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『罪の轍』 [奥田英朗]

罪の轍

罪の轍

  • 作者: 奥田英朗
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/02/07
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
昭和38年。北海道礼文島で暮らす漁師手伝いの青年、宇野寛治は、窃盗事件の捜査から逃れるために身ひとつで東京に向かう。東京に行きさえすれば、明るい未来が待っていると信じていたのだ。一方、警視庁捜査一課強行班係に所属する刑事・落合昌夫は、南千住で起きた強盗殺人事件の捜査中に、子供たちから「莫迦」と呼ばれていた北国訛りの青年の噂を聞きつける――。オリンピック開催に沸く世間に取り残された孤独な魂の彷徨を、緻密な心理描写と圧倒的なリアリティで描く傑作ミステリ。
【購入(キンドル)】
2週間にわたる今回の一時帰国のフィナーレを飾る1冊。自宅を出る前にダウンロードしておき、実際に読み始めたのは羽田からバンコクまでの機中。トランジット先のバンコクでの滞在中、バンコクからパロまでの機中と読み進め、ティンプーでの滞在中にようやく読み切った。673頁という大作。一気に読まないと面白くない作品———というか、読みだしたら止まらない作品だった。

また、読み始めてみて、同じ奥田作品の1つである『オリンピックの身代金』と作品の舞台が似ていると感じた。ちょいと調べてみると、警視庁捜査1課第5係の顔ぶれはほとんど同じ。『オリンピックの身代金』の方が舞台としてはちょっと後になる。当時はまだ戦地帰りの刑事もいたようだが、一方で組織の縦割りや組織間の意地の張り合い等はすでにあって、捜査がうまく進まないという事態も度々起きていたようだ。

どちらも、1964年10月の東京五輪を背景に、大きく変貌を遂げつつある東京と、そこに労働力を輩出していた当時の地方(特に東北や北海道)の姿を描いている。時代背景を知るには面白い作品だし、当時世間を騒がせた実際の事件を絡めており(もちろん、作中で起きている事件は架空のものだが)、当時を知るにはいい作品だ。

奥田作品にはいろいろな「抽斗」があるが、「東京五輪」というのもその中の1つとして、確立された感がある。

今回の休暇中、体のメンテナンスのために整体師の施術を二度ほど受けたが、その中でなぜか読書の話題となり、この半年で読んだ本ということでお薦めしたのが、一時帰国の往路で読んだ池井戸潤『ハヤブサ消防団』だった。でも、もし『罪の轍』を施術の前に読んでいたら、「おススメの1冊」はこちらになっていたかもしれない。

ただ、一気に読ませる作品ではあったが、登場人物の誰もがやるせなさを感じて終わるエンディングでもあった。結末がどうなるのかは途中からだいたい予想がついていたけれど、実際にそうやって終わってみると、やるせなさと寂しさが残る読後感だった。

但し、そのやるせなさ、寂しさというのは、きっと作品の展開やトーンだけが理由じゃないのもわかっている。任地を離れて約3週間、一時帰国は実質2週間といったところだが、さすがに任国に戻ってくると現実が近いという実感が湧いてきて、かなり不安な気持ちに駆られている自分がいる。

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