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『月光の東』 [読書日記]

月光の東 (新潮文庫)

月光の東 (新潮文庫)

  • 作者: 輝, 宮本
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/02/28
  • メディア: 文庫

内容(「BOOK」データベースより)
「月光の東まで追いかけて」。出張先のカラチで自殺を遂げた友人の妻の来訪を機に、男の脳裏に、謎の言葉を残して消えた初恋の女性の記憶が甦る。その名前は塔屋米花。彼女の足跡を辿り始めた男が見たのは、凛冽な一人の女性の半生と、彼女を愛した幾人もの男たちの姿だった。美貌を武器に、極貧と疎外からの脱出を図った女を通し、人間の哀しさ、そして強さを描く傑作長編小説。
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「月10冊」のノルマを死守すべく、今月末に向けた駆け込みで読んだのが再びの宮本輝作品。選んだ理由は、単にタイトルに惹かれたからだ。結局、「月光の東」が何を指すのかはよくわからなかったのだけれど、作中に出てくる「白い月がかかった薄青い空をバックにそびえるチョモランマ」の写真は、僕も見たことがあり(但し、ネパール側でのエベレストは「サガルマータ」と呼ばれていたと思うが…)、少しばかりの懐かしさも感じる作品だった。

作中の登場人物のうち、今の僕は元画商・元馬主である津田に近い年齢である。そのためか、主要登場人物の出来過ぎた人柄、複雑な思考回路、そして重ねた年輪、どれにも至らない自分自身の物足りなさを突き付けられた気もして、読後感はあまりよろしくなかった。僕は絵画のことも陶器のことも、サラブレッドへの投資のこともわからないし、ワインの知識もない。クリームコロッケのおいしさもわからない。サラブレッドのことは、競馬をかじったことがあったので多少はわかるが、複勝ころがしのことも、馬産地のことも、生産者と馬主・調教師の関係もよくわからない。そういう仕組みもわかった上で、運用もできるのが還暦を迎えようとする大人の人間なのだと作者が思っているとしたら、俺の歩みなんてダメダメだなぁ~と、抱くのは劣等感ばかり。

一方で、五十路前とはいえ作中の杉井の行動は、僕にはまだ理解しやすいところはあった。ただ、40代後半ぐらいの自分を振り返った時、やっぱり仕事上は杉井ほどの立場にもなかった。仕事帰りにバーで軽く一杯なんて日が、週に3回もあるような生活はしてなかった。

要するに、作中のどの登場人物と比べたとしても、僕は大したことない。宮本輝って、なんでこんなにできた人ばかりを登場させるのだろうか。そして、それが彼が描く作品の登場人物の1つの基準だとしたら、作品を読み続けるのはちょっとしんどいなぁという思いが増してきた。もうちょっと、等身大の人間を多く登場させてくれないですかね(笑)。

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