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『嫌われた監督』 [ベースボール]

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book)

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book)

  • 作者: 鈴木 忠平
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/09/24
  • メディア: Kindle版
内容紹介
なぜ 語らないのか。なぜ 俯いて歩くのか。なぜ いつも独りなのか。そしてなぜ 嫌われるのか――。
中日ドラゴンズで監督を務めた8年間、ペナントレースですべてAクラスに入り、日本シリーズには5度進出、2007年には日本一にも輝いた。それでもなぜ、落合博満はフロントや野球ファン、マスコミから厳しい目線を浴び続けたのか。秘密主義的な取材ルールを設け、マスコミには黙して語らず、そして日本シリーズで完全試合達成目前の投手を替える非情な采配……。そこに込められた深謀遠慮に影響を受け、真のプロフェッショナルへと変貌を遂げていった12人の男たちの証言から、異端の名将の実像に迫る。 「週刊文春」連載時より大反響の傑作ノンフィクション、遂に書籍化!
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今週は、11日(月)にドラフト会議が行われ、翌12日(火)にはドラゴンズの次期監督にOBの立浪和義氏が就任することが報じられた。さらに13日(水)には、立浪氏とPL学園同期だった片岡篤史氏と、育成契約で落合監督時代のドラゴンズに入団し、2年間三塁レギュラーを務めた中村紀洋氏の入閣要請が、さらに14日(木)にはこれまたOBで星野監督第二次政権下での中継ぎを務めた落合英二氏の1軍投手コーチでの入閣要請が報じられている。

どの報道にも賛否はあるが、概ね歓迎はされている。でも、ストレスが溜まった与田政権が終わってレジェンド立浪氏が後を引き継いだからといって、フロントや親会社が変わらない限りはなんともならないという意見も多い。僕も同じである。立浪氏が名古屋の財界とのパイプが太くて、斜陽産業化しているペーパーメディアの中日新聞社のどうもならないところを補ってくれるのならともかく、そうでないのなら補強にガンガン金を使うということもできないだろう。与田氏が監督就任を引き受けた時のように、「金は出せないがなんとかやって欲しい」みたいな就任要請を、よもやしてないでしょうね。そんなことしたら、ドラゴンズの監督のなり手はいなくなる。

で、そんな時に、「読むなら今週しかない」と思って読んだのが本書。出たのも9月下旬で、与田監督の去就が噂され始めた時期でもある。発刊のタイミングとしてはここしかないというぐらいの最高の時期で、で僕もそれに踊らされて買ってしまった1人だ。

長年のドラゴンズファンにとって、落合監督時代は間違いなく最高の時代だった。毎年優勝争いに絡んでくる。2004年から2006年までの3シーズンは、会社で初めて中間管理職になった僕にとって、精神的に最もきつく、メンタルをやられる一歩手前まで行った辛い時期でもあった。そんな時期、ドラゴンズが勝ち続けてくれたことは大きな心の支えになってくれた。2007年の日本シリーズの頃、僕は海外駐在していたが、既にネットではNPBの試合のリアルタイム速報はチェックできたので、仕事中にも関わらず、時折試合経過をチェックして、日本一になった瞬間はガッツポーズもした。

いろいろな読み方があると思うが、僕にとっては、本書は自分の人生でいちばん苦しかった時期に、心の支えとなってくれたドラゴンズの、中で起こっていた様々な出来事を知れる、読み物であった。

が、それと裏腹に、親会社にとってはいい時代とはいえなかったのだろう。強いから良績の選手の年俸はどんどん上がり、落合監督の監督年棒も上がっていった。強いだけで観客動員数も右肩上がりにはならないだろうなとも思っていたが、案の定球団はリストラをやり始めた。親会社が斜陽産業では、監督を交代させたぐらいでチームは変わらないだろう。また、監督が交代したから観客動員も増えるというの考えも危険だ。「カネがないなら知恵を絞ろう」は管理職時代末期の僕の常套句でもあったが、球団や親会社がそういう努力をしていたのかどうかが疑わしい。

特に、落合監督時代の親会社にはそれを感じた。しかも親会社に連綿と続く2つの派閥があり、社内での主導権争いが球団経営にも影響を与えていたというくだりは、読んでいて情けなくなった。中日新聞社に球団を所有する資格が果たしてあるのか―――本書は日刊スポーツの記者のルポだから、そういう内実を客観的に描いてくれていて、これまでの落合博満本やドラゴンズ本とは一線を画している。

これ読むと、立浪新監督に潜むリスクも感じた。現役だった当時でも、彼がレジェンド過ぎて物言える選手やコーチが少なかったようだし、そんな彼を制御できる人がコーチ・スタッフ陣には必要だと思う。(そういう意味での片岡氏起用なのかもしれないな…)

もう1つ、僕らは安易に「なんで若手をもっと使わないのか」と与田前監督を批判していたが、そういえば落合監督もベテラン重用していたなというのを改めて思い出した。「レギュラーは与えられるものではなく、争ってつかみ取るもの」と確か落合さんはよく言っていた。争う機会を与えなかった与田監督の選手起用には不満なところもあるものの、それではそうした若手選手自身が本書でも描かれているような、森野選手や荒木選手がやった猛練習を自身も積み重ねて1軍の土俵の上に立っているのかといったら、そうではないような気がする。

新型コロナウィルス感染拡大を受けた観客数制限もあって、観客動員収入だけでは球団経営は難しくなってきている。落合監督時代と同じような黄金期は望むのは難しいかもしれない。そんな中でどのように強いチームの編成ができるのか、楽しみなところもある。ただ、何度も繰り返すが、現場監督を代えたところでチームが変わるわけではない。球団も親会社も変わってゆかないと、現場の努力だけでは限界もあるという点を、最後に強調しておきたい。

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