『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起こした奇跡』 [仕事の小ネタ]
日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起こした奇跡 (幻冬舎単行本)
- 作者: 出町譲
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2017/05/10
- メディア: Kindle版
内容紹介【購入(キンドル)】
石破茂議員、小泉進次郎議員も注目する奇跡の村「やねだん」。鹿児島の人口300人限界集落が何故、土を売り、トウガラシを輸出する村となり、日本ならず世界に注目される村となったのか?
鹿児島県大隅半島のほぼ中央に位置する鹿屋市串良町柳谷地区。地元の人は「やねだん」と呼ぶ120世帯およそ300人が共存する、高齢化が進む典型的な中山間地域の集落だ。この集落がアイデアあふれるリーダー豊重哲郎さんの下、子供達から高齢者まで強い絆で結ばれ、土着菌堆肥からサツマイモ栽培オリジナル焼酎開発、トウガラシ栽培からコチュジャン開発といった、集団営農から六次産業化を推進、集落の独自財源を築き高齢者には一万円のボーナスが支給され、地方創生の”good practice”として全国的に注目されるようになる。日本、世界が注目する村『やねだん』、その歩みと、リーダー豊重哲郎さんの言葉を集めた一冊。
本当は、本書の前に、神田誠司『神山進化論』という別の本を読み終わっていたのだけれど、それをご紹介する前に、直近で読み終わった出町譲のルポをもう1冊ご紹介することにする。前回ご紹介した『現場発!ニッポンの再興』の中でも著者が特に推していたのがこの「やねだん」だった。でも、僕は不勉強でやねだんのことは全然知らなかったので、もうちょっと深めて読んでみようかと思った。また、飛行時間と経由地での滞在時間を合わせると目的地到着まで丸2日かかる長旅に入ったので、その間に読めそうな本をキンドルでストックしておくことにした。ちょうど都合が良かったのが本書で、羽田から経由地ホノルルまでの機中と、ホノルルでの滞在時間の間に読み切った。
ルポを読ませるものにするには、その中でも中心人物を取り上げて、ヒューマンストーリーにして読者の感動を呼ぶというのは鉄則だと思う。その意味で、『神山進化論』のように群像劇風にまとめたルポより、出町のペンの方がたぶん受けると思う。ただ、前者の場合は、地域おこし第一世代の方々から後継者へのバトンタッチが比較的スムーズに行っているように見受けられるが、後者の場合は、豊重哲郎さんが引退された後、やねだんを引っ張るリーダーは現れるのだろうかというのが最大の疑問となった。やねだんの場合も後継者に関する記述はあるが、豊重さんのアイデアだけで引っ張られてきた印象が相当強い書きぶりになっている。
また、もう1つ気になったのは、鹿屋市の1つの地区を単位とした取組みで、鹿屋市や他の地区の存在感がものすごく薄い点である。普通、柳谷地区だけがこれだけフィーチャーされたら、近隣の他の地区は心がざわつくだろうし、行政は行政の常として、やねだんの取組みを市内他地区でももっと広めたいと考えるのが普通だろう。そこをすっ飛ばして、遠方の自治体の首長や行政マンがやねだん詣でをし、そのスピリットが全国に広がっていると著者は強調するのだが、足元の鹿屋市や鹿児島県はどうなのか、なぜ著者がスキップしたのか、知りたくはなった。
著者は、やねだんでできることは日本全国でもできると主張するが、人口が減少している日本では、若くて次の地域を担ってくれるような人材は奪い合いになると思う。引く手あまたの著名なコミュニティデザイナーや地域おこしのリーダーとつながっている地域はうまく軌道に乗るだろうが、実際は現状を変えたいと思っていても、そこまでの人脈を持っていない地域の方が圧倒的に多いと思う。
感想としてはこれくらいにしておく。実績については何も申し上げることはないが、これだけ強烈な光を放つ地区の周辺の地区はどう思っているのだろうか、そこから次のアイデアマンが生まれてきたら面白いだろうと思う。
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