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『ミス・サンシャイン』 [吉田修一]

ミス・サンシャイン

ミス・サンシャイン

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/01/07
  • メディア: 単行本
内容紹介
僕が恋したのは、美しい80代の女性でした…。大学院生の岡田一心は、伝説の映画女優「和楽京子」こと、鈴さんの家に通って、荷物整理のアルバイトをするようになった。鈴さんは一心と同じ長崎出身で、かつてはハリウッドでも活躍していた銀幕のスターだった。せつない恋に溺れていた一心は、いまは静かに暮らしている鈴さんとの交流によって、大切なものに触れる。まったく新しい優しさの物語。
【購入(キンドル)】
祝・マイカテゴリー「吉田修一」の10件到達!———但し、『横道世之介』およびその続編だけでのべ3回も取り上げているから、カテゴリーを設けているわりに、多くの作品を読んでいるわけではない作家でもある。

マイカテゴリーを設けているわりに、作品を読んでいない作家が何人かいるというはずっと忘れていたのだが、今回は、そんな吉田修一の新作で、かつキンドルでもダウンロード可能だったので、週末読書のつもりで読み始め、週明けになってから読了した。

読後感が心地よい作品だった。久しぶりの吉田作品なので過去に読んだ作品との比較も難しいのだが、これくらいに人畜無害の主人公を立てる一方で、元銀幕の大スターだった鈴さんとか、「せつない恋」の相手となった桃ちゃんとか、「陰」———というか、触れられたくない、語りたくない部分を持った周りの登場人物を対照的に配置して、うまい展開のさせ方をしていると思う。

僕、こういう平々凡々とした主人公の作品が好きなのである。こんな、元大女優とか、有名人とかと絡んだことはもちろんないし、大学院の指導教官からこんな仕事を斡旋されたこともないが、人並みにはこの一心クンのパターンに近い行動はしていた時期が学生時代にはあったので。彼女が絶対自分から心が離れて行っているとわかっていても、それを認めたくない気持ちで行動をとってしまう。そして余計に悩む。そんなことは自分も若い頃にはあった気がする。(で、それはその後の結婚相手とはまったく別の話でもある。)

その上で、80代の元女優に恋心を抱く展開まで必要あったのかどうかは疑問は残るものの、そういうのもパッと燃え上がってその後は何事もなかったかのように萎んで、関係も疎遠になっていくというのも(あ、ここネタばれですね)、わかる気がしたのである。それらも含めて、結果的には予定調和的な話の展開ではあったわけだが、そういう、ひょっとしたら自分自身にもこれに近いような経験が昔あったかもなとと共感できるところが多かった作品だった。

それにしても、モデルになった女優さんっていらっしゃるのだろうか。「和楽京子」という芸名から想像されるのは京マチ子かなと思ったりもしたが、カンヌ映画祭やハリウッド進出まで盛られると、ホント誰だかわからなくなった。そこまで盛る必要があったのかも僕には疑問ではあったが、モデルをぼかすための工夫だったのかも。

ということで、これも著者の出身の長崎をうまく生かした作品となっているが、こういう作品にふれると、もう少し吉田修一を読んでみたくもなった。作品数もそこそこ多い作家だが、時々気が向いたら読んでみようと思う。それと、マイカテゴリーで項目を立てておきながらいまだに10冊にも届いていない作家についても、作品を少しアップデートしておきたいなと思いはじめている。

タグ:長崎
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