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大学改革の方向性 [ブータン]

要約(長くてスミマセン)
王立ブータン大学(RUB)は現在、各カレッジのコースの再編を行っている。一部コースの廃止と新コースの新設を、傘下の10大学及び関連する私大2校に適用する。コース改編の実施時期は2023年7月を想定。すでに入学済みの学生は配慮される。

現在、各キャンパスの活用の最適解について議論されている。焦点は、よりSTEM(科学、技術、工学、数学)要素を強め、卒業生が就業に備えられるようにすること。

逆に、廃止が検討されるコースもある。人文科学系コースを持つカレッジは、パッケージの再編を既に検討開始している。その場合も、労働市場のニーズとの適合策は必須。経済学や統計学も、人文科学系の一部として扱われる。理論だけを教えるのではなく、経済原理をファイナンスや開発等に適用する方策もカバーされる。統計学も同様。RUBは既に、タクツェのブータン・ヒマラヤ研究プログラムを廃止済み。

STEM教科へのシフトは実社会との整合を図るもので、基礎科学も重要だが、焦点はいかにそれを農業や工業等の分野に適用できるかである。これは今世界中で起こっているテクノロジー分野での加速度的な変化への対応とも整合するものである。

RUB副総長によれば、学生はこれによって将来に備えることができ、今後のテクノロジーの変化にも応じられる学生が育つことを見込んで、テクノロジーベースのプログラムの新設を目指すという。CSTやゲルポシンITカレッジ(GCIT)の果たす役割は今後増大が見込まれる。現在、GCITでは、ビッグデータやAI、ブロックチェーンを見込んだ改編が進んでいる。この改編にはインフラの整備も必要。

改編は、コースの重複の回避も含む。シェラブツェカレッジのメディア学科とロイヤルティンプーカレッジのマスコミュニケーション学科は、多くの領域での重複が見られる。一方で、こうした学科で学ぶ学生の労働市場は小さい。シェラブツェとノルブリンリグターカレッジの英語ゾンカ学科は1つのカレッジに統合される。RUBは教育省とも協議し、パロとサムチの教育大学の改編も視野にいれる。商学や経営学も改編の対象。

新設コースとしては、GCITのコンピュータ科学科でAI開発やデータサイエンスに集中し、もう1つの学科でブロックチェーン、機械学習、デジタルメディア、フルスタック開発等を担当する。教授法も、よりデジタルプラットフォームを活用することが強調される方向。

CSTに配属されていると、RUBの大学教育改革についてチラホラ漏れ聞こえてくることもある。今の僕の仕事はCSTにファブラボを作って運営を軌道に乗せることなので、まさにこの記事にもあるような、学生にハンズオンの経験を提供できるプラットフォームを作る仕事をしていることになる。

その意味では僕自身はわりと居心地が良い方向性である。ただ、長年文系人間としてキャリアを歩んできた身としては、一抹の寂しさも感じる。特に、僕自身は記事でもちょっとやり玉に挙がっているように見える経済学と開発学の修士号取得者なんで、自分自身を否定されている気がしないでもない。

1つは、人文、社会科学系学問領域に対して、極端に冷たい方向性に舵を切ってしまっていること。なんでもかんでもSTEMに寄せて、工学系の大学を厚遇しようとしているようだ。逆に人文・社会学系にSTEM教育的要素を入れていくという方向はあまり見えない。工学系の大学でも人文・社会学系の知見を取り込んでいくよう仕向けるのも一案だが、そのあたりのことは記事だけからはわからない。エンジニアが陥りがちな罠は、テクノジー重視で利用者の利便性をあまり考慮しないでものを作ってしまうことにあると思う。そこを埋められるのは社会学や人類学の知見やアートのセンスの筈だが、現状そのあたりは考慮されているようには見えない。リベラルアーツを軽視して、STEMの実学に極端にシフトするのが、本当にいいことなのだろうか。

2つめには、RUBのカレッジを全国に分散させたのは、地域の課題解決に大学を貢献させたいとする意図が最初はあったのではないかと想像するが、実際のところ大学は専門分野による縦割りになっているから、地域の課題解決に積極的に取り組める体制にはなっていないし、教職員の多くも、学生も大学構内で生活しているので、地域へのアウトリーチにあまり意識が向いていないように思える。京都大学がJICAの草の根技術協力事業でシェラブツェ大学をカウンターパートにやろうとしているのがこの大学・地域連携のケース作りだと僕は注目しているのだけれど、そのシェラブツェが記事でもリストラの対象としてたびたび言及されている。大学・地域間連携がいちばん進められそうな体制になっているシェラブツェが、この大学改革の波に最もさらされているように見えるのは残念だ。

3つめには、この改革の方向性を推しているのがシンガポール人専門家であるということ。しかも、実業バックグランドの人たちらしいとも仄聞する。そして、ゲルポシンITカレッジは、経営幹部の多くがシンガポール人で占められている。なぜシンガポールなのだろうか。長年、ブータンの開発のために協力してきた日本やJICAは、なんで意見聴取もされないのだろうか。僕自身も含めて、日本人でカレッジの教育と何らかの関わりを持っている人たちは、それぞれに与えられた現場でできることをやっていると思うが、それが大学改革という大きな方向性に関する議論に反映される仕組みになっていないのは、勿体ないことだ。

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