『続・森崎書店の日々』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)【購入(キンドル)】
本の街・神保町で近代文学を扱う古書店「森崎書店」。叔父のサトルが経営するこの店は2年前失意に沈んでいた貴子の心を癒してくれた場所だ。いまでは一時期出奔していた妻の桃子も店を手伝うようになり、貴子も休みの日のたび顔を見せていた。店で知り合った和田との交際も順調に進んでいたが、ある日、貴子は彼が喫茶店で昔の恋人と会っているのを目撃してしまう。一方、病後の桃子を労う様子のない叔父を目にし、貴子は夫婦での温泉旅行を手配するが、戻って来てから叔父の様子はどこかおかしくて…。書店を舞台に、やさしく温かな日々を綴った希望の物語。映画化された「ちよだ文学賞」大賞受賞作品の続編小説。
『森崎書店の日々』をご紹介した際、「間髪入れずに続編も読むだろう」と述べていた通りで、すぐに読んだ。内容はあらすじでも示されている通りで、それ以上に踏み込むとネタバレになってしまうのであまり詳らかにはしないが、前作のうち、映画化された「ちよだ文学賞」大賞受賞作品というのは前半の部分のみで、後半の「桃子さんの帰還」自体が続編扱いとなっている。その桃子さんと、同じくこの頃貴子が知り合った「和田さん」というのが、本日ご紹介する続編のキーパーソンと言ってもいい。これら2冊はセットで1つの長編小説と考えてもいい。
で、前作と同様に神保町の本好きを虜にして止まない魅力や、落ち着いた佇まいが、作品全体からにじみ出ているようで、好感持てる作品だと改めて強調しておく。
読みながら、いろいろなことを思い出していた。
僕の神田神保町での書店バイトの第二期は、1986年秋頃から87年夏頃までだったと思う。留学のために1年大学卒業が延び、そこから大学院に進むことを決めて、大学卒業に必要な最低限の単位だけ確保するために大学へはほどほどで通い、あとは大学院での学費を稼ぐためにバイトに精を出していた頃だ。で、大学院に入って最初の夏は台湾を2週間訪問することになったため、そのタイミングで書店バイトを辞めた。以後は当時東武東上線沿線に住んでいたので塾の講師ぐらいでとどめて、あまり勤務時間が長いバイトは控えていたと記憶している。
前にも書いた通り、その神田神保町での書店バイトでその後も一生の付き合いとなる友と出会えたし、その友も人生の伴侶となる彼女ともその頃神保町で出会っている。僕自身も、本作品の「和田さん」みたいな立ち位置で、神保町で待ち合わせができるような彼女がいた時期でもある。それが別れちゃったので気分転換のために台湾行きの話に乗った。とにかく読書には事欠かなかったし、読んだものはなんでもすぐに吸収できたような時期だった。院生時代も含めて足かけ7年にも及ぶ学生生活の中で、最も充実していたと思えるのがこの神田神保町時代だ。
そして、その時代を思い出させてくれる雰囲気を、本作品はまとっている。ケータイやインターネットがまだ重きをなしていないからかもしれないが、本作品が1980年代後半の神保町舞台の作品だと言われたとしても、なんら不思議さを感じない。
東京に出てきてから今年で40年が経ち、目白や椎名町、桜台、東武練馬など、自分のゆかりのある地の街並みは大きく変わった。学生時代に暮らしていた寮も、アパートもすべて建て替えられていて、しかも寮に至ってはその後に建てられた家屋もすでに築35年であり、年季が相当入っている。新陳代謝を感じずにはいられない。
一方、神田神保町は、靖国通り沿いの街並みの変化は感じるけれど、古書店街のエリアは、あまり変わったとは感じない。そこらだけ時間の流れが緩やかで、当時の僕自身と会えそうな期待も抱いてしまう。
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