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『玉川兄弟』 [地域愛]

玉川兄弟(上) (講談社文庫)

玉川兄弟(上) (講談社文庫)

  • 作者: 杉本苑子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/04/26
  • メディア: Kindle版
玉川兄弟(下) (講談社文庫)

玉川兄弟(下) (講談社文庫)

  • 作者: 杉本苑子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/04/26
  • メディア: Kindle版
内容紹介
【上巻】江戸は飲み水に不自由な土地であった。町の発展ひいては幕府の威令をいきわたらせるため、多摩川の水を江戸に曳くという壮大な計画が生れた。多摩川上流に生をうけた土木業者、枡屋庄右衛門・清右衛門兄弟は、目先の利益を排して見事入札に成功、数多の困難に立ち向う。若い兄弟の不屈の闘いをえがく歴史巨篇。玉川上水開墾に雄々しく立ち向かう若い兄弟の物語。
【下巻】江戸に生命の水を! 武蔵野の原野を貫く玉川上水開鑿に、若い兄弟は精魂を傾ける。しかし、自然の猛威はいたるところで牙をむき、計画の変更も余儀なくされ、遂には二人が師とも仰ぐ道奉行・伊奈半十郎の切腹にまで事態はいたる。彼らの無私の祈りは果して天に通じるか。……著者ならではの史眼が冴える感動巨篇。
【Kindle Unlimited】
このブログを2005年2月に開設して半年ぐらいした頃、一度だけ玉川兄弟を取り上げたことがある。長男が小学校になり、学校の授業で玉川上水のことは習ったらしいので、僕も一緒に勉強しておこうと、市立図書館の児童書のコーナーで玉川兄弟の関連書籍を借りて読んだ。当時はサンチャイ・ブログは読書ブログとしては確立していなかったため、何を読んだのかまでは記述がない。

玉川上水を取り上げるのはそれ以来となる。何をきっかけにして僕が初刊1974年という昔の作家の作品を取り上げたのかというと、その文庫版が講談社から1979年に出ていて、Kindle Unlimitedで読むことができるのを最近知ったからだ。何かの拍子に存在を知り、「読みたい本」のリストに載せてあったのだが、Kindle Unlimitedで読めると知るまでは、帰国した際に図書館で借りて読もうと漠然と考えていた。

さすがに羽村取水口あたりには土地勘はないのだが、福生・熊川や日野、府中、牟礼あたりは東京での自分の行動半径の中に入っており、土地勘もある。接続された野火止用水のルートについてはイメージがしにくかったけれど、少なくとも玉川上水がどこをどう通っているのか、下高井戸あたりまではだいたいルートがイメージできる。

一次史料が乏しいと言われているので、この小説が史実だとは言い難いが、土木工事を発注する側の幕府の問題意識や役人的論理、調達から発注までにプロセス、施工監理における施工業者との関係性等、現代の公共事業にも通じる様々な手続きの側面が描かれている。逆に受注した枡屋側での入札までの準備プロセス、施工にあたっての原材料調達、作業員調達、地元関係者との折衝、資金繰りなども克明に描かれていて、入札額を決めるにあたっての利鞘計算の思惑やら、入札前から行われている原材料確保やら、同業他社との駆け引きやら、公共事業を巡る様々な側面を追体験できる、面白い小説だった。著者もよく調べられたと思う。

おそらくどこかの新聞か雑誌で連載されていたのだろう。全体のボリュームが決まっている中で、どうしてもウェートが、日野案から福生案、さらには羽村案になるまでに二転三転した取水口の設置個所に置かれてしまうのはやむを得ないかもしれない。それ以降の水路の浚渫があっという間に終わってしまうのには驚いた。別途土木作業員を雇って同時並行で水路浚渫工事が進められていたのならともかく、取水口の工事を終えてから戦力を水路浚渫に展開していったような記述があったので、そうすると水路浚渫のあっけなさに戸惑いは覚える。ちょうどその区間に僕の自宅のある町も位置しており、そのあたりの工事の過程で何かエピソードはなかったのかなどと、求めてしまうのはないものねだりなのだろうか。
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