SSブログ

『東京の子』 [読書日記]

東京の子

東京の子

  • 作者: 藤井 太洋
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/02/08
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
2023年、東京。パルクール・パフォーマーを15歳で引退した舟津怜は、戸籍を買い、過去を隠して新たな人生を歩んでいた。何でも屋として生計を立てる彼は、失踪したベトナム人、ファム・チ=リンの捜索を依頼される。美貌の才媛である彼女は、「東京デュアル」内にあるチェーン料理店のスタッフをしていた。オリンピックの跡地に生まれた「理想の大学校」、デュアル。ファムはデュアルの実情を告発しようと動いていたのだ。デュアルは、学生を人身売買しているのだという―。アフターオリンピックの日本を描いた社会派エンターテインメント。
【市立図書館(MI)】
年明けから宣言して続けている「1カ月に1作品、藤井太洋」の第三弾。『Gene Mapper』『オービタル・クラウド』からの続きで読むと、舞台が比較的今に近い五輪後の東京で、扱われているテーマが外国人就学生問題だったり、五輪後の跡地再開発だったりと、ちょっとSFっぽくなくて、同じ作家とは思えない作品だった。ただ、東京デュアル大学構内で繰り広げられる講義やフードコート、宿舎のシーンなどでは、藤井作品の片鱗は窺える。

読みながら、やっぱり大学はこういう、社会に出て役立つスキルを修得する技能実習の場にますますなっていってしまうのだろうかという、漠然とした不安感が再確認できたような気がする。授業が終わればすぐに技能実習に出て、就学のための資金の借入金の返済に充てられ、卒業後もそれが何年も続くという姿は、ちょうど2年前にブータンやネパールで大問題になった日本語留学の学生の困窮を思い出させてくれる。それが、単に留学生だけの問題というだけでなく、日本人の学生にまで波及してくるということなのか。大学が社会人養成機関と化していき、教養をはぐくむような場所としてはやっぱり期待されなくなってくるのだろうか。

本作品のキーワードは「パルクール」―――主人公が極めようとしているスポーツパフォーマンスなのだが、動画などで見たことがあったけれど、それが「パルクール」と呼ばれるというのは、本作品を読んで初めて知った。50代後半のオジサンにはほとんど無縁のスポーツだが、それを題材としたのは新鮮だったし、文章を読んでいて情景がイメージできるというのは、なかなかの筆力だ。SFで鍛えた描写力が生かされているような気がする。

SFが好きな人にはおススメしづらい藤井作品だが、まずい作品では決してない。

nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ: