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象害はブータンだけじゃない [ブータン]

象の被害が増加:ラモジンカ
Increasing conflicts with elephants in Lhamoidzingkha
Choki Wangmo記者(ダガナ)、Kuensel、2022年7月1日(金)
https://kuenselonline.com/increasing-conflicts-with-elephants-in-lhamoidzingkha/
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【ほとんど抄訳】
カルマ・バハドゥル・モンガルさん(73)が車いす生活を始めてから8年になる。これだけでも生活は大変だが、象の攻撃から逃れることができ、幸運だったと述懐する。彼は、2014年、ラモジンカのクルル村で牛を飼っているところを1頭の象に襲われた。逃げることはできたが、胃に重症を負った。ラモジンカ病院から、ゲレフにある中部地域レファラル病院に搬送された。手術後、彼は歩けなくなった。

ラモジンカにおける野生動物の被害は主に象の襲撃によるもので、近年増加している。ラモジンカ郡のラクシュマン・チェトリ副郡長は、毎晩のように住民から電話を受け、象を追い払うのを助けてほしいと依頼される。一晩のうちに、異なった場所での襲撃の報告を受けることも。副郡長は森林事務所やレンジャーとともに象を追い払うのに対応を迫られるが、象もより賢くなってきており、ソーラーフェンスやその他のバリケードを難なく乗り越えて行ってしまうという。この郡はインド国境に近く、インド側での狩りから逃れるため、ブータン側に逃げてきているのだという。

2014年以降、象による大きな襲撃は3回起きており、昨年は1人が犠牲になった。最近では、コイラタール村の53歳の男性が自宅で象の襲撃を受け、ティンプーの国立病院に搬送された。

ラモジンカのスルジャ・バハドゥル・リンブー郡長は、獣害対策の新たな戦略でもないと、人口増加とともに人間が彼らの生息地に踏み込んでくるのに伴い、この問題が将来深刻化すると見ている。象は牙を使って電気柵を引き抜く。

数カ月前、パグリ村の7つの世帯が象によってカルダモン畑約7エーカーを荒らされるという損害を受けた。補償措置でもなければ、農民は路頭に迷うと郡長は懸念を示す。住民によると、象は檳榔樹園にも侵入を始めたという。人口の70%近くが檳榔樹からの収入に頼っている地域だ。郡長は、人手不足では獣害のモニタリングもままならないと嘆く。

ラモジンカの郡計画官であるキンレイ・ドルジ氏によると、この地域では獣害が多発しているという。地元の方法では野生動物を撃退することはできなかったという。モンスーンの時期はもっと頭が痛い。街灯の設置は解決策の1つになり得るかもしれないと氏は語った。 .

僕自身が象の被害に遭っているサムチ県に行ったりし始めたこともあるが、象に農地や家屋を踏み荒らされる被害について扱った記事を見かけて、矢も楯もたまらず取り上げてみることにした。

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《ここ、きっと1頭ぐらいはいるよね…》

どういう切り口で述べようかと考えたのだが、相手が巨大野生動物だけに妙案がなかなか思い浮かばない。メディアは結局被害の報告の話が中心で、被害を受けた農地や家屋の様子しか写真に収めない。そこで気になった疑問点を3つ挙げておこうと思う。

1つめは象の習性について。被害っていつどこで起きているのか、その時何頭の象がいたのか、どういう経緯で襲撃に至ったのか、そもそも象って他の動物に対してそこまでアグレッシブな動物なのか、そういう分析がどの程度なされているのかというのがわからない。例えば、記事の中で「街灯を点けたらどうか」なんて述べている郡庁関係者の発言が引用されているが、街灯があったら象は侵入して来ないということなのか、それは実証されているのか、それに、同じ記事の中に、村人が畑仕事をしていて象に襲われたとの記述もあるが、つまり昼も夜も危ないということなのだろうか。そして、そもそも野生の象の習性について、これまで研究されたことがあるのかがよくわからない。敵を知る努力をどこの誰がしているのか、すぐに思い付かないのだが…。

そう思いながら浮かんできた2つめの疑問は、ブータン国内でそういう象の習性を調べる研究機関がないのはそうかもしれないが、お隣りのインドはどうなんだろうかということだ。習性の研究が行われているなら、対策についてもインドでは何らか実績があるのかもしれない。そう思いながら西ベンガル州やアッサム州での象害対策について検索してみると、「HWC(Human-Wildlife Conflict)」ではなく「HEC(Human-Elephant Conflict)」という言葉まで既に使われており、いくつかの対策事例が紹介されていた。

新しいトイレがHECに効果:西ベンガル
West Bengal: How new toilets are going to help reduce human-elephant conflict
India Today、2017年1月8日
https://www.indiatoday.in/india/story/west-bengal-human-elephant-toilets-953813-2017-01-08
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北ベンガルのHEC予防に早期警戒システムを設置
Early warning system to prevent human-elephant conflict in N Bengal
Business Standard、2019年8月12日
https://www.business-standard.com/article/news-ani/early-warning-system-to-prevent-human-elephant-conflict-in-n-bengal-119081201329_1.html

500頭の象が25の茶園を横切れるようにした教員
Meet The School Teacher Making Way For 500 Elephants to Cross 25 Tea Gardens
The Better India、2021年8月16日
https://www.thebetterindia.com/260553/wildlife-conservation-elephants-save-school-teacher-hero-west-bengal/

農村部でのトイレ設置を進め、住民が迂闊に野外で用を足して象の餌食になるのを防ぐのに効果があった話とか、いかにもインドっぽいソリューションもある。象害対策として人命をとにかく最優先するというのであれば、こうやって迂闊に外を歩かないという方法以外にも、農園に象の侵入を感知できるセンサーを導入して、半径200メートル以内に象が近づくとスマホで警告メッセージが発信されるというアイデアも、人命を守るという目的からはあり得る選択肢だと思う。

農地を保護するというのなら、センサーが象の侵入を感知したなら強力なフラッシュライトを浴びせるとか、大きなサイレンを鳴らして怯えさせるとか、サイレンとは言わないが、象が嫌がる周波数帯の音を探し出して、農地周りのスピーカーで流すとか、いろいろやり方がありそうだ。いずれにしても、ライトやサイレンに対してどこまで象が臆病なのか、象の習性をもっと学ぶ必要はあるのだが。

もう1つのやり方は、ひょっとしたら土地利用の制約があってブータンではなかなか実施が難しいだろうが、象の通り道(コリドー)を決めてそこに象を誘導し、それ以外の農地を守るという方法が、インドでは取り入れられているようだ。

インドの記事検索だけでも結構な数のソリューションが紹介されている。メディアにそこまで期待するのはないものねだりでしかないが、同じ課題にはインド側であっても直面していると思うので、国内の出来事だけで嘆いているより、隣国の経験から学んでみるような枠組みがあったもいいのではないか。

さて、それと関連して3つめの疑問は、まさにこの両国の相互学習の枠組みの欠如についてだ。インドでもブータンでも象害が問題になっているというのであれば、研究成果や取組みのグッドプラクティスを共有できるとよい。現状、そういう成果共有や共同研究の枠組みについては、残念ながら耳にしたことはない。

問題だ問題だというのであれば、対策について研究開発を主導する部署があるべきだし、国境をまたいで隣国にも同様の問題があるのなら、一緒に研究開発を進めるべきだ。

僕のいるCSTも、工科大学でかつこの問題はかなり身近で感じられるものなのだから、IoTを用いた何らかのソリューションの試作に取り組むべきだと思う。問題は、象牙の塔に籠っていては現場のリアリティを自分事としてなかなか感じられないことと、教員主導でこういうプロジェクトに数年間にわたって取り組むための制度が整備されていないことだ。ご近所にニーズがあるのは明らかで、しかもそれを開発するための施設も揃っているのに、それを推進するための制度がないというのは残念なことだ。

タグ:獣害 IoT インド
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