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機械がないと村落給水は実現しないのか? [ブータン]

3200万ニュルタムの水供給プロジェクトが失敗、住民を落胆させる
Nu 32 M water project fails to deliver; people disappointed in Haa
Kipchu記者(ハ)、BBS、2022年2月19日(土)、
http://www.bbs.bt/news/?p=165951
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【抄訳】
ハ県サマル・ゲオッグ(郡)ランパ村及びノブガン村の住民は、新しく建設された村落給水施設のクオリティに失望している。3千200万ニュルタム以上を費やして建設された施設は信頼できない。2019年12月に完工したにも関わらず、地域への引渡しはまだ行われていない。

総距離11.3 kmに及ぶ水路の水源は、ランパ村から車で約1時間のところにある。水源は砂や瓦礫でいっぱいになっている。村人はそれらをこまめの除去せねばならない。無地の看板が除幕式​​を待っている。地元の人が撮影し、提供してくれた映像には、水源近くで水路を横切るヤクの群れも映っている。その上、導水管は何度も破裂し、村は水供給なしの状態が続いている。

「私たちは3年前に新しい施設からの最初の給水を受け取りましたが、それは約1年しか私たちに恩恵をもたらしてくれません。住民説明会では、施設が今後数世紀にわたって私たちに利益をもたらすと言われましたが、すぐに欠陥が露呈し、私たちは不幸だと感じています。それに、これは政府予算の莫大な浪費です」――ランパ村の住民であるナムゲ・ドルジさんはこう述べる。

導水管は、特に冬期には、氷結のために破裂する。村人たちは、適切な被覆が行われなければならない導水管が、いくつかの地区ではむき出しになっていると指摘する。被覆措置の実行には住民も参加を試みたが、導水管が大きすぎ、住民主導で被覆作業を行うのは難しい。

また、仮にそれらが成功したとしても、導水管接続部はすぐに水圧に負ける。村では、人々は貯水池から水を運搬してくる必要があるが、一部の人々は湧き水に頼っている。チオッグの世帯数は60以上にのぼる。

「貯水池から水を汲み上げることは、牛を飼育する人々にとって特に困難です。池は小さく、誰もがそれに依存しています。今、それは私たちにとって唯一の水源です。新しい水源がいつ修理されるかはわかりません」――別の住民であるケザン・オムさんはこう述べる。

「最近降った雪や氷が水路をふさいでいます。今月は水がありません。貯水池は村の麓から徒歩約30分のところにあります。ですから、私たちが水を運ぶには坂を上らなければなりません」とデンデイさんは言う。

「休暇中であっても、他の村に住む友達のように、私たちは勉強したり物語を読んだりする時間すらありません。ここで私たちがしているのは、一日中水を運搬することだけです」と、学生であるソナム・デキさんは述べる。

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県農業担当官のカルチュン氏によると、泥交じりになりがちな区間の存在や地理的な問題のため、一部の地域では導水管を地下に敷設することができなかったという。また同氏は、施工業者が昨年水量が豊富だった期間中に導水管を修理し、それにゲオッグと県庁が続いたと言う。「機械がなければ、導水管をつなぐのは非常に困難です。プロジェクトでは、このような問題が発生したときにいつでも使用できるよう接合機を調達する計画がありましたが、新型コロナウイルス感染拡大により、調達できずにいます。しかし、私たちは機械の購入についてプロジェクト関係者と連絡を取り合っており、できるだけ早く問題に対処することを計画しています」と同氏は補足する。

彼はまた、施工業者はプロジェクトを既に県庁とゲオッグに引き渡し済みだと述べた。しかし、実施が必要な是正作業があるため、地域住民への引渡しは終わっていないという。「引渡しの遅れについて人々が主張していることは事実ですが、対処する必要のある問題が残っているため引渡しは延び延びになっています。そうしないと、半分しか完了していないプロジェクトを引き渡しても住民は満足しません。私たちはすべての修理作業を行い、施設の引渡しの前に水利用者組合を結成させます。」

王立会計検査院(RAA)はまた、建設工事の瑕疵を監視している。その間、修理作業が行われるまで、ノブガンとランパの人々はこれまでのように困難な方法で水を汲み続けなければならない。


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話の舞台となっているサマル・ゲオッグというのは、ティンプーからパロに行く途中のチュゾム橋の分岐を左折し、尾根を回り込んでハの谷に入っていく道路の、パロ県からハ県に入った入りっぱなの郡である。尾根の南斜面の傾斜地に開けた土地で、初めてハを訪れた際、きれいだなと思って車を停めて風景写真を撮った記憶がある。

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ただ、記事の内容には心が痛む。別に日本の援助が入ったわけでもないし、僕自身が何か関わっていたというわけでもないが、「機械がないと導水管同士をつなげない」というのは言い訳に過ぎず、その気になれば少なくとも応急措置は施せる。それを、このハ県の農業担当官は知らない。そういうところにまだ僕らの知らせる努力が全然及んでいないことを痛感させられたからだ。

恒久的な解決手段でないことは承知しているが、少なくとも恒久的な措置が講じられるまでの暫定措置はその気になれば今すぐにでもできる。導水管を一時的につなぐためのジョイントは、3Dプリンターで作れる。それは、2015年4月に起きたネパール大地震の後に行われた国際NGO「Field Ready」の活動でも実証されている。

被災した現場に行ったら、水源から避難所まで給水を引くために、口径の異なる導水管をつないだりすることが現場で必要になる。それを、導水管の口径を計測し、その場にあったデザインのジョイントをその場で設計し、現場に持ち込んだポータブル3Dプリンターで作り、その場で実装してしまうといった活動をField Readyは行った。

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この話は現場で採寸してデザインから印刷、実装までを行ったというケースだが、わざわざゼロからデザインしなくても、カスタマイザー機能付きのパイプコネクターのデザインデータは、Thingiverseに行けばゴロゴロしている。

こういうものに3Dプリンターが活用できるのだということ、それに、現時点でティンプーには利用可能な3Dプリンターが何台かあることを、この県農業担当官が知らないというのが残念だ。3Dプリンターはティンプーならファブラボ・マンダラにあるし、チャンジジやチャンガンカ地区のユースセンターにもある。さらに、ティンプー・テックパークに入居していてDHIが近々開設予定の「スーパーファブラボ」にもある。僕自身も個人的に2台持っている。もっと言うと、インスタグラムで3Dプリントの受託生産を請け負っているサービス「Bhutan3D」も既にある。

そういうのを利用できるということを、県庁や農業省が知らないということである。

もちろん、3Dプリンターが利用可能だというだけではダメで、実測データに基づいてスケッチから3Dデータを起こせる人材が要る。仮にThingiverse等に利用できそうな元データがあったからといって、寸法を現場のニーズに合わせて調整したりするスキルは依然必要だ。

県庁や農業省の情報収集努力の不足によるところもあるが、さらに言うと、ファブラボ・マンダラやスーパーファブラボといった、サービス提供者側の情報普及努力の不足によるところも大きい。

ファブラボ・マンダラはブータンのファブラボの老舗だが、労働省傘下の職業訓練機関として登記しているから、技能研修にかなり特化しており、「こういう問題にはこうやって取り組む」という問題解決型のプロトタイピングにあまり多くの時間と労力を割いていない。

ましてやDHI傘下のスーパーファブラボは、エリート意識があるからか、自分から問題探索のために現場に飛び出していくという組織文化自体を持っているようには見えない。テックパーク内にオフィスをデンと構えて、外から相談が持ち込まれることを待っているというスタンスだ。

需要サイドにも供給サイドにも以上のような課題があるが、ひとたびフィールドに出れば、デジタルファブリケーションが現場の課題解決にもっと役立つ可能性というのがゴロゴロ横たわっている状況なのも間違いない。

どことどこをどうつないだら、こういうニーズに対してすでにブータンが有しているリソースがうまくマッチングできるのだろうか。3Dプリンターを持っていて、しかもそういう問題意識を持っているのなら、なんでおまえ自身がやらないのかと突っ込まれそうだが、外国人が前面に立つのもどうかと躊躇してしまう。

ただ、住民の方々への言い方としては非常に失礼だが、こうした問題提起は貴重なサンプル。現時点で僕にはゲオッグ農業担当官や農業省とのパイプはないが、この現場に連れて行けそうな人材のあてはないこともない。国王誕生日の連休が終わったら、ちょっと考えてみるか!!
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