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『坂道の向こう』 [読書日記]

坂道の向こう (講談社文庫)

坂道の向こう (講談社文庫)

  • 作者: 椰月美智子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: Kindle版
内容紹介
城下町、小田原。介護施設の同僚だった朝子と正人、梓と卓也は恋人同士。けれど以前はお互いの相手と付き合っていた。新しい恋にとまどい、別れの傷跡に心疼かせ、過去の罪に苦しみながらも、少しずつ前を向いて歩き始める二組の恋人たちを季節の移ろいと共にみずみずしく描く。
【N市立図書館】
先週末、市立図書館で予約していた本を数冊借りる際、「チョイ足し」で借りた小説である。椰月美智子作品は初めてではないし、閉館時間まで残り5分といったところだったので、あまり物色もせず、パッと目に付いた作家ということで選んだ。

過去読んだ椰月作品と同様、今回も舞台は小田原。各編ごとに主人公が異なる連作短編である。たぶん、時系列的には並んでいる作品なのだろうが、話がちゃんと進んでいるという実感のようなものがあまり感じられない形で、登場人物の心の葛藤が描かれる。そこがあまり直線的じゃなくて、一歩進んで一歩下がる、それでもって結局話が進んだのかどうかがわからないという展開が多い。

僕らの日常なんてそんなものかなと思いつつも、ちょっとじれったいし、なんなら恋人たちの関係の展開の仕方に戸惑いも覚えたりする。僕らの20代って、そんなに一進一退があったんだっけ?

ああ、あった。僕の場合はこの作品の登場人物たちよりも彼女と付き合っている期間がずっと短かったが、なんで相手がこういう行動をとるのか、そういうことを言うのか、その当時はわからないことだらけだった。なんで別れることになっちゃったんだろうとか…。

今、うちの子どもたちが本作品の登場人物たちと同じ年齢を生きていて、皆誰かと付き合っていたりもしているが、登場人物たちと同じような一進一退を繰り返していて、なかなか「結婚」という言葉にはたどり着かない、親からすれば「じれったい」と感じる毎日を送っている。20代ってそういうことなんだろうな―――過去の自分の経験、現在を生きている20代の我が子たちを見て、それで本作品を読むと、合点がいくことが多いかも。


今週、僕は29回目の結婚記念日を迎えた。結婚を決めたのは31歳の時だった。

20代は、気になる女性にどう気持ちを伝えるかで悩み、わりと身近なところにいた高校の同級生と何となく付き合い始めたり、かと思えばわけのわからない形で別れたり、新しい職場でまめに声をかけてくれる女性(今の妻です)に煮え切らない態度を取り続けたり、いろいろあった。

30代に入った途端、迷いなく一気に物事が進んだ感じである。

でも、この作品の人間関係、結構複雑だよな…。大学時代、所属していたサークル内で、当時付き合っていた彼女と別れた後、その彼女が同じサークル内の別の同級生と付き合い始めた時、僕はそのサークルには居づらさを感じたので、幽霊会員になる途を選んだ(というか、バイトや別の学内活動に活路を見い出した)。入退室自由なサークル活動の場合ならそれは可能だが、職場となるとそう簡単ではないだろう。しかも、小田原という比較的限られた空間の中の話だ。職場以外の場で、たまたま会ってしまうことだって起こりかねない。

『テスカトリポカ』のようなとてつもないバイオレンス小説を読んだ後のこの煮え切らない、神奈川県西部を舞台にした作品は、カッカした頭を冷やすにはちょうどいい読書機会であった。
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