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『秩禄処分』 [仕事の小ネタ]

秩禄処分―明治維新と武士のリストラ (中公新書)

秩禄処分―明治維新と武士のリストラ (中公新書)

  • 作者: 落合 弘樹
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1999/12
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
秩禄処分とは明治期に行われた華族・士族の家禄を廃止する措置であり、学制・徴兵令・地租改正に匹敵する改革である。これによって武士とという特権的身分は完全に消滅した。さほどの暴力的手段を用いることなく、わずか10年でこの改革をなしえた背景には何があったのか。社会全体の変換期にあって、政治家が決断力とリーダーシップをもって国家目標を示し、士族たちもまた、それを理解した。天下国家への「志」が存在したのである。

5月に読んだ菊地正憲『もう一度学びたい日本の近現代史』からの派生で読んだ参考文献の第2弾である。秩禄処分について深く描かれているが、明治維新の最初の10年で何が起きたのかを概観する上では、かなり有用な本である。その有用さが評価されて、2015年に講談社学術文庫から再版が出ている。僕は20年前に出た中公新書を市立図書館で借りて読んだ。

この当時の大きな課題は、財政の確立と兵権の統一に向けて、華族・士族のあり方に大きな変更が必要になっていたことだという。財政面では、国家的課題である殖産興業や富国強兵を推進して他国に負けない近代国家になるための財源確保が必要だったが、華士族は全人口のわずか5%しか占めていないのに、国の歳出の37%もが、家禄に充てられていたらしい。軍事面では、西洋的な近代的軍隊の形成には、各藩別に編成された軍制を廃止して、統一的な軍隊を構築しなければならなかったが、旧藩兵の一部を再編してとりあえずは出発したものの、出身や年齢に関係なく画一的に服従すべき兵卒にするにはプライドが高すぎて扱いにくく、旧藩兵を解体して広く国民全般から徴兵して軍事教育を施す方向に舵を切りたいと政府は考えていた。

華士族の秩禄(報酬)を処分することは、明治維新の原動力でありながら次々と特権や処遇を剥奪されていく下級士族の不満を増幅させることにもなり、一方的に廃止するのは難しかった。そこで考案されたイノベーティブな方法が「金禄公債証書」の発行で、華士族の俸禄に応じた利付き公債を一時発行して、基本的に年7%の利子収入を保証する形で彼らの身分を解体するというものである。発行対象は大名とその家臣団約19万世帯。金禄公債発行により、旧士族に支給されてきた俸禄は完全にチャラになった。華士族にとっても、まとまった額の公債から生じる利子収入によって将来にわたっての安心感が得られる。いわば、華士族の特権と身分を、一時金によって買い取ってしまった政策である。

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