『天路の旅人』 [読書日記]
内容紹介【購入(キンドル)】
「この稀有な旅人のことを、どうしても書きたい」。
「旅」の真髄に迫る、九年ぶりの大型ノンフィクション。
第二次大戦末期、敵国の中国大陸の奥深くまで「密偵」として潜入した若者・西川一三。敗戦後もラマ僧に扮したまま、幾度も死線をさまよいながらも、未知なる世界への歩みを止められなかった。その果てしない旅と人生を、彼の著作と一年間の徹底的なインタビューをもとに描き出す。著者史上最長にして、新たな「旅文学」の金字塔。
気が付けば、3月も既に23日にになっている。
この間、ブログ更新を完全にストップしていてスミマセン。
言い訳で必ず言うのは、こんなに働いた3週間はなかったということです。
翌日のプレゼン資料の作成が前夜の時点でまったく着手できておらず、早朝に慌ててやったなんて日も。
しかも、二度にわたってティンプーにも行った。
そして、今は一時帰国して東京の自宅にいる。
こんなに慌ただしい3週間の中で、会話を交わした邦人お二人から、くしくも沢木耕太郎の近著について聞かされることがあった。ブータンに住んでいるなら読んでおいたらいいと。実際、本書の主人公の西川一三は、インドで仕入れたタバコをカリンポンからチベットのラサに密輸しようとしていた途中、ルートを変えてブータン入りし、そこで売り払ったことがあったらしい。
それで、仕事をなんとか片付けて、帰国の飛行機に乗り込む際、この帰国の途上で本書を読んじゃおうと考えた。パロを飛び立ったドルックエアーのフライトは、西川の辿ったルートの上空を飛ぶ。ジュモラリ峰を背に、右手にはカンチェンジュンガを眺めながら。
ブータン入りはその1回だけだったらしいが、物語の後半の舞台はインドやネパールで、自分も訪れたことがあるような地名がずらずらと出てきた。バラナシ、サルナート、クシナガル、ゴラクプール、ブリンダ―ヴァン、マトゥーラ。さらにはネパールのルンビニにビルガンジ、チサパニ峠にチョーバル峠。その西川の行動範囲の広さは半端がない。
特に、西川にはインド・西ベンガル州のカリンポンを拠点にしていた時期が一度二度あり、カリンポンはかなりの頻度で話題に上っている。これまた多少の土地勘があるため、ブータン滞在経験があるからというよりも、カリンポン滞在経験がある一読者として、本書には惹かれた。ダージリンはほとんど出てこないが、カリンポンには興味があるという人は、是非読んでみられるといい。で、2017年頃にインド軍と中国人民軍が銃撃を交えたインド・中国・ブータンの国境地帯や、その中国側のチュンビ峡谷の様子も作品の中で語られている。
西川自身にも『秘境西域八年の潜行』という著作があるが、原稿が長すぎてなかなか日の目を見なかったらしい。しかも、西川よりも若干先行してチベットからインドに入った、西川の興亜義塾の先輩である情報部員木村肥佐生も、その体験を描いた著書を、西川に先んじて出されている。帰国後西川は岩手で中国や蒙古、チベット、インドなどとはまったく縁のない暮らしを送ったが、木村は東京の米国大使館に勤務したり、亜細亜大学の教員になったりと、大陸での体験を生かした仕事に就いている。
例えは良くないかもしれないが、西川と木村の描かれ方を見ていると、アルピニストの森田勝と長谷川恒男の関係とちょっと似ているかもという気がした。もちろん、西川が木村を強烈にライバル視していたわけではないので、その点は違うとは思うけれど…。(いや、実は西川は木村のことは意識していた可能性もないわけではないと、沢木のあとがきを読んでいて感じるところもあった。)
面白くてあっという間に読める。沢木耕太郎って、30年近く前に読んだ『深夜特急』以降、まったく縁のなかった作家なのだけれど、『天路の旅人』は文句なしに面白い。僕ももう歳だから、こんな胸ときめく旅はとてもできないけれど、20代前半を迎えているうちの子どもたちには、「これは面白いから今読んだらいい」と、帰国早々薦めている自分がいる。
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