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その報告書の付加価値は? [ブータン]

若者の失業対策を提案する報告書が公開
Report presenting interventions to address youth unemployment launched
Pema Seldon Tshering記者、BBS、2022年3月18日(金)、
http://www.bbs.bt/news/?p=166841
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【抄訳】
「システミックなポートフォリオに基づくアプローチを通じてブータンの若者失業問題に挑戦する」と題した報告書がもし示すものがあるとしたら、ブータンの若者が直面する失業問題に対する解決策となるだろう。今日発表されたこの報告書は、若者の失業対策のための一連の介入策を提示している。2020年の労働力調査によると、この国の若者の失業率は22.6%だという。

ソフトスキルの開発、活力ある企業家エコシステムの形成支援、民間セクター成長促進等がこの報告書が示す介入策の数々である。これらの介入策は、スキルのミスマッチや経済多様性と社会的規範の欠如、ブルーカラー労働に対するスティグマ、公務員の職種のパフォーマンスといった、雇用制度に内在するギャップを充足するのに寄与すると期待される。

労働人材省は労働市場の複雑さを和らげるための環境づくりを使命としており、こうした複雑さに対処するためにはより包括的なアプローチが必要だと認める。労働大臣は、この報告書はよい時期に公開されたもので、労働市場の課題克服のためのより革新的な戦略を考案する一助となるだろうと期待を表明。

UNDPの現地代表によると、こうした介入策の実施は若者が尊厳と選択肢を持ち、この国の理想とGNHに示された価値に沿った目的を実現させるための条件を整えるのに役立つだろうとのこと。長期的な介入策としては、イノベーションラボの促進、ミッション主導型イノベーション政策、実証実験文化の慫慂等が挙げられる。こうした介入策は、若者の潜在能力を開花させるための環境づくりに必要不可欠とする。また、短期的な介入策としては、キャリアカウンセリングやメンター制度、将来必要とされるスキルに関する調査研究、デジタル技術と関わるプラットフォームの構築などが挙げられるとのこと。これらは公的部門の職に関する固定的なマインドセットの根本要因や、サービスやソリューションの提供者としての国家に対する(依存的な)見方を打破するための取組みには必須と強調。

報告書は労働省とUNDPブータン事務所が関係機関と協働で作成したもので、各関係機関が各々の取組みと介入策策定をリードするため、各機関代表からなるタスクフォースを形成することを提言。

こういうレポートを読んで、その要約でもブログで紹介するようなことまでできたら、このブログの有用性のアップには確実につながるだろうな~~~などと思いながら、そこまではできないのでごめんなさい。あまりやり過ぎると、「それはあなたの仕事ですか?」との声が絶対に上がるので。

前回の駐在時は、そういうのも仕事の一環だと思って、国際機関がリリースした報告書は結構な頻度で目を通し、ブログで要約したりコメントしたりしていた。国際機関からドラフト段階でコメント依頼が来ることもあったが、結構しんどい思いをしながらも目を通し、期限内にコメントをするよう努力もした。(若者の失業問題もそうだが、国際機関の報告書のテーマは分野横断的なのが多くて、担当者に振れなかったんですよね…。無理やり担当者を決めても、ノーコメントでスルーされることもあったし…。)

で、自分で読んだから言えるのだが、2016年に世界銀行が『ブータンの労働市場:全ての人が裨益する質の高い雇用の創出に向けて』と題した報告書を発表している。この報告書のことはブログでも書いたし、自分の前回駐在時のかなり初期の段階で出されていて、僕自身もブータンのことを勉強しなきゃとやる気満々だったので、結構ちゃんと読み込んで、世銀にコメントを打ち込んだ。「みんなの意見を聴きました」というアリバイ作りみたいなものだから、行ったコメントを反映してもらったとは思ってないけど(苦笑)。

Bhutan’s Labor Market : Toward Gainful Quality Employment for All
https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/25703
The Royal Government of Bhutan (RGoB) places great emphasis on the creation of a sufficient number of high-quality jobs to achieve full employment. This report aims to provide robust evidence to inform the RGoB’s policy-making with regard to critical labor market challenges, underlying causes and potential solutions. Building on a conceptual framework introduced in the World Bank’s World Development Report 2013: Jobs, the analysis takes into account policy fundamentals that are essential for both growth and job creation, labor market policies that can help ensure that growth translates into employment opportunities and a list of policy priority areas where jobs might do the most for development given Bhutan’s specific country context. The report relies primarily on two data sources that provide recent robust and complementary information on labor supply and demand in Bhutan: First, the Bhutan Labor Force Survey (BLFS) 2014, a representative labor force survey with a newly expanded questionnaire that was implemented by the MoLHR with support from the World Bank. Second, the Bhutan Enterprise Survey (BES) 2015, a survey of firms conducted by the World Bank that improved the understanding of the conditions, experiences and perspectives of Bhutan’s nonfarm private firms. The report also uses evidence from previous studies, legal documents, and discussions with experts and stakeholders from Bhutan and beyond.

それで翻って今回のUNDPが労働人材省と一緒に作成したという報告書だが、前提として、世銀が2016年に発表している上記の報告書は参考にされてますよねというのと、その上で、世銀の提言のどこがうまくいかなかったのか、今回分析して、その上での政策介入策の提言ですよね、というのが僕の興味の焦点である。繰り返しになるが僕が内容まで吟味するのは明らかに自分の今のミッションの肩幅を超える行為になるため、自分ではできません。誰か、この2つの大手国際機関が6年の時間差を置いて出している報告書の内容の比較分析、やってくれませんかね…。

BBSの報じ方を見ると、「システミックなポートフォリオに基づくアプローチ」ってカタカナが続いたので、読んでて何のことだかわからなかった(想像多少はできるが)。「イノベーションラボ」「ミッション主導型イノベーション」も、何のことだと思ってしまう(これまた想像多少はできるが)。

不明なままでワチャワチャ言ってても埒が開かないので、手っ取り早く理解しようと思ったら、UNDPが作ったビデオを見てみることだ。世銀の報告書にはなかった付加価値だと言える。おそらくこの動画制作でも仕事を生み出していただろうし、これからの時代に合った仕事だろう。


少なくとも、分かった気にはなった。ただ、「システムアプローチ」と言っているわりには高等教育をどうしたらいいのかまで述べられていないし、イノベーションラボとかミッション主導型イノベーションも、公共サービス改善の文脈で解説されているとの印象を受けた。報告書の中身までは読んでいない状態なので、これ以上のことは言わないが、「なんか違う」という、釈然としない思いは残った。

政府が何かやればやるほど、「政府が何かしてくれる」という期待感だけが増幅されるような気がする。現政権が何か行動を起こすには必要な文書だったと思うが(世銀の報告書はそういう意味では前政権にとっては有用だったと言える)、この報告書の公開を報じたソーシャルメディア上では、「政府は報告書よりも雇用機会を作るべきだ」との発言がチラホラあった。「そんなもん自分で考えろ」とよっぽど言いたいところだが、現時点で自分自身が起業しているわけじゃないので、今の自分には説得力はない。

スミマセンが、全体を俯瞰するような報告書にとやかく言える立場に僕はない。なので、この報告書の一部に自分のできることを見出して、その肩幅の範囲でできるだけのことをやって貢献はすることにしたい。たぶん、「イノベーションラボ」の部分はDHIがやっている公共サービスのイノベーションに関する研究開発の部分の話なのだろうと思われるが(UNDPもそこを支援していると聞くし)、そういうところに送り込める人材を育てるところが僕らの肩幅でもできることだと思っている。研究開発の最高峰はDHIのラボだろうと認めた上で、最終的にそこにリクルートしてもらえるだけの能力を持った人材、しかも自ら現場に出て行って課題を見つけ出し、必要なコラボを自分から企画立案し、混成チームで小さなイノベーションをいくつも起こせるそんな人材。

一方で、この報告書で雇用機会創出に実際につながるのかどうかは、もっとハイレベルのところにいる人々がちゃんと責任もって実行に取り組んで欲しい。

【蛇足】※3月22日追記
ちなみに、2月28日、東京・青山にある国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)が、「開発途上国における産業スキル開発:教育、スキル需要と生産性」と題したウェビナーを開催した。他の行事との兼ね合いもあって最初の2つの発表しか聞けなかったのだけれど、上記UNDPの報告書で言及されている「ソフトスキル」という言葉が腑に落ちたのは、明らかにこのお二人の発表を聴いていたからだと思う。

https://ias.unu.edu/jp/news/news/workshop-explores-industrial-skills-development-in-developing-countries.html#info
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