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放っておけば使われなくなる機材 [ブータン]


僕はすでに任地を離れてただいま首都に滞在中です。飛行機に乗る前に、少しだけ片付けておきたい仕事があったので。その1つが、教育省青年スポーツ局(DYS)から頼まれていた、全国のユースセンターのコーディネーターとボランティアを対象とした「3Dプリンター操作研修」の実施概要の打合せだった。

ユニセフによる機材供与で、2019年から2020年にかけて、プログラマブルコンピューティングモジュール「Pi-Top 4」と、3Dプリンター「UP mini ES」が国内4カ所のユースセンターに供与された。正確に言うと、Pi-Top 4の方はCOVID-19感染拡大前だったので4カ所に配備できたが、UP miniの方は、COVID-19のハイリスク地域に指定されたプンツォリンやゲレフへの配備は実現せず、代わりにパロとクルタンに配備された。ユニセフへの説明上、どこかへの配備がなされて、使用開始したという実績が必要だったからだ。

ユニセフは、機材供与はしたけれど、その機材の操作や運用を指導できる専門家までは派遣していない。そこでユニセフとDYSが期待したのが、2017年7月にオープンした「ファブラボ・ブータン」だった。そもそもPi-Topの普及はファブラボ・ブータンが始めたものだし、3Dプリンターの機種選定をする際にもファブラボ・ブータンのスタッフがユニセフに助言したと聞く。このため、Pi-Topを使ったコーディングや3Dプリンターの操作研修の講師派遣やトラブルシューティングについては、DYSはファブラボ・ブータンに丸投げしてきた。

UP miniの配備が終わって2年近くが経過する。この間、ファブラボ・ブータンは各地のユースセンターにスタッフが出向いて研修やワークショップを行った。機材に不具合があると、スタッフがその都度現地に行ったり、不具合の報告された機材をファブラボで引き取り、修理を行うという対応をした。

ところが、そのファブラボ・ブータンは、いろいろな事情があって、スタッフがどんどん辞めていった。昨年11月には名称が「ファブラボ・マンダラ」に変更され、今年8月にはDSP(DeSuung Skilling Programme)に経営譲渡が行われたらしい。このあたりの経緯は僕も知らないところが多い。でも、結果として、ユニセフが供与した機材の有効活用の前提としてあった筈の、ファブラボによるサポートが受けられなくなってしまった。(DSPに経営譲渡されたということは、今後のファブラボ・マンダラは、DeSuupの技能向上や収入創出活動に主に利用される可能性が高く、他の省庁や政府関係機関がお願いしても簡単に受けてくれないであろうことが予想される。)

そこで、同じUP miniのユーザーで、トラブルシューティングも経験もそこそこ持っている僕に白羽の矢が立ったというわけ。DYSも、僕がCSTにいるということで、これまでUP miniを配備して来なかったプンツォリンユースセンターに、パロから1台回して下さることになったし、僕もそのプンツォリンのスタッフやボランティアによる操作修得は手伝わないといけないと思っていたところだったので、3Dプリントにまず特化してオンラインで始めるのは構わないと回答した。

それで、今回の打合せにつながっている。

10月に僕が今回の一時帰国から戻って来てから、10月中旬にはさっそく開催することになっている。

打合せの過程で、いくつか気になったことがあるので述べておく。

1つめは、ユニセフの援助のやり方。STEM教育推進といったら聞こえはいいが、けっこう危なっかしいやり方を取っている。機材供与だけして、その運用体制の構築にはほとんど関与していない。3Dプリンターの場合、材料であるフィラメントや消耗品であるノズル交換品など、ブータンでは手に入らないものの調達と供給体制にまで目を向けないと持続可能な体制にはならない。そこはブータン政府(DYS)の仕事だと割り切っていたように感じられる。

2つめは、現場のユースセンターでは、昨今の政府の公務員制度改革の影響で、マネージャーのポストが空席になっている。昔Pi-TopやUP miniを使わせようとしてファブラボ・ブータンのスタッフが研修講師を務めていた時代の人材育成対象者だったマネージャーや当時のユースボランティアが、今はほとんどいない。人材育成はやり直しだ。ユースセンターを束ねるDYSと話していて驚いたのは、ファブラボ・ブータン(ファブラボ・マンダラ)が経営譲渡されたという話をご存じなかった点だ。先述の材料・付属品の調達や供給体制とか、機材導入するなら制度作りは考える必要があり、それはファブラボ・ブータンと継続的に協力していく必要があった。いかにCOVID-19の影響はあったとはいえ、もっと早く手は打てたと思うし、その過程でファブラボ・ブータンの置かれた状況にも注意が向かっていたと思う。

3つめは、ユースセンター側の認識。昔研修を受けたスタッフやボランティアが不在で、新しい人ばかりになったからかもしれないが、「UP miniはあまりいい機種ではないからもっと高性能のものが欲しい」とか、「プリントに時間がかかり過ぎる」とか、DYSにクレームしてきていると聞く。DYSの人もそれを鵜呑みにして、「UP miniは良くない」と愚痴っておられたが、僕的にはUP miniは日本のファブ施設に行けばよく見かける標準機種の1つだし、知人であるファブラボ・ネパールの関係者も、「あれは良いモデル」だと薦められたこともある。プリントに時間がかかり過ぎるのは3Dプリントではある程度やむを得ないことである。もちろん、ノズル口径を変えたり充填率を変えたり、サポート材をなるべく使わない印刷方法を取ったりすれば、ある程度までは速度は挙げられるが、質では妥協を強いられる。短期間の研修では、こういう話は端折る可能性が高く、利用者側で自分で考えていろいろ試していく必要がある。印刷環境も、冬場のティンプーとクルタンやゲレフあたりとでは相当違う筈で、それは結果に影響も出る。人材育成をやり直すなら、そういうところにも言及していかないといけない。

4つめは、そうはいってもこのSTEM教育普及体制はファブラボ・ブータンが機能することが前提だった筈だ。自分たちが経営譲渡したら迷惑をこうむるであろうDYSやユニセフに対して何ら事前連絡もせず、経営譲渡してあとは知りませんというのは、ちょっと失礼なのではないかと思う。このユースセンターの件に限らず、ファブラボ・ブータンの経営譲渡は、他の方面でも影響が出てくる可能性がある。項を改めて、この件については述べられたらと思う。

ちなみに、DYSからは、Pi-Top 4の方のオンライン研修も打診されたのだが、僕自身が使った経験がほとんどないため、時期尚早としてお断りした。Pi-Topに関しては、公認インストラクターが既にブータンにもおり、間もなくフリーになって、コーディングを教えられるような事業を立ち上げると本人も話しているから、ちゃんとした報酬を払って、彼にやってもらえる体制を作る方がいい。もちろん僕自身も勉強はするけれど。

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