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『創造的脱力』 [読書日記]

創造的脱力~かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論~ (光文社新書)

創造的脱力~かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論~ (光文社新書)

  • 作者: 若新 雄純
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/12/18
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
従来のよくできた社会システムの多くは、どうやら耐用年数がすぎ、人や組織のあり方を窮屈にしてしまっている。私たちの日常に多様なスタイルや解放的な文化をつくりだしていくには、この「かたい社会」のシステムや人間関係を、中心ではなく周辺部分からゆるめていく脱力的なアプローチが不可欠になる。白黒をはっきりつける二項対立的思考や問題解決手法には限界があり、ズレや違いを認め周囲と柔軟に関わり合い、試行錯誤しながら変化と広がりをつくっていく「ゆるいコミュニケーション」が必要だ。ゆるい就職・NEET株式会社・鯖江市役所JK課…数々の実験的プロジェクトの実態と、そこに生まれるゆらぎやとまどい、それに携わった当事者のリアルで生々しい感情の交錯などから「新しい何か」の萌芽を探っていく。
【Kindle Unlimited】
二度目のロックダウンになってから、開いた時間にYouTube動画を見ることが格段に増えた。そんな中で、成田悠輔さん(イエール大学助教授)やひろゆきさん(「4chan」管理人)の出演される「日経テレ東大学」をよく見ていたのだけれど、そうするとYouTubeのレコメンド機能で勝手におススメ動画をTOPページの上位に挙げてくるようになり、その中に成田さんや西村ひろゆかないさん、幻冬舎の箕輪厚介さんらのZoomチャットを動画で公開しているチャンネルの存在を知った。

カラオケボックスのようなところから、泥酔状態かと思わせるほどのハイテンションで、ハイトーンの声で人の話をさえぎってまでどや顔でしゃべり通そうとする箕輪氏がウザいので、視聴していい気分にはならない動画だが、そんな中で、見た目金髪でチャラそうに見える優男が入り、冷静に、場を落ち着かせるようないい発言をときおり挟んでおられるのが印象的だった。それが、若新雄純さんだった。

他の3人はそれまでにも何らかの形で名前は知っていたが、若新さんについては全く知らない。何か著書でもないのかなと調べてみたら、2015年に標題のタイトルの本を出しておられる。しかもKindle Unlimitedで読める。だったら読もうかと思い、先週末から今週半ばにかけて読んでみた。

先に動画で見てしまった金髪の優男のイメージが強いので、もうちょっと尖った記述なのかと予想していたが、文章は「です・ます」調だし、物事を「白」か「黒」かで明確に線引きしない(そこが箕輪氏と明らかに違う)、「グラデーション」の領域の存在を認め、「ダイバーシティ」を強調されていた。また、ご自身が出身であるからか福井県の地域おこしの取組みのプロデュースをされたりもしていて、共感できる著者である。YouTube動画で見てしまった最初のイメージとのギャップが凄かった。

本書は発刊が2015年末なので、それ以前の著者の実績だけがフィーチャーされている。

第1章「「グラデーション」をつくる~自意識過剰で偏屈な僕の、研究と実験」は、副題にある通り著者の生い立ちで、自意識過剰に気付き、大学に入ってそれを開放して「ナルシスト狂宴」をプロデュースし、さらに学生時代にすでに起業した話、そこから慶應義塾大学大学院でワークモチベーションの調査研究に従事した話等に展開していく。その調査から、「人は、個人で別々に目標を設定して達成しようとするよりも、チーム全体で目標を共有し、その成果や達成感もチームで共有できる方が、仕事で高い満足感が得られる」「そうした満足感には、仕事がうまくいったときにお客様とも一緒に喜べるということも含まれる」(p.41)といった気付きを得る。

続く第2章「JKが主役の、ゆるいまちづくり」は、2014年に福井県鯖江市で市役所に設けられた、メンバーが全員女子高生のまちづくりチーム「鯖江市役所JK課」の話。

鯖江市はいろいろと市民参加の取り組みをおこなってきたけれども、もともとまちおこしに興味がある人や専門的な知識・経験がある人――僕は「プロい市民」と呼んでいます――そういう市民ばかりが集まっていて、いつも同じ顔ぶれで、活動が閉鎖的になっているんじゃないかということを感じました(p.58)

市民参加・市民主役の目的は、多様化する市民ニーズに柔軟に対応し、自治体の政策や活動にも「グラデーション」をつくっていくことです。特定の専門家や「プロい市民」にばかり頼っていても、従来の画一的な地域政策は強化できるかもしれませんが、グラデーションのあるひらかれたまちはつくれません。(p.59)

そこで、元々まちづくりなんかに興味のなかった、もっと普通の市民や若者とも関わるべきだと市役所職員に提案する。そこで「女子高生」ということになる。

本章は、本書全体を通しても著者の力がいちばん入っている部分かなと思う。時系列的に見て行けば、本来なら2012年に設立したニートが取締役を務める「NEET株式会社」(第3章「ニートだけの、ゆるすぎる会社」)が先に来るべきだが、注目の集め方から見てもJK課だけでなく体験移住事業「ゆるい移住」など鯖江市の取組みは面白く(他にも別の機会に鯖江市の別の取組みの話を最近耳にした)、僕個人としても、自分の今後の実践ともつながってきそうな有用な箇所だった。

第3章のNEET株式会社の後、第4章「ズレた若者たちの、いろいろな就職」では、はみ出した若者のため就職サービス「就活アウトロー採用」、それの派生の「ナルシスト採用」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを提案する実験的プロジェクトの企画・実施体験が描かれていく。

最後に、終章「かたい社会に変化をつくる」で強調されているのは「ダイバーシティ」である。

 日本人の間には、血を流すような激しい対立があるわけではありませんが、一人ひとりの内面の世界を見て行けば、それぞれが本来もっているズレや違いはたくさんあり、まさに「いろいろ」です。僕たちは今、経済規模の拡大や生活水準の向上を目指してがむしゃらに頑張ることよりも、一人ひとりがもつ微妙な違いや複雑な多様さをお互いに認め合い、引きだし合い、そして活かし合っていくための「やわらかさ」や「しなやかさ」を必要としているのではないでしょうか。(p.199)

全体を通じて、著者の人や社会に対する見方のやさしさを感じられる1冊である。こういう人がどういう経緯で箕輪氏のような対極にいるような物言いをする人と接するようになったのか、彼らに受け入れられるようになったのかはよくわからないのだけれど、人をYouTube動画で受ける印象だけで判断してはいけないというのも痛感させられた。箕輪氏も、酔っぱらってなければいいところもあるのかもしれない(笑)。

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