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『「新しい野の学問」の時代へ』 [仕事の小ネタ]

「新しい野の学問」の時代へ―知識生産と社会実践をつなぐために

「新しい野の学問」の時代へ―知識生産と社会実践をつなぐために

  • 作者: 菅 豊
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/05/29
  • メディア: 単行本
内容紹介
いま、アカデミズムの狭いディシプリンに閉じ籠もることなく、多様な叡智と技能、経験を使う新しい学知が生まれつつある。それは研究者や専門家のみならず、公共部門や市民、NPOなどが協働し知識生産と社会実践をむすぶ「新しい野の学問」である。フィールドワーカーとして現実と向き合いながら、学知のあり方を問い直す。
【N市立図書館】
7月初旬に当地を訪ねて来られた知人に勧められ、読んでみることにした。この知人は、小千谷で7月に開催された「牛追い」(闘牛)の七月場所を観戦しに来られた方で、本書を薦められた理由として、東大の民俗学者である著者が、東京からの通いで、外部者として中越地震被災以降の小千谷市東山地区の牛追いの復興に尽力するには、自身が牛追いの日常の輪の中に入り、当事者に近い目線で復興を考える必要があると考えられたからだと仰っていた。

「一度、小千谷の牛追いも観てみて」―――そう言われた僕は、メキシコから長岡に戻った翌日に「お盆場所」が開催されるのを知り、急遽車を走らせて小千谷闘牛場に向かった。2000円を払っていただいた取組表には、著者が所有する牛も載っていて、著者ご自身も地元の人に交じって勢子をやっておられた。

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本書の第一部を事前に読んでいたおかげで、初めての牛追い観戦もそれなりに楽しむことができた。県外からの来訪者も多いし、それ以上に地元の人々が老若男女問わず14の取組みを楽しんでおられる様子がよくわかった。地元の小学校も牛を飼育しておられるそうで、結びの1つ前の取組みでその「牛太郎」が格上相手に大健闘して、観客の喝さいを浴びていたのが印象的だった。

第二部は民俗学の系譜のお話。特に、日本よりも米国やドイツの民俗学の変遷の方が重点的に描かれていて、学術論文の先行研究レビューのような感じの書きぶりだった。僕はこういったアカデミックペーパーの書きぶりに慣れていないので、第二部の記述はほとんど頭に入って来なかった。必要があればまた読み直そうかとも思わないでもないが、そんな日が訪れるのかどうかがわからない。

余談だが、僕は大学入学したての1982年に、学科の選択必修科目として「民俗学」を取り、講師の先生が独自に準備されていたテキスト「American Folklore」を読まされたことがある。学部1年生で、しかも英語の授業だったので、Folklore(民俗学)と聴いてほとんどピンと来なかったが、Jonny AppleseedやDavy Crockettの伝記の一部とかを英文で読まされた記憶だけはあり、特に後者については後年テキサス州サンアントニオのアラモ砦を観光した際、覚えていたおかげで親近感を持って見学することができた。民俗学という学問のことをもっとよく知っていたら、例えば、英語でAmerican Folkloreを習う以前に、日本語で何かしらのエスノグラフィーを購読するような講座を受講したりしていたら、その後の民俗学の見え方も変わっていたのではないかと思った。

今から思えば、大学時代の自分の勉強のやり方に対する一種の悔いだ。学生でいる時には気付かないが、卒業して何年も経って振り返ると、もうちょっと勉強しておけばよかったと感じてしまう。

第三部も、第二部からの流れでの日本の民俗学者のあり方の話のように感じた。第一部の牛追いの話からの援用は少なめではあったが、第一部と第二部を踏まえての、「新たな野の学問」のあり方に関する見解が述べられている。

僕は民俗学者じゃないし、研究者でもない。外部者としてあるフィールドに入って、それを論文にまとめたりは多分しないと思うが、そのフィールドに関わる目的が社会の中で「役にたつ」ことであるという点では共通しているかもしれない。長年そのフィールドで関わっておられる著者のような立場の方から見れば、僕らが数日間という短期滞在でソリューションをプロトタイピングするようなデザインスプリントは、震災復興でその時だけ入って来て短期間で復興プランをまとめる研究者やコンサルタントとやっていることは大して変わらないと見られるかもしれない。しかし、そのプロトタイピングを地元の方々と協働してデザインした後、短期間では着手できなかったことも含めてその後その地域とどう関わり続けるかという点において、著者や受入れコミュニティ側で否定的に見ておられる部外者の短期コミットメント以上の貢献ができる可能性もあるのではないかと付記しておきたい。

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