SSブログ

『インド残酷物語』 [インド]

インド残酷物語 世界一たくましい民 (集英社新書)

インド残酷物語 世界一たくましい民 (集英社新書)

  • 作者: 池亀彩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2021/11/25
  • メディア: Kindle版
内容紹介
世界有数の大国として驀進するインド。その13億人のなかにひそむ、声なき声。残酷なカースト制度や理不尽な変化にひるまず生きる民の強さに、現地で長年研究を続けた気鋭の社会人類学者が迫る!日本にとって親しみやすい国になったとはいえ、インドに関する著作物は実はあまり多くない。また、そのテーマは宗教や食文化、芸術などのエキゾチシズムに偏る傾向にあり、近年ではその経済成長にのみ焦点を当てたものが目立つ。本書は、カーストがもたらす残酷性から目をそらさず、市井の人々の声をすくいあげ、知られざる営みを綴った貴重な記録である。徹底したリアリティにこだわりつつ、学術的な解説も付した、インドの真の姿を伝える一冊といえる。この未曾有のコロナ禍において、過酷な状況におけるレジリエンスの重要性があらためて見直されている。超格差社会にあるインドの人々の生き様こそが、“新しい強さ”を持って生きぬかなければならない現代への示唆となるはず。
【購入(キンドル)】
先月下旬に発刊になったばかりの新書だが、発刊直後に著者がフィールドワークを行ったカルナータカ州南部地域で昔長期駐在して養蚕の技術指導に携わった日本人専門家OBの方々の間で話題に上り、僕自身も本を書く際にフィールドワークを行ったので土地勘もあったので、矢も楯もたまらず読んでみることにした。

先に述べた日本人専門家の間でやり取りされているメールの中では、「5回も現地に行きながら、カンナダ語を一語でも覚えようと思わなかった自分とは大違い」とか、「数回に及ぶインド訪問滞在の経験も、なんと皮相なものであったか」などの言葉が飛び交っている。それでもこれらの大先輩の皆さまがそのご専門の領域における活動で南インドのランドスケープを変えていかれた功績は色褪せることはないと思うが、一見してもわからない、インド社会の諸相への洞察は、本書を読んで眼が開かれたというご意見も多いようだ。

そしてかく言う僕自身も、本書は自分自身のフィールドワークで調べられなかったことに気付く機会となった。同じ地域を見ていても、その関心領域が異なると、見えるものが相当異なる。ましてや僕の場合は3週間程度の調査期間だったし、カンナダ語を勉強した上での調査だったわけではない。だから、本書で著者が描いたような、カルナータカ州南部のダリットやOBC等、社会に深く横たわる諸相への切り込みなど、僕の調査でできるわけがない。それを、ただ「インドの社会問題」として深刻に描くだけでなく、その中で暮らす人々のしたたかさを、著者が人々と交わした日々の会話を通じて描き出している。決して著者の断定をさしはさむわけでもなく、淡々と事実を並べて、著者の判断や感想にゆだねる描き方にも好感が持てる。

軽妙な語り口だが、扱っている内容については本書のタイトルにもあるような「残酷」さがある。デリーやムンバイに出張や駐在でいらっしゃる方ならともかく、ベンガルールのような南インドに行かれる方は、本書は読んでおかれることをお勧めする。今年初めに読んだ佐藤大介『13億人のトイレ』といい、インド関連ではいい本が最近出てきているなぁ。

続きを読む


nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ: