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『朝の歓び』(上下巻) [読書日記]

新装版 朝の歓び(上) (講談社文庫)

新装版 朝の歓び(上) (講談社文庫)

  • 作者: 宮本輝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/11/14
  • メディア: Kindle版
新装版 朝の歓び(下) (講談社文庫)

新装版 朝の歓び(下) (講談社文庫)

  • 作者: 宮本輝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/11/14
  • メディア: Kindle版
内容紹介
【上巻】妻を亡くした良介は、会社を辞めたことを子供たちに告げないまま旅に出た。昔愛した日出子の故郷を訪ねて再会した二人は、彼女が学生時代に旅行先で出会った少年の成長を確かめるためにイタリアへと旅立つ。それは良介にとっては父親と喧嘩して出奔しローマで暮らす兄と再会するための旅でもあった……。
【下巻】ボタンのかけ違いでもう会わないと決めた良介と日出子。親友の内海から愛人が妊娠したという相談を受け、ゴルフの師と仰ぐ大垣老人からは思いがけない過去を打ち明けられる。亡き妻に似てきた娘、登校拒否の息子、そして別れた二人の思いは? 人生における朝と夜、人間の幸福について問う傑作長編小説。
【Kindle Unlimited】
久しぶりに宮本輝でも――と思い、Kindle Unlimitedで選んだのが本作品。平成4年(1992年)9月から日本経済新聞紙上で1年間連載されていたらしい。どうりで、携帯電話があまり登場しない。私室に電話を引く引かないのとか、公衆電話のシーンも良く出てくるし、留守電も多用されている。そういうところには時代を感じる。

僕が会社勤めを始めて、早めに消化しろと先輩方から言われて取った最初の夏休みは、1989年6月の能登半島1周旅行だった。この作品の最初の舞台になった「ぼら待ちやぐら」で立ち寄った記憶はないが、奥能登から七尾までは車で走っているので、こと能登が登場するシーンでは懐かしさにも駆られた。

ただ、全体的には、これまで読んできた宮本作品の中でも、最も理解しづらかった―――というか、受け付けられなかった。

奥さんに先立たれた40代半ばの男が、妻の保険金を使って、4年前に別れた愛人とイタリア旅行に行き、さらには現地で別の20代前半の女性と出会って、愛人と別行動するたびに食事や会話の時間を取っているという話を、どうやったら心情的に受け付けられるのか。そもそも4年前に妻に内緒で1年間その愛人との逢瀬を重ねていた話もそうだし、その親友の内海も、現在同じようなことをやっている。さらに登場する80代の大垣老人も、良介や内海らと同じ年齢だった頃は、複数の女性と関係を持っていたことを認めている。

作品の主要キャストである大人の男性が、そろいもそろってこんなことをやっている。作中、内海が「いまの日本は、何もかも狂ってる」と、良介の息子の登校拒否について他人事のように語っているシーンがあるが、どの口が言うと思った。

そんな男性側の性癖もさることながら、もう1つ理解しがたかったのは、日出子の思わせぶりな言動の数々。宮本作品の特徴として、会話が延々と続く場面が多くて、僕はそれがこの作家の良さだと思ってきたが、あー言えばこー言うという変な駆け引きみたいなものがあまりにも多く、この女性を理解するのは困難を極めた。「日出子のやってることは、俺には複雑すぎる。複雑なことは疲れる」と良介をして語らせている。でも、お互い「もう会わない」と誓い合いつつ、ちょっとしたら贈り物を突然送ってきたり、で、結局また会っちゃったり。なんかもう付いていけない。なかなか集中して読めない作品だ。

もう1人、さつきという大卒1年目ぐらいの若い女性も出てくる。日出子に比べればマシに見えるが、それでも、なんで40代半ばのおっさんと時々会ったりしているのか、そこは自分の理解の限界を超えている。なんか、こういう複雑な女性ばかりだと、若い頃の恋がそのまま結婚にまでつながるのは難しいのかと一般化したくもなる。なるほど、学生時代に付き合っていた彼女が何考えてるのかわからないと僕も思ったことがあるが、そりゃあ別れても当然だわな。そういえば、「あなたのことがよくわからない」と当時彼女にも言われたかな(苦笑)。

但し、良かった点もある。障がいを持つ子に対する明るい振る舞い、自立に向けた働きかけ、障がい者の周りの人々のあるべき姿は、作品の主題にまで昇華されていなかったかもしれないが、好感は持てるところではあった。また、登校拒否になりかけた高1の長男に対する良介の接し方、特に、本人の意思決定を黙って待ち、それを尊重するという父親としてのあり方も、自分が我が子と接する際には意識していたいものだ。作品のタイトルは「朝の歓び」となっているが、「生きる歓び」と言い換えてもいい。むしろ、その方がしっくりくる。少し前に読んだ伊吹有喜『風待ちのひと』と同じテーマだ。

こうして、断片的にはいい要素もかなりちりばめられていた作品なのだが、いかんせん主要登場人物同士が絡む部分ではどうしても共感できず、作品全体の評価としてはイマイチだった。

うちの場合は妻の方がずっと長生きしそうだし、保険金なんてあり得ないと思うが、会社を辞めて、こういう充電期間を半年以上も過ごせたらいいだろうなぁと思ったりはする。
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