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『モディが変えるインド』 [インド]

モディが変えるインド:台頭するアジア巨大国家の「静かな革命」

モディが変えるインド:台頭するアジア巨大国家の「静かな革命」

  • 作者: 笠井 亮平
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
「SNSフォロワー数世界一のリーダー」といわれる第18代首相の姿を通して、現代インドの政治、経済、社会、外交を概観し、南アジア情勢と日印関係を気鋭の研究者がわかりやすく解説する。

理由あって今はブータンにいる身であるが、古くからのフォロワーの方々には、「インドはどうなったんだ」とお叱りを受けそうなので、久々にインドネタで行かせてもらおうと思う。(…と言いつつ、今僕はインドに来ている。1泊だけの予定で。)

最近のインド本って全然読んでいないので、久しぶりにインドに来るにあたって、1冊ぐらい最近出た本を読んでおこうと思い、キンドルでダウンロードした。今のインドの政治経済外交と、そこに至るまでの経緯をおさらいするには良い本だと思う。

以前、僕は突然来られた方に、「ブータン情勢を10分で話せ」と急に要求され、しどろもどろになってるうちに、「お前じゃ話にならん」と怒られ、お客様をご立腹の状態でお帰しした苦い経験がある。自分よりもずっとご年配の方に、急に来られて「ブータン情勢」と言われて、その時は何をどう10分でまとめればいいのか全く頭の中が真っ白になってしまったが、この本を読んだら、ああ「情勢」と訊かれた場合は政治、経済、外交あたりをそれぞれ1トピックぐらいでさらっと喋れば10分で及第点が付くのかなと思った。僕がブータンでの仕事を終えて日本に帰って「喋ってくれ」と頼まれた時の話の枠組みとして、この本は参考にしたいと思う。

さて、その本の紹介文の中から、あえて「社会」を外したのは、紹介文が言うほど、「社会」っぽさが感じられない記述だったからだ。日本大使館で専門調査員をご経験されたインド研究者の方が書かれた本だと聞けば合点がいく。大所高所の記述、いかにも首都からものを見ているという記述になっていて、市井の人々の暮らしがなかなか見えない。むしろ政治経済の中枢をウォッチしてきた人でないと書けない内容で、その点では本書はとても有用だと思う。でも、南インドや北東州から見たデリーはどうなのかとか、それぞれの地域の情勢まではわからない。

また、僕自身がブータンにいるから余計に思うのだが、もうちょっと西ベンガルやアッサムの情勢について詳述された本でもあったら本当はいいのになと思ってしまう。ないものねだりだとわかっちゃいるが。

そもそもインドを200頁少々の本の中で語れというのは難しく、読者だってインドの何を知りたいのかという関心はそれぞれ違うから、それに1冊の本で答えるというのはとてつもなく困難な仕事だとは自分もわかっている。全国紙だって数紙あるし、地方紙でもそこそこ購読者数があるのだってある。各々視点やポジショニングも違うので、それらを全て読みこなして分析して行くのでも大変な作業である。しかも、デスクリサーチだけやってれば事足りるというわけでもなく、政策ウォッチャーや政権中枢にいる影響力のある人々にも食い込んでいないといけないわけだし。

でも、最大公約数的に、インド駐在を命じられた企業マンが取りあえず最初に読む本、あるいは、駐在員生活を終えて日本に帰られた方が「インドについて話してくれ」と言われた時に、自分自身の見聞だけに頼らないで、ある程度無難にインドについて知ったかぶりをするには、こういう本はネタ本として極めて有用だろうと思う。

さあ、そんな感じで復習したので、僕はこれから街に出ようか!

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今年のマグサイサイ賞受賞者は… [インド]

2016年に青年海外協力隊、2017年には上智大学の石澤良昭元学長が受賞され、日本人としては割と身近に感じるラモン・マグサイサイ賞。今年の受賞者に、一見、「ブータン人?」とおぼしき名前があった。

ソナム・ワンチュク―――。残念ながら、ブータン人ではなく、ラダック生まれのインド人ということである。インドのメディアは、今回の受賞を既に大々的に報じているが、今年のインドからの受賞者は同氏の他にもう1人(バラット・ヴァトワニ氏)いるが、どう見てもソナム・ワンチュク氏の取り上げ方の方が大きい。それはなぜかと言うと、アーミル・カーン主演で2009年末から公開され、インドで大ヒットした映画『3 Idiots』(邦題『きっとうまくいく』)の主人公、ランチョーのモデルがソナム・ワンチュク氏であるからだ。


ソナム・ワンチュク氏を有名にしたのは「氷の仏塔(Ice Stupa)」だ。冬場に導水管から水を散布して、円錐状の氷の塊が形成されていく。この形状だとなかなか溶け切らないので、春から夏にかけての農繁期の水不足の軽減に役立つのだという。マグサイサイ賞受賞がきっかけなのかどうかわからないけれど、この氷の仏塔は日本語スーパー付きの動画でも紹介されているので、それをご覧下さい。結構衝撃的である。これがレーあたりでできるのなら、こういう装置が役に立ちそうなブータンの高地民集落もあるかもしれない。(労働許可証保有者は行かせてもらえないからわからない。)


ところで、マグサイサイ賞を過去に受賞したブータン人っているんだろうか―――それが気になって過去の受賞者リストを調べてみたけれど、残念、一人もいないことがわかった。特段の理由があるわけではなさそうなので、将来的に受賞者を輩出する可能性は十分あると思うが。何人かはひょっとしたらと思わせるような候補者は思い付くのだが、この「氷の仏塔」を見ちゃうと、まだまだ先だろうなという気持ちにもなってしまう。

『3 Idiots』をまた見てみたくなった。まあ、ブータンにもDVDを持ってきているぐらいだから、見ようと思えばいつでも見られるのだけれど(笑)。

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7 Dreams to Reality [インド]

7 Dreams to Reality: Transforming Indian Manufacturing

7 Dreams to Reality: Transforming Indian Manufacturing

  • 作者: Shoji Shiba
  • 出版社/メーカー: Penguin Books India
  • 発売日: 2013/12/01
  • メディア: ハードカバー
内容紹介
インドの製造業を変革するにはどうすればよいか?日本の経営学者でインドのパドマシュリ表彰受賞者である司馬正次教授が、インド製造業の7つの模範的な牽引役の事例をもとに、私たちの問いに応えてくれる。本書は、2004年にインド工業同盟(CII)の招聘でインドを訪れて以来続いているインドの製造業との関わりについて、その経験を振り返る。JICAの協力も受けて、CII、技術者養成課程を持つインドの大学等とともに、インド製造業におけるビジョナリー・リーダー育成のためにVLFMプログラムを立ち上げた。ブレイクスルーマネジメントの原則に焦点を当て、顧客の声を聞く、変化を予期し準備する、従業員や社会全体を見据えるという、シンプルなメッセージを有する。ブレイクスルーマネジメントの先駆者である司馬教授は、経営学の専門用語とは違う簡単な言葉で、この原則を適用した7つのストーリーで、製品開発や組織変革に新たな道を切り開いたケースを紹介している。その感動的なストーリーは、製造業に限らず、飛躍的な成功を目ざす私たち一人一人に共感を与えるだろう。

2013年に出たこの本は、当時このプロジェクトに関わっていた方からお裾分けいただいていたのだが、その時の僕はインドと関わりのほとんどない超多忙な部署にいたことから、すぐに読み始めることができなかった。ブータンに来て間もなく2年になるため、年明けから続けている蔵書の在庫一掃の一環で、この本も読んでしまうことにした。この直前に読んでいた英語のペーパーバックとは違い、本書は1週間程度で読むことができた。最後の約30頁は、先週末にハで民泊して、ネットにもつながらない静かな環境の中で、集中して読むことができた。

司馬教授の書かれた本は、実はこれで2冊目になる。2003年に『ブレークスルー・マネジメント』という本を出されていて、僕はそれを2010年に読んでいる。リーダーにとっての現場主義という記述が非常に心に響いたようで、そこの部分のみ詳述したブログ紹介記事となっていた。

この点は2004年から始まっている著者のインドとの関わりの中でも再三強調されている。2004年からはラーニング・コミュニティという名称で始まった相互学習機会は、その後2007年からはJICAの製造業経営幹部育成支援プロジェクト(VLFM)としてよりシステマチックに展開されていった。本書は2004年からVLFMがプロジェクト期間終了を迎える2013年までの約10年間でインド製造業に起こった7つのブレークスルーの事例を取り上げているが、どれも経営者が「金魚鉢に飛び込む」というところから始めている。

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生体認証付き個人識別番号制度の進捗 [インド]

ブータンに住んでいると他人事のような話だが、このブログでは昔インドのことをやたらと紹介していた時期があったので、その頃からこのブログを読んで下さっている読者の方もいらっしゃるかもしれない。この生体認証付き個人識別番号制度(アーダール)も、構想が浮上してきていた2009年頃にはブログで取り上げたことがある。このたび、在インド日本国大使館からのメール配信で、アーダールについての注意喚起があったので、転載させてもらうことにした。

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生体認証付き個人識別番号制度(アーダール)に係る情報について
(重要なお知らせ)

2017年11月28日
在インド日本国大使館

 現在インド政府は、インド国内居住者(resident)に対し、銀行口座を所持するにあたり、生体認証付き個人識別番号(アーダール:Aadhaar)を取得することを義務付ける方向で検討を進めています。これに対応するため、下記2及び3のとおり、アーダール番号の取得のための申請手続きをお早めに行うこととをお勧めしますので、関連情報をお知らせ致します。
 アーダール(Aadhaar)とは、インド固有識別番号庁(UIDAI)が2010年に導入した国民ID制度であり、インド全国民を対象に12桁の固有番号を付与し、国民一人一人の名前、住所、性別、生年月日、顔写真、目の虹彩、手の指紋(10指)を関連付けた上で、生体情報付き国民IDカードとして配布するものです。

1 これに関連し、インド財務省及びインド準備銀行(RBI)は以下の通り、同番号と銀行口座を関連付け(linkage)するよう通達を発出しております。
(1)財務省通達(6月1日)
ア 銀行の顧客が個人の場合、顧客がアーダール番号に「登録資格のある(eligible to be enrolled)
な者」(注)であれば、アーダール番号及びPAN番号(10桁の納税番号)を提出しなければ
ならない。銀行の顧客が法人の場合、会社設立証や定款等に加え、(取引の代表者として弁護士
が手続きをする形で)会社の役員や職員等に対して発行されたアーダール番号及びPAN番号を
提出しなくてはならない。
(注)登録直前の12ヶ月間において、インドに182日以上居住している個人(2016年アーダール法
(Aadhaar act))。
イ 但し、当該顧客が(銀行との取引時点で)アーダール番号を割り当てられていない場合には、
代わりに登録申請の証明(proof of application of enrolment)を提出しなければならず、また、
PAN番号が割り当てられていない場合には、代わりに公的証明文書(officially valid document)の
コピーを提出しなければならない。
ウ アーダール番号及びPAN番号の取得が可能な顧客は、(ア)当該通達の公表後に新規口座を開設する
場合には、口座開設から半年以内に、(イ)当該通達の公表以前から口座を有している場合には、
12月31日までに、アーダール番号及びPAN番号を銀行に届け出なければならない。
エ 顧客がアーダール番号を、上記「ウ」の期限内に銀行に対して提出しない場合には、提出される
までの間、当該顧客の口座は停止(cease to be operational)されるものとする。
(2)インド準備銀行(RBI)による通達(10月21日)
アーダール番号と銀行口座の関連付けは義務(mandatory)であることを、明確にする。

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タグ:電子政府
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ゴラクプールの怪奇熱病2 [インド]

1週間ぶりにブログをアップしようと思ってここ10日間ほどの新聞記事をザッピングしてみたけれど、ブータン絡みではあまりピンと来るものがなかったので、ちょっと別の報道を取り上げてみたいと思う。

インド 入院中の子ども30人が突然死 州政府が調査
NHK News Web、8月12日 6時23分
インド北部の病院に日本脳炎の治療のために入院していた子ども30人が突然死亡し、州政府が原因の調査に乗り出しました。
インド北部ウッタルプラデシュ州の政府によりますと、ゴラクプールにある公立病院で、10日から11日にかけて、入院中の5歳から12歳ほどの子ども30人が相次いで死亡しました。
この子どもたちは、蚊によって媒介される日本脳炎の治療のために入院していましたが、突然、死亡したということで、州政府が原因の調査に乗り出しました。
州政府によりますと、患者の酸素吸入器に使われる液化酸素の供給が、業者への支払いが遅れたため止められていたという関係者の証言がある一方、それを否定する医師もいるということです。
州政府から病院に派遣された調査チームは、関係者から話を聞くなどして当時の状況を詳しく調べるとともに、病院の対応に問題がなかったかについても調査しています。

NHKですら報じている話であるが(他の日本のメディアは報じていないけど)、この11日時点での報道よりも事態は悪化していて、13日のインドの報道では、犠牲者の数は79人にも達している。インドの報道は「大量殺戮(Massacre)」という言葉すら飛び出している。

これだけ読んだらババ・ラーガヴ・ダス医科大学(BRDMC)による医療事故のように見えてしまうのだが、考えてみると、なんでこんなに多くの子どもが日本脳炎の治療のために入院しているのかというそもそものところの疑問にも行きつく。

実は、「ゴラクプール」と聞いた瞬間、2011年に書いた「ゴラクプールの怪奇熱病」という記事のことを思い出した。この地域では毎年起きている風土病のようなものらしく、日本脳炎なのかエンテロウィルスによる症状なのかが判別しにくいことも治療を難しくしているようで、今回の事態を聞いて、6年前と比べてもあまり状況が変わっていないのだなというのにはちょっとガッカリさせられる。

確かに直接の原因は液化酸素の供給が止まっていたことにあるのかもしれない。毎年モンスーン期には発生している状況なのに、酸素供給に支障をきたすような状況を作ってしまったのは病院の落ち度かもしれない。でも、なぜ毎年この地域に熱病が発生するのか、予防措置は打てなかったのか、というところも冷静に見て欲しい。こういう状況が毎年起きていては、北インドの出生率は下げられないだろう。

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火を噴くダージリン [インド]

インド(西ベンガル州ダージリン):大規模デモに関する注意喚起
【ポイント】
◆西ベンガル州北部のダージリンでは、ネパール系住民が自治州の設立を求めるデモを拡大させており、死傷者も出ておりますので、不要不急の渡航を控えるとともに、既に滞在中の方は十分注意してください。
◆現地治安当局は同地に滞在中の旅行者に対して、宿泊先のホテル等に待機し、極力外出は控えるよう呼び掛けています。
【本文】
1.西ベンガル州ダージリンでは、「ゴルカ人民解放戦線」(GJM)を支持するネパール系住民が自治州の設立を求めてデモを拡大させており、警官隊との衝突による死傷者が発生しています。今後、これらのデモが更に過激化する可能性も排除できません。また、同地域では継続的にゼネストが実施されており、病院、学校、銀行を除く公共機関、交通機関、商店等の営業が停止しています。
2.現地治安当局は同地に滞在中の旅行者に対して、同地に留まる場合は宿泊先のホテル等に待機し、極力外出は控えるよう呼び掛けています。
また、同地からの退去を希望する旅行者に対してバス等の移動手段を提供しています。
3.つきましては、西ベンガル州ダージリンへの不要不急の滞在・渡航は控えるとともに、既に滞在中の方は、無用なトラブルに巻き込まれることのないよう、決してデモに近づかないようにしてください。外出の際にはデモが行われている場所を避け、デモに遭遇した場合には速やかにその場から離れるなど、安全確保に十分注意を払ってください。また、現地治安当局等からの指示がある場合にはこれに従うと共に、報道等から最新の関連情報の入手に努めてください。
(以下省略)
外務省海外安全ホームページより(http://www.in.emb-japan.go.jp/files/000266077.pdf

以前、インドに駐在していた時、「独立できるかテランガナ」という、当時のテランガナ州独立運動について情報整理してブログで紹介したことがある。この時はなんだかとんでもないアクセス数を記録してしまい、通算PV数約3,500件というのは、僕のブログの中でも五指に入る、最も読まれたブログ記事の1つとなっている。

その後テランガナ州はアンドラプラデシュ州からの独立を果たしたが、本来テランガナ州独立運動よりももっと長い歴史のあるゴルカランド州独立運動も、いつ火が噴いてもおかしくない状況の中にあったと思う。僕がこの記事を書いたのは2009年。その時点で102年の歴史があるといえば、ゴルカランド州独立運動は、今年で110年目という長い歴史のある議論なのである。

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『ゲリラと森を行く』 [インド]

Touch the GOND 巡回展【東京・表参道】
 ゴンド画(GOND ART)は、インド中央部マディヤ・プラデーシュ州の先住民族によって描かれる伝統的な民族画です。元々は家の外壁に描かれていた絵ですが、ここ数十年の間に紙やキャンバスの上で表現されるようになりました。
 ゴンド画の特徴は民族に伝わる神話や寓話、森の動植物をかたどったユニークなモチーフと、その中に敷き詰められる繊細なパターン模様。
 伝統的な絵画でありながらモダンでポップなゴンド画は、昨今ヨーロッパを中心に現代アートとしても紹介されてきました。世界的に有名なシルクスクリーンの絵本「The night life of trees」(Tara Books/邦訳「夜の木」)など、ゴンド画を挿絵にした絵本も数多く出版されています。
 Touch the GOND3度目となる本個展では、東京・表参道、京都・祇園の2ヶ所で開催いたします。国内外で活躍する約20名のゴンド画家達による原画、絵本・グッズを展示販売する予定です。
tumblr_nwb5pwn8pQ1tdm7mso1_250.jpg この機会に、ぜひお立ち寄りください。
 皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。

【東京・表参道】
◆日時:2015年11月14日(土)~11月19日(木) 
   12:00-21:00(最終日は19:00まで)
◆ギャラリー:Haden Books
◆住所:東京都港区南青山4-25-10南青山グリーンランドビル
◆アクセス: 表参道駅A4出口より徒歩5分
Touch the GOND URL: http://www.gondart-india.com/

インド駐在時代の知人から紹介され、表参道で開催される絵画展に行ってみることにしている。マディア・プラデシュ州の東部山間地の先住民がこうした民族がを描いているというのは全然知らなかったので、実際に見るのが楽しみだ。こういう伝統的な文化は、他の社会との交流が始まると、なかなか継承されにくい。近代化の大波の中で駆逐され、文化の多様性も失われて行ってしまうのは残念なことだ。

さて、そのゴンド族をはじめとするインド先住民族であるが、インドの本がこれだけいろいろと出ているのに、先住民族について紹介されている本は日本では少ない。さらに、この先住民族が住むインド東部の山岳地帯を拠点にゲリラ活動を続けている反政府勢力について書かれた本も、実は日本では少ない。国土が広いだけに、邦人があまり住んでいないこの地域について触れた本が少ないのは致し方ないところかもしれないが、それも知らないでインド通とはなかなか認めにくい。

そんな中で、英ブッカー賞を受賞した小説家で市民活動家でもあるアルンダティ・ロイの著書で、最も最近日本語訳が出版されたのが、2013年5月の『ゲリラと森を行く』である。原作は2011年6月に出たエッセイ集『Broken Republic』だ。


ゲリラと森を行く

ゲリラと森を行く

  • 作者: アルンダティ・ロイ
  • 出版社/メーカー: 以文社
  • 発売日: 2013/05/23
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
グローバル資本の最大の犠牲者=抵抗者。経済発展を謳歌するインドで、掃討すべき「脅威」と名指させる「毛派」とはどんな人びとなのか。インドの世界的女性作家が、生きのびるために銃をとった子どもたち、女性たちと寝食、行軍をともにし、かれらが守り守られる森のなかに、グローバル資本から逃れ出る未来を構想する。

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『民主主義のあとに生き残るものは』 [インド]

民主主義のあとに生き残るものは

民主主義のあとに生き残るものは

  • 作者: アルンダティ・ロイ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/08/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
インドでは、市場主義とヒンドゥー至上主義が猛威をふるい、人びとの生を脅かしている。しかも民主主義がその暴力を正当化している。同様のことは、世界の至る所で見られるのではないか。そしてまた、各所で起きている小さな抵抗に、これからの希望を見出すことができるのではないか―。注目のインド人作家がしなやかな言葉でつづる政治エッセイ集。ウォール街占拠運動でのスピーチや、初来日時のインタヴューも収載。

先日、ふと『小さきものたちの神』に再挑戦してみようかと思い、図書館で借りてみたのだが、英国ブッカー賞をとって何か国語にも翻訳されたこの小説も、小説であるだけに読もうという気がどうしても起きず、1ヵ月手元に置いた末に結局返却してしまった。その間に、やっぱりアルンダティ・ロイといったら現代インドの政治社会に対する切れ味鋭い批判が売りだろうと思い直し、比較的最近出ている彼女のエッセイ集を代わりに読んでみることにした。

この本は、ロイのこれまでに出している書籍をそのまま翻訳したわけではなく、各所でこれまで発表してきたエッセイを集めてそれを翻訳して載せたような内容だ。彼女は、ちょうど2011年3月11日、日本での講演活動のために東京に滞在してて東日本大震災に遭った。都内で13日に予定されていた講演会は中止となった。このため、ロイ招聘に携わった本書の訳者を含めた関係者は、講演会でロイが述べたかった内容「民主主義のあとに生き残るものは」を文章化して本書に収録するとともに、3月12日にロイと訳者の本橋哲也氏が行った対談録を巻末に収録した。

さらに、これを書籍化するにあたり、ロイがウォール街占拠運動を支援する演説「帝国の心臓に新しい想像力を」をYouTubeからダウンロードして第1章に、ロイ本人から2012年になって提供されたエッセイ「資本主義―ある幽霊の話」を第3章に、ロイの2009年のエッセイ集『Listening to Grasshoppers(バッタの声を聴いて)』からカシミール問題を詳述した「自由(アザーディ)―カシミールの人びとが欲する唯一のもの」を第4章に付け加えた。これによって、グローバルな資本主義、帝国主義、インド国内でのヒンドゥー至上主義、インドが自画自賛する民主主義の実態等が草の根の脆弱な人々に及ぼす影響と人々がそれにどのように対抗できるのかを論じている。

いろいろな論点が登場する。ただ、ウォール街占拠運動は別としてその他の論点はいずれもそのフォーカスがインドにあるため、現代インド社会と政治経済を見るオルタナティブな見方として、極めて有用なエッセイが集められていると思う。

それらを全てここで紹介するわけにもいかないので、印象に残った記述を3つほど挙げてみたいと思う。

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『現代インド経済』 [インド]

現代インド経済―発展の淵源・軌跡・展望―

現代インド経済―発展の淵源・軌跡・展望―

  • 作者: 柳澤 悠
  • 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
  • 発売日: 2014/02/12
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
下からの経済発展の衝撃。インド経済の歴史的な成長を準備したものは、経済自由化でもIT産業でもない。植民地期の胎動から輸入代替工業化、「緑の革命」の再評価も視野に、今日の躍動の真の原動力を掴み出す。圧倒的な厚みをもつ下層・インフォーマル部門からの成長プロセスの全貌を捉え、インド経済の見方を一新する決定版。

最近、インドネタを取り上げることがめっきり少なくなった。最後に扱ったのはいつかと調べてみたら、なんと昨年10月だった。さらに振り返れば、インドの発展を扱った専門書・研究論文を紹介したのは2013年11月にまで遡らなければいけない。僕が人事異動で会社の中でも最も忙しいと言われる部署に異動になった直後のことだが、それ以降、インドとの関わりがほぼ完全に切れてしまった状態だ。その間に、インドでは政権交代も起こり、ここ2年ほどの間にインドをテーマにした書籍は相当出ているにも関わらず、この体たらくだ。

Facebookで友人になっているインド人からは、「次はいつ来るのだ」と事あるごとに訊かれる。ご丁寧に、「最近、こんなレポートを書いたよ」と向こうから情報提供してくれる友人もいる。でも、以前ネットワーク論の本の紹介の中でも述べた通り、この手のつながりは時間が経てば経つほど劣化するものである。Facebookで近況を相互に教え合える状況にあるならともかく、SNSをやっていない友人も多いので、どうやったらつながりを維持できるのか、本当に悩ましい。今の部署で仕事していて、インドに行く機会などほとんどあり得ない。だから、インドをテーマにした書籍は、読むのが空しくなる。そうして遠のくから、次に読もうと思った時にもなかなか頭に入って来ないという問題もある。

本書が出たのは2014年2月。僕が2013年11月に最後にインドをテーマにして読んだという学術論文は柳沢悠先生の著作群だったので、当然僕は柳沢先生の新著は早い段階から知っていて、いずれ読みたいと思っていた。しかも、この本は2014年度の国際開発研究大来賞を受賞している。いつか読まねばと思っていたけれど、近所の図書館にはなかなか入庫せず、なかなか読むチャンスが得られなかった。

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『南国港町おばちゃん信金』 [インド]

南国港町おばちゃん信金: 「支援」って何?“おまけ組”共生コミュニティの創り方

南国港町おばちゃん信金: 「支援」って何?“おまけ組”共生コミュニティの創り方

  • 作者: 原 康子
  • 出版社/メーカー: 新評論
  • 発売日: 2014/09/25
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
経済第一主義が作り出す、ほんの一握りの「勝ち組」と大多数の「負け組」―超格差社会。しかしここに、勝ち組でも、負け組でもない、“おまけ組”とも呼ぶべきもう一つの道を選んだおばちゃんたちがいる。南国のある港町。彼女らの小さな取り組みが私たちに教えてくれるものとは。国際協力NGOの一員として活動を共にした著者が、自らの「思い出すのも恥ずかしい」数々の失敗話を俎上にのせて、共生、支え合い、支援のありうべき姿を、ユーモア溢れる筆致で鋭く描き出す。

「南国港町」だけでは想像できないと思うが、この本はインドのスラムでそこに住むおばちゃんたちが信用金庫を設立し、自律的な経営を実現させていくまでを見守った1人の日本人女性の活動記録が、岐阜弁で書かれている。著者の所属するNGOの現場へのアプローチは他の日本のNGOと比べてもとてもユニークであり、国際協力に関心のある人には薦めたいと思う。

僕がインド駐在していた頃から親交のある原さんが書かれたこの本、本音を言うと僕の本を扱ってくれた出版社の地球選書シリーズから出したかった。実のところ僕の本が出された2012年2月当時、僕はこの協力についても本で取り上げられないかと出版社にかけあったことがあるのだが、僕の本に続いてインドものが続くのは営業上あり得ない、他の国の話を取り上げたいと却下された経緯がある。この間に原さんご自身が別の出版社に働きかけられ、こうして日の目を見たわけで、取りあえずは嬉しいが、ちょっと心境は複雑。

僕が自分の本を書く際、編集者から口を酸っぱく言われたことが2つある。1つは、事実を淡々と、かつ数字も絡めて具体的に述べよということ、もう1つは、現場の風景、そこに暮らす人々の日常が読んでいてイメージできる描写を加えよということだった。僕はその言葉を胸に、3週間南インドの農村で養蚕農家の聞き取りを行ったが、3週間程度の調査で描き切るのは結構大変だった。その点からすると、原さんのように現場のおばちゃんたちとの関わりが10年以上に及ぶ人の書いたものはそもそも違う。この本はとてもわかりやすい。4コマ漫画や写真だけではなく、ふだんのおばちゃんたちの会話がそのまま出てくる。なるほど岐阜弁に通訳した方が現場の風景に近いと思う。

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