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ファブラボ・ブータンとの棲み分け [ブータン]

中高生グループ、廃棄物管理ロボットで国際ロボコンに臨む
Group of students to present waste management robot
at international robotics competition

Phub Gyem記者、BBS、2021年10月9日(土)、
http://www.bbs.bt/news/?p=158844
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【抄訳】
中高生グループがFIRST Global Challenge 2021で廃棄物管理ロボットを発表する。FIRSTGlobalは、世界中の若者がSTEMのイノベーションを考え出すことを奨励する国際的なロボット工学コンテストである。ブータンがファブラボ・ブータンを通じてこのイベントに挑戦するのは3回目となる。2018年から参加は始まっている。

ティンプーの学校から選抜された生徒12人とメンター7人のチームが、現在廃棄物自動回収ロボットを設計している。これが実現すれば、ロボットは陸と水の両方で廃棄​​物を収集し分別することができる。彼らは今年、200カ国以上の若者と競うことになる。

「ロックダウンのため、適切な廃棄物管理が行われてきていません。よって、廃棄物自動回収ロボットを設計するというテーマを採用することにしました」―――こう語るのは、FIRST Global Challengeのメンターの1人、アヌジ・プラダンさんである。

今回はパンデミックのため、イベントはオンライン開催となる。「発見と回復(Discover and Recover)」をテーマにした今回のイベントでは、参加チームは、パンデミックに関連した、教育、環境、健康、経済面での地域の課題を特定し、STEM知識を動員して課題解決用ロボットを製作しなければならない。チームは、このイベントに参加することにより、STEM推進を通じてブータンをデジタル化するとする国王陛下のビジョンを実現することを目指している。

「ロボットは私たちにとってはお金を払って購入し、遊ぶためのものでしかありませんでした。ロボットの作り方など知りませんでした。でも、私たちはちゃんと動くロボットを作ることに成功する機会を得ました。ロボット工学について探求し、学ぶことができる機会を与えてくれたFIRST Global Challengeに感謝したいと思います」と、モティタン後期中等学校のアンジャリ・ミシュラさんは述べた。
(後半に続く)

「私たちは何度も失敗しました。でも、決して諦めることなる、最後には成功しました。また、私たちのロボット工学の知識を次のレベルにまで引き上げるいい機会になりました。プログラミングとロボット工学で多くの経験を積むことができました」と、チャンザムト中期中等学校のペマ・ウゲン・ナムド・ジャムツォさんは述べた。

「彼らが初めてここに来た時は、就学前の生徒のようでした。でも、今では彼らは自分自身でロボットや超小型衛星を作ることを学びました。彼らにまだ不足しているのは、自分たちの作品やスキルを多くの人々の前で披露したり、お互いに学び合ったりできるプラットフォームだと思います」―――ファブラボ・ブータンの教育工学教員であるペマ・ヤンゾムさんはこう述べる。

わずか約3ヶ月で、彼らはロボットを作れるに至った。これはコンテストで勝利を収める以上の価値があることである。

僕は、この報道の中でインタビューに応じてペマさんが述べた「彼が初めてここに来た時」の様子を、実際にファブラボ・ブータンで見ていたので、「就学前の生徒」という表現の是非はともかく、ファブラボの施設・機材について何も知らず、きょろきょろしていた様子は印象に残っている。

FIRST Globalは、各参加チームに、必要なパーツを詰め込んだパッケージを送付してきて、参加中高生はそれらを組み立てて自分たちの作りたいものを作る。プログラミングやUIの知識は確かに必要だが、7人と書かれているメンターのうち2人はインドとマレーシアの工科大学でドローン技術を勉強してきていて、ブータンでドローンで起業しようとしている若手起業家なので、アドバイスはできるに違いない。そして、初めて参加中高生がファブラボに来た7月下旬の様子から比べれば、確かに長足の進歩だったと思う。

相手が中高生だけに、ファブラボ・ブータンは、このプロジェクトに土曜午後を割り当てていた。ファブラボ・ブータンは、市民向けに施設開放する日を特定の曜日に割り当てておらず、一般ユーザーはいつでも来ていいことになっているが、朝の開業時刻は読みづらく、夕方は17時で終える。しかも、HP等で施設の空き時間を明示していない。平日に時間があったので行ってみたら、室内が真っ暗で、1人だけ事務で残っていたペマさんに訊いたら、スタッフは教育省が主催する研修にインストラクターで駆り出されているとのことであった。

だから、平日は実際のところなかなか行きづらく、土曜日の午後はFIRST Globalの準備で埋まっている。そして、土曜午前を有効に使おうと思って10時頃に行くと、未だ誰もいなかった。

そのうちに、僕自身も土曜日はティンプー市内で3Dプリンターを2台持ち込んだ学生向けラボを定時主宰するようになったので、ファブラボ・ブータンに行く機会はめっきり減ってしまった。

FIRST Globalへの参加を不満だと言っているわけではないが、傍から見ていると、ファブラボ・ブータンは組織維持のための収入確保に課題があり、そのために研修受託や受託生産を相当請け負っていかざるを得ない。それで結構多忙で、一般ユーザー向けのサービスが疎かになっている。一般ユーザーというのが、僕や前述のアヌジ・プラダン君たち以外にどれくらいいるのかは定かでないが、研修受託や生産受託で機械や施設自体が埋まっていて、一般ユーザーが利用できない時間帯は存在する。

また、このようなアプローチを取っていることで、デジタル・テクノロジーのブラックボックス化を助長しているところもある。ファブラボのユーザーの原則は「自分で作る(DIY)」、あるいは「仲間と一緒に作る(DIWO)」だと言われているが、生産受託を受けすぎると、「作る人」と「使う人」の明確な線引きができてしまう。

ファブラボ・ブータンの来訪者に話を訊くと、「私はテクノロジーのことはよくわからないし、忙しいので」と遠慮されることが多い。僕の周囲の人に話を訊いても、「ファブラボはこちらが欲しいものを作ってくれるところ」だと思っている人が多い。

そして、「作る人」と「使う人」が分断されているから、発注する側が、現在のファブラボ・ブータンの技術的な限界を理解もせず、「なんでこの部分のカラーリングぐらいできないのか」などとクレームしてきたりするのである。(木材加工品のカラーリングは手作業でやっているんですよね…。)

ファブラボ・ブータンの他の課題とも関係するが、こうした「使う人」と「作る人」が最初から一緒に課題に取り組むような「共創デザイン」の機会を、発足からこれまでの4年間、ほとんど作ってこなかったことは大きな課題だと思う。発足から4年経過して、もう少し「デジタル・ファブリケーション」が世間に浸透しているかと思って赴任してきてみたら、多くの潜在的な受益者が、「ファブラボのことは知っていたけれど、どう自分の生活や仕事と関連付けられるのかはわからなかった」と仰る。

多忙過ぎるから結果そうなってしまったのかもしれないが、ちょっと残念なことである。

ただ、一方で、各々のファブラボはその置かれた地域の文脈に応じて、各々の特色を出していくことが当然で、ファブラボ・ブータンの場合も、首都にあって、STEM分野での人材育成に関する国の期待を一身に背負い、かつ現有のスタッフの有するスキル等も勘案すれば、今の彼らの姿も、それはそれで彼らの特色なのだと捉えることもできる。FIRST Globalとのコネクションも、彼らの特色だ。今のファブラボ・ブータンに、あれもやれ、これもやれと外野が余計な期待をするのは無理で、彼らは今あるその特色を生かしていってくれたらいいのかもしれない。

こうして、僕自身も含めた同じブータンのメイカー・エコシステムの構成員は、今のファブラボ・ブータンの活動を与件として、ファブラボ・ブータンができていない部分を補って、その補足部分で特色を出していくべきなのだろう。

第1には地域的な棲み分け。ファブラボ・ブータンが首都圏で活動しているのだから、僕らは地方で地域の課題にものづくりで応えていくようにすべきである。

第2には年齢層による連携。FIRST Globalの参加資格は18歳未満なので、これに参加して強いモチベーションを持った中高生が、その強いモチベーションを維持しつつ次のステップに進める「受け皿」が必要になる。ファブラボ・ブータンはそこまでは保証していない。2018年のFIRST Global参加高校生3人のうち、1人はファブラボに残り(但し、今は退職してDesuupになっている)、1人は確かインドの大学に留学した。留学は当然選択肢としてあるだろうが、ブータン国内でも、彼らのモチベーションを維持できる場所の確保は必要で、それが、全国に分散した王立ブータン大学の各単科大学や職業訓練校のファブ施設の役割になっていく。

第3には、あまり使われていない機械のニーズの掘り起しである。今、ファブラボ・ブータンには、デジタル刺繍ミシンやビニール・カッター、スクリーンプリンター、ダイキャスト等の資機材を日常的に使っているスタッフはいない。地域のユーザーのプロファイルによって各資機材の使用の多寡は影響を受けるわけだが、そうするとスタッフも操作に疎いケースもあるので、使われていない資機材の需要を掘り起こして、ファブラボ・ブータンにつないでいく工夫も必要なのではないかと思う。

第4には、「共創」カルチャーの醸成である。「使う人」と「作る人」が最初から一緒に課題に取り組み、その境界を曖昧化させて、しまいには「使う人」自身がデザインして、自分で作るところまでスキルを引き上げてしまうことを目指すのである。

特に、この最後のポイントは、任地入りもままならずに首都で滞留している僕が、今いちばん力を入れているところである。潜在的な受益者を訪問して、話を訊き、生活や仕事の様子を観察して、その活動をちょっとだけ改善できるようなソリューションを提供する。それでデジタル・ファブリケーションに関心を持ってもらえれば、自分でモデリングを体験してもらい、自分でソリューションを考えてみたくなったら、バベサ地区のファブラボ・ブータンや、ユニセフの援助で3Dプリンター4台が配備されているユース・センターを紹介する。来年になれば、これにティンプー・テックパーク内に新設される「スーパー・ファブラボ」も選択肢として加わる。

許されれば、僕自身はいずれプンツォリンに居を移すので、いつまでも僕に頼ってもらっても困る。こうやって首都で需要喚起して、自分でさらにモデリングをやってみたくなった人の次の受け皿は、やはり首都のファブ施設なわけだ。

そういう形で、ファブラボ・ブータンを支えていくのかな。久々にメディアに踊ったファブラボ絡みの記事を見ながら、僕はそんなことを考えていた。

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