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再々読『農山村は消滅しない』 [持続可能な開発]

農山村は消滅しない (岩波新書)

農山村は消滅しない (岩波新書)

  • 作者: 小田切 徳美
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/12/20
  • メディア: 新書

【JICA事務所の書棚から拝借】
5年ぶりに再読した。元々のきっかけは、昨年末に行われた岐阜県在住の有志主催のオンライン勉強会で「内発的発展論」が扱われた際、本書の著者による「交流をエネルギーとする内発的農村発展論」に言及があったからだ。勉強会では、小田切徳美先生の農村発展論を、次のようにまとめて紹介されていた。

農村への若手移住者増、女性移住者増、「半農半X型」の職業増→関係人口に注目

地域づくりの内発性、多様性、革新性→交流を内発性のエネルギーとする新しい内発的発展論→格差是正と内発的発展のバランスの重要性→「にぎやかな過疎」へ

そこで扱われた参考文献は本日ご紹介する岩波新書ではなかったのだが、小田切先生の名前が出てきた時、「そういえば、先生の著書がJICAブータン事務所の資料室の書棚に入っていたな」と思い出した。

僕は3月14日に当地で「日本の地方開発」という講義を英語で行うことになっていた。年末にJICAの所長さんから依頼されたもので、テーマだけは縛られていた。何をどうしゃべろうか考えていた時に、前述の岐阜県有志のオンライン勉強会で「内発的発展論」に久しぶりに触れ、これは取り込もうと考えた。

いずれ事務所へ行って本書も参考文献としてお借りしようと思っていたところ、1月に入って首都ロックダウンが始まり、3月下旬まで、JICA事務所には入らせてもらえなかった。当然、講義には間に合わなかったが、自分自身でもあの講義では「内発的発展論」の日本国内での展開をうまく描き切れなかったとの反省もあったので、もう少し文献読んでみようと考えた。

本書については、過去二回の読込みの際、いずれもこのブログで紹介記事を書いている。僕の頭も今よりずっと明晰だった時期の記事なので、それはそれで読みごたえがある。
(2015年8月23日):https://sanchai-documents.blog.ss-blog.jp/2015-08-23
(2017年8月27日):https://sanchai-documents.blog.ss-blog.jp/2017-08-27

二度目の紹介記事で、「1冊で三度、四度オイシイ」と述べている。その時その時の読者の問題意識に応じて、本書は何らかの見解を提示してくれる良書だと思うので、今回も自分が注目した点を以下まとめる。

第一に、昨年12月の勉強会に出てよかったと思ったのは、著者の論点を「交流をエネルギーとする内発的農村発展論」として整理してもらえたことだった。そういうまとめ方で本書を改めて振り返ってみると、なるほど本書における著者の論点がよりクリアに理解できるような気がした。

本書が発刊された2014年頃にはまだ「関係人口」という言葉はあまり使われていなかった筈で、その頃から、それらしいことを本書の中では論じておられたことになる。

関係人口とは、仕事や観光などで地域を訪れる「交流人口」や、地域に居住・移住する「定住人口」とは異なり、地域と多様な関わりをもつ人々のことを指します。関係人口の定義としては、二拠点居住をする人、地域にルーツや愛着がある人などが該当します。
Tailor Works「関係人口とは?」より https://tailorworks.com/column/posts/03/

こう書かれてみると、本書ではまだ「二拠点居住をする人」というのははっきりとは打ち出されていない気はする。また、この定義だと、「地域にルーツや愛着がある人」の中には僕のような人間も含まれる筈で、それで日本には1800万人近い関係人口がいると言われても、そりゃそうだなと思わざるを得ない。かといって、僕のようなたまに帰省して短期滞在するだけの人間では、農山村の消滅阻止に貢献できるとは言えない。あくまでも印象だが、本書は「関係人口」よりも「定住人口」寄りのところを意識して書かれている気がする。

第二に、僕は前回の紹介記事の中で、「できればこういう本、英文コンテンツになってくれたら嬉しい」と述べていたが、調べてみたら、小田切先生、英文でも書かれていた。12月の勉強会の中で、英国ニューカッスル大学の研究者を中心に、「ネオ内発的発展論」が展開されたとあった。外部からの影響を排除した自律的な農村地域社会はありえないとし、内発と外来のハイブリッドな地域づくりの検討の必要性を主張したグループで、その影響を受けた研究者の中に、著者も位置付けられている。ニューカッスル大学から、こんな論文も出されている。(読んでないけど紹介しておく)
Tokumi Odagiri. 2011. "Rural Regeneration in Japan"
Research Report 56. Centre for Rural Economy. Newcastle University

https://www.ncl.ac.uk/media/wwwnclacuk/centreforruraleconomy/files/regeneration-japan.pdf

第三に、僕が3月に講義をやった際、効果的に述べ切れなかったのが、地域からの情報発信の重要性だった。本書で提示されている著者の「地域づくりのフレームワーク」(p.69)によると、「地域出身の人々や都市・外国人との出会いの場づくりを行い地域内外の村おこしの情報を発信する」とか、「地域の文化・資源を見直し、そこに付加価値をつけ、外の人々に認めてもらう」といった言葉で、「暮らしのものさしづくり」を図ることが1つの柱として取り上げられている。僕が講義の中で用いた「情報発信」は、そういう文脈ではなかったけれど、地域のことを知ってもらい、外の人々に認めてもらうには、情報発信に力を入れるしかない。

また、農山村移住者について、本書の終盤には、「そういった人々が持つ、インターネットを利用した発信力は、その地域で従来ないレベルとなることが少なくない。それが、さらに移住者を呼び込むという、好循環が生まれることがある。そうした視点からの移住者の位置づけが、農山村サイドには必要になる」(p.221)ともある。想定されている移住者は若い人たちだろうから、この指摘には一理あると思う。まあ、地域の情報の発信者として期待される人々の中には、自分の農村生活がいかに充実したものか、「リア充」を見せるための情報発信をしている人もいないこともないのだが。

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