち明けているため、これから起業する人は必ず参考になる内容です。
【MT市立図書館】
長すぎるタイトル…。これでタイトル検索でちゃんとヒットするのだろうかと疑問になる。

何の脈絡もなく、いきなり起業の本を読んだ。脈絡がないわけではないか。このブログでも時々述べている通り、僕は3月末で今の会社を早期退職することになっている。退職の話をすると、「4月以降どうされるんですか?」という質問を必ずと言っていいくらいに受ける。有給休暇消化中の今も忙殺されている研修受講は7月まで続くので、たぶん、会社に行かなくなる以外は今の生活パターンが研修終了する7月中旬頃までは続くのだと思う。

だから、「当面はプーです」と答えるのだが、たいていの場合怪訝そうに見られる。また、僕自身も、4月以降しばらくは失業手当で食っていってもいいかなと思わなくもないが、いろいろなセミナーや催しものに出ようと申し込むと、「所属先」が必須アイテムとして記入が求められるのと、会社を辞めても連絡先代わりとなる名刺ぐらいは欲しいとも思ったので、個人事業主になる手続きぐらいは年度内に済ませておきたいと考えるようになった。

それに、4月以降の収入が完全にゼロになるわけではなく、少額だけれどお声をかけていただけたお仕事もある。だから、仕事がらみの収入と支出は、別のアカウントで分けて把握しておいた方がいいのではないかとも考えた。

というわけで、事業主になるにはどうすればいいのかを知るために、この期に及んで起業のほ本を借りることにした。

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