『坂道の向こう』 [読書日記]
内容紹介【N市立図書館】
城下町、小田原。介護施設の同僚だった朝子と正人、梓と卓也は恋人同士。けれど以前はお互いの相手と付き合っていた。新しい恋にとまどい、別れの傷跡に心疼かせ、過去の罪に苦しみながらも、少しずつ前を向いて歩き始める二組の恋人たちを季節の移ろいと共にみずみずしく描く。
先週末、市立図書館で予約していた本を数冊借りる際、「チョイ足し」で借りた小説である。椰月美智子作品は初めてではないし、閉館時間まで残り5分といったところだったので、あまり物色もせず、パッと目に付いた作家ということで選んだ。
過去読んだ椰月作品と同様、今回も舞台は小田原。各編ごとに主人公が異なる連作短編である。たぶん、時系列的には並んでいる作品なのだろうが、話がちゃんと進んでいるという実感のようなものがあまり感じられない形で、登場人物の心の葛藤が描かれる。そこがあまり直線的じゃなくて、一歩進んで一歩下がる、それでもって結局話が進んだのかどうかがわからないという展開が多い。
僕らの日常なんてそんなものかなと思いつつも、ちょっとじれったいし、なんなら恋人たちの関係の展開の仕方に戸惑いも覚えたりする。僕らの20代って、そんなに一進一退があったんだっけ?
ああ、あった。僕の場合はこの作品の登場人物たちよりも彼女と付き合っている期間がずっと短かったが、なんで相手がこういう行動をとるのか、そういうことを言うのか、その当時はわからないことだらけだった。なんで別れることになっちゃったんだろうとか…。
今、うちの子どもたちが本作品の登場人物たちと同じ年齢を生きていて、皆誰かと付き合っていたりもしているが、登場人物たちと同じような一進一退を繰り返していて、なかなか「結婚」という言葉にはたどり着かない、親からすれば「じれったい」と感じる毎日を送っている。20代ってそういうことなんだろうな―――過去の自分の経験、現在を生きている20代の我が子たちを見て、それで本作品を読むと、合点がいくことが多いかも。