『インドの水問題』
ではこの暫定命令を拒否する決議を行ない、さらに州政府は州内を流れるカーヴェリ川の水は全量が州の排他的管理の下にあるとする州政令を発した。しかし、最高裁はこの州政令が憲法違反であるとの判決を下し、先の審判所暫定命令を官報で公示するよう命じた。
これを受けて、1991年12月下旬には、州内のバンガロール、マンディア、マイソール県内の100カ所ほどの場所でタミル人商人、農民、農業労働者らに対する暴行事件が発生し、数人が殺害され、州内に居住するタミル人が10万人規模でタミル・ナドゥ州側に避難するという事態になったという。カルナタカ州とタミル・ナドゥ州がかなり仲が悪いというのがよくわかる。本書は時期的に2003年の出来事までしかフォローしていないが、その後の展開についてはウィキペディアにも言及があるので参考にはなる。
⇒http://en.wikipedia.org/wiki/Kaveri_River_Water_Dispute
繰り返しになるが、こうした州際河川水紛争は、水資源の供給量が十分ある時にはさほど問題にはならないが、旱魃が深刻で河川の流水量が不足してくると問題が起りやすい。カーヴェリ川についても、2004年から2006年頃までは南インドの降水量がそこそこあったので問題が先鋭化する事態は回避されてきたが、その後は2008、2009年のように水不足の事態が目立った年もあり、お天道様が相手だけに一筋縄ではいかない。
因みに、本書で引用しているインドの年間利用可能水量に関する幾つかの予測を見ると、いずれの場合も2020年代後半から2050年にかけてインドでは水需要量が利用可能水資源量とほぼ同等ないしは需要が上回るものになると見られているという(p.30)。これはインド全体での話であるが、既にカーヴェリ、ペンネルー、サーヴァルマティ、クリシュナ川等の流域では国際基準の1人当り年間利用水量1,000立方メートルにも満たないという水不足が現実化しており、アンドラ・プラデシュ、グジャラート、ハリヤナ、パンジャブ、タミル・ナドゥ、マハラシュトラの各州では、地下水または表流水、あるいは双方で、不足がいずれ深刻化するとみられている(p.33)。