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卒業式での国王演説 [ブータン]


王様が大学院や大学の卒業式で演説をされるのは、パンデミック以後初めてのことだったらしい。演説の全文はわからない。いずれクエンセルあたりが別刷りで1枚挿入するような配慮もしてくれる、かもしれないが、取りあえずBBSの報道を見て要点の中のさらに自分的には要点だと思ったところを抜粋しておく。

我々の全ての目標と理想を実現するために、我々は信念を持ち、自制を利かせたくじけずやり続ける根気が求められる。毎日の小さな努力の積み重ねが、大きな結果につながる。

将来に向けて一歩を踏み出そうとする人々にとって、重要なのは、何か情熱を注げることを選ぶことだ。

学び続け、この変化の激しい時代に成長し続けられるキャリアを選んで欲しい。我々は自分の技能のアップグレードを常に行っていないと、必ず置いてきぼりを喰うことになる。

インフラと教育は、強固な未来を築く基盤を形成するものだが、現状はこれらが我々にとっての弱点となっている。インフラの改善とより活力のある経済の計画策定に先立つ規制環境の改善に向け、多くの取組みが行われねばならない。

ここで言われていることは、自分で課題を見つけて取り組むことや、そのために自分自身のスキルのアップデートを自身で自覚してやっていかねばならないことだと、僕は自分なりに理解している。その上で、カレッジ(CST)を中で観察していて、また国内のファブラボを見ていて思うことがある。

第1に、カレッジで見ていると、教員が講義しているシーンが目につく。教師は教える、学生は教わる、という構図がはっきりとしている。ゆえに、教員は常に忙しい。教員自身が長期的に取り組んでいる研究課題があるわけではなく、かなり教えることに特化している。(この点は、同じ工学系の大学で勉強していた長男の話を聴いて、日本とブータンとでは大きく違うと感じる。)

第2に、カレッジでの参与観察を始めてからまだ3ヶ月少々という段階で言うのは時期尚早かもしれないが、教職員も学生もカレッジ構内で「閉じて」いて、外部との接点が少ない。4年生の卒業研究のテーマ検討過程を見ていて、そもそもその研究の受益者となりそうな外部の人へのヒアリングや、フィードバックをもらう機会があまり考えられていない。教員が外部の人や組織とのネットワークを持っていて、学生をつないであげられるといいのだが、教員自身が教務に特化していて、特定の研究テーマで外部との接点を持っていない状況では、そういう「つなげる」役割には限界もありそうだ。結果、自分で課題を見つけるというのができていない。

第3に、こちらのカレッジは、日本や欧米の大学と違って時間割がけっこうガチガチに組まれていて、学んでいる内容のレベルの違いは別として、印象として日本の高等学校の日課に近い。早いところでは7時15分から講義開始しているし、夕方5時まで実習をやっていたりする。繰り返しになるが、教員も忙しいが、学生も忙しい。でも、これだと課題探求の時間は取れない。もう少し、自分自身の課題に取り組む時間が作れないといけないのではないかと感じる。

そういう時間がないと、教員にしても、学生にしても、学内にファブラボがあっても利用しないという状況に陥りかねない。僕が感じている危惧はそんなところにある。

最後に4点目である。王様もRIMの卒業生に対してこうしたメッセージを発しておられるのだから、当然、この話で想定されているのは若者自身の取るべき進路についてであるわけだが、それを周りで聴いていたであろう「大人」が、自分事として捉えていないとしたら残念なことだ。これはカレッジの教員にも言えることである。変わらなければならないのは周りの大人も同じで、自分のスキルのアップグレードは、自分が何歳であっても継続的に取り組まなければならない。

僕がよくたとえに出すのは、僕が「ファブラボ」というものを知ったのは2013年、僕が50歳になった直後だった。それから9年、王様がおっしゃるような「毎日の小さな努力」を積み重ねてきたわけでは必ずしもないが、人には語れる、機械も多少は動かせるというステップアップには当然取り組んできたし、今はCSTにできるファブラボの開所を目前に控えて、それにも拍車がかかっている。結構自分自身を追い込んでいる。確かにファブラボCSTのメインユーザーは学生だ。でも、教員が使い方を知らないで利用を慫慂できるとも思えない。教員にももうちょっと入ってきて欲しいと思う一方で、彼らも忙しいのだというのもわかっている。

今週、王立ブータン大学機構(RUB)が「トランジションチーム(移行チーム)」を組んで、CSTの現状把握を進められている。来られているのはRUB副総長、王立ガバナンス戦略研究所(RIGSS)所長、それにシンガポールから来られた専門家お二人である。又聞きでしかないが、今回は予備調査で、今後、近い将来に、このシンガポール人の専門家が半年ぐらい常駐して、大学の実態を参与観察で把握し、改革の方向性について提言をまとめることになるらしい。すでにゲルポシン情報技術大学(GCIT)がこのプロセスを終えており、学長を含め、上層部には多くの外国人が就任している。CSTも今後、そんな体制になっていくのかもしれない。
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