SSブログ

『南朝研究の最前線』 [趣味]

南朝研究の最前線 ここまでわかった「建武政権」から後南朝まで (朝日文庫)

南朝研究の最前線 ここまでわかった「建武政権」から後南朝まで (朝日文庫)

  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2020/11/06
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
従来、史料の乏しい建武政権・南朝だったが、近年の研究で、その実態が解明されつつある。前後の時代の政権と隔絶した、特異で非現実的な政権ではなかったことが明らかになってきた。16人の気鋭の研究者たちが建武政権・南朝の先進性、合理性、現実性を解き明かす。
【購入(キンドル)】
前回、シューマッハー『スモールイズビューティフル再論』についてご紹介したが、予定より少し早く読了することができ、月末までの間にもう1冊ぐらい読めそうだと考えた。それで、何を読もうかとアマゾンのサイトを物色していて、久しぶりに「趣味」の世界に向かおうと決め、南北朝時代を扱った歴史書をとり上げることにした。

歴史書といっても、小説ではない。小説なら、史料が乏しくてブラックボックスになっているところをそれぞれの作家の独自解釈で埋めて、フィクションとして描くことが可能だが、研究者は、その史料の乏しい箇所を他の史料などを動員してできる限り穴埋めしていくことが求められる。そうやって長年にわたって積み重ねられていった研究の成果が、それまでの通説として僕たちが刷り込まれていたことと、かなり異なる新たなイメージの提示につながる。

僕を歴史ファンへといざなった南北朝時代も、興味を持ったきっかけは結局小島法師の『太平記』であり、1991年のNHK大河ドラマであり、そして大河ドラマと同じ時期に読んだ鷲尾雨工『吉野朝太平記』だった。『吉野朝太平記』が世に出たのは昭和10年だから、南北朝正閏問題で南朝正当という決着がついて、国定教科書でも「吉野の朝廷」が使われるようになった時期だった。『吉野朝太平記』を初めて手にしたとき、「吉野朝」という聞きなれない言葉に少しひっかかったが、発表された当時は当たり前に使われていた言葉だったのだろう。

この時代は、南朝方と室町幕府方、それに旧鎌倉幕府の勢力とか、地域によっては足利直冬支持勢力とかも絡んで、全国で小競り合いを繰り返していた。極端なことを言えば、自分自身にゆかりのある土地は、どこであっても何かしらの出来事と関係している。例えば僕の自宅は鎌倉街道から比較的近く、もっと近いところで言えば、1352年2月の武蔵野合戦(足利尊氏vs南朝新田軍)の舞台となった金井原や人見ヶ原から近い。また、実家は1338年1月の美濃青野原合戦(北畠顕家vs足利軍)の舞台となった大垣市と垂井町の境あたりから極めて近い。

僕らは当然、自分自身の暮らしと関係が深い地域を中心に歴史上の出来事を掘り下げて知りたいと思う。また、そうした地域を拠点としてそこから比較的足を延ばしやすい地域にまで半径を広げていく。そうすると、東京なら小手指ヶ原であり、岐阜からなら三重県方面、青野原合戦を勝利した奥州北畠軍が転戦し、吉野に入っていくルートとなった伊勢へと足を運ぶようになった。そこで読んだのが横山高治『北畠太平記』『信長と伊勢・伊賀―三重戦国物語』、加地宏江『伊勢北畠一族』だった。北畠家の家系が南北朝期から戦国時代にまでつながっていくのを初めて知り、その過程で「後南朝」という言葉を知った。

さすがに九州や中国地方にまで足を運んだりもできないけれど、要するに読者によっては同じ南北朝といっても、刺さる出来事と刺さらない出来事が相当分かれると思う。そういうのを全部含めて、今どこまでがわかり、どこからは未だ明らかにされていないのか、僕らが古典『太平記』及びそれを解釈して展開された様々な歴史小説によって刷り込まれた歴史認識の、どこは正しくてどこは正しくないのかを、多くの歴史学者を動員して書かれたのが本書ということになる。

日本全国、どこを訪れるにも、こういうのを1冊座右に置いておいて、事前に調べられたら旅の味わいもちょっと深まると思うし、小説を書こうと方がかりにいらしたとしたら、作家の想像を働かせてよい余地が今はどの辺にあるのかを確認するのに、こういう本が参考になるのだろう。

また、ファンとしては近年刊行された南北朝ものの歴史書は比較的読んでいる方だと思うが、本書においても、亀田俊和『南朝の真実』『観応の擾乱』、森茂暁『闇の歴史 後南朝』『南朝全史』など、過去に読んでいた文献が、その評価付きで度々引用されており、復習にもなった。

それにしても、これほど多くの研究者が、今でも建武政権や南朝の研究に携わっておられるというのには驚かされた。ある意味、これがいちばんびっくりした。

とともに、ここ2年ほど、仕事で明治維新の勉強を新たにやらされてきた中で、ずっと感じていた、歴史ファンの自分の立ち位置と明治維新をどうつなげて趣味と仕事とに折り合いをつけるかというテーマについても、なるほど明治新政府は建武の新政を意識していたのねというのがわかり、少しスッキリした。とはいっても、今はもう仕事でどうこうというのはないのだが、明治維新をもっと知ろうと社内で提唱していた方は奈良のご出身なので、その方が過去に建武政権や南朝について何を語っておられたのかは、ちょっと興味が湧いた。
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント