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真にインクルーシブな社会を目指すのなら [ブータン]

障害者の経済的エンパワーメント
Economic Empowerment of Persons with Disabilities
Phub Gyem記者、BBS、2021年10月7日(木)、
http://www.bbs.bt/news/?p=158751
Economic-Empowerment-of-Persons-with-Disabilities.jpg
【抄訳】
障害を持つ人々の生活を改善するため、多くの生計向上技能研修が国内で実施されている。しかし、様々な理由から、それら研修のほとんどが習得した技能を実際に使うところまでには至っていない。こうしたことが起きないようにするため、ブータン障害者協会(DPOB)と労働省がプロジェクトを開始した。それは、障害者がそのような訓練の後グループで起業するのを助けることに焦点を当てている。

シェムガン出身のパサン・デマさん(31歳)は、現在、縫製の研修を受講中である。DPOBと労働省は、4カ月前に45人の参加者を募って研修を開始した。今回の研修を修了した後、パサンさんを含む17人がティンプーで仕立て屋を開業する。

「起業するというのは、私のような障害者にとっては難しいことでした。この研修を通じて、健常者と同じように生活できるようになります」とパサン・デマさんは語る。プロジェクトの一環で、参加者は製パンや製菓といった他の生計向上技能も教えられる。

ブータン障害センターのケンガ・ドルジ氏は、次のように述べる。「私たちのキャンディー生産プロジェクトは、主に障害者、特に障害のある女性の雇用機会を生み出すことを目的としています。また、DPOBの渉外担当者であるドルジ・プンツォ氏もこう述べる。「私たちは彼らの支援のための行動計画を立てています。例えば、開業から最初の3ヶ月間、支払いと家賃が免除されます。マーケティング戦略も支援策に含まれています。」
(後半に続く)

韓国国際協力団(KOICA)とUNDPは、グループでの開業を支援する。仕立て屋を開業するための資機材セットと製パン、キャンディー製造装置を供与。 7人の障害者から成る芸能グループも両機関から楽器を供与された。

「パンデミックにより、多くの人々、特に障害を持つ人々が経済困難に陥っています。しかし、障害のある女性や女子が経済活動に参加する機会が増えることを願っています。ですから、このプロジェクトは希望を示しています」と、KOICAブータン事務所のプログラムディレクターであるユンキョン・コウ氏は述べる。

「政府は障害者のための非常に包括的な政策を既に策定しています。しかし、明らかに非常に困難な状況下では、実施に課題が生じる可能性があります。しかし、私たちが行うすべての行動の中で障害者のニーズが主流化されるよう社会全体で取り組むアプローチが取れれば、それは達成できると思います」とUNDPブータン事務所の久保田梓常駐代表は述べる。

このイニシアチブは、障害者の経済的エンパワーメントに寄与するだけでなく、障害者の労働市場への参加を促進することにも貢献する。当局は、こうしたイニシアチブが障害者が直面するスティグマ、差別、排除をなくすのに役立つと述べた。2016年に発表されたブータン脆弱性ベースライン調査によると、こうした否定的な態度が障害者にとって大きな課題となっている。

こういう研修は結構頻繁に行われていて、研修修了証書を主催者から授与されて、受講者がかしこまりながら一緒にツーショット写真に収まっているシーンや、受講者が修了証書を見せ、主催者はいかにも「どうだ」と言わんばかりの得意満面で一緒に集合写真に収まっているシーンをソーシャルメディアではよく見かける。昔からよくある光景だと思うが、で、効果はどうだったのかというのがよくわからない。

今回の報道も、これまでの技能訓練がうまくいかなかった点はなんとなく示唆しているが、なぜうまくいかなかったのか、そして今回のプロジェクトは今までのとどこがどう違うのかの説明がない。報じられている内容だけ見ても、何が新味になっているのかよくわからない。

また、主催がDPOBとなっているが、DPOBはブータンの障害者全体を代表する組織ではない。ブータンの障害者団体は市民社会組織(CSO)登録されているところが5団体あり、以前もご紹介したCSO登録の凍結措置の影響で、CSOとして登録されていない任意団体もいくつかある。今回の研修には受講者を出させてもらえなかった団体もあったと聞く。こういう研修の恩恵を受けられるかどうかは、その団体が政府や国際機関と近いかどうかで決まってくるところがある。「誰も取り残さない」を標榜しつつ、こうした研修を実施することで、支援される人と支援されない人とを峻別する結果を招いていないか、特に国連機関や二国間協力実施機関の人にはよく考えて欲しい。

それともう1つ気になったことがある。障害者を対象に技能訓練をやって、開業にあたっての初期費用を支援するという姿はいいとして、ここでも障害を持つ人と障害を持たない人とを分けている点である。これが、支援される人と支援されない人とを峻別する、別の形を招いている。「スティグマ、差別、排除」が課題だと当局の方も指摘しているようだが、ことさらに障害者だけを取り立てて特別な技能訓練をやることで、果たして支援対象となっていない人々が支援対象となった障害者を見る目は変わるのだろうか。インクルーシブな社会の実現に近づけるのだろうか。

僕の言いたいのは、なぜ障害者をわざわざ切り分けて技能訓練をやるのか、なぜ健常者と障害者が協働するような技能訓練のスタイルは取られないのか、なんで障害者だけでグループ形成させて、障害のない事業者とあえて競争させるような話の持って行き方をするのかということだ。障害者の障害のタイプや程度は、人によっても様々であり、ある人にはできることでも、別の人では難しいということもある。逆に、実は健常者よりも高い集中力を発揮するケースだってあるかもしれない。

そういう人々と一緒に働くことで、僕らも、どうした仕事は彼らでも1人ででき、どのような仕事はサポートが必要なのか、そのサポートは介助者の配置が必要なのか、それとも何かしらの自助具を製作・実装すれば1人でもできるのか、そうしたことがいろいろ見えてくるのではないだろうか。そうして相手への理解が深まることが、共助の促進、スティグマの解消、インクルーシブな社会の実現につながるのではないのか。

このことは、「ソーシャル・インクルージョン」の意味を理解していて、その実現に取り組もうと指向している障害者団体がこの技能訓練に呼ばれていないこととも微妙に関係している気もする。

報道の内容だけでは技能訓練の中身の詳細まではわからない、ひょっとしたらそういう協働機会をしっかり意識して訓練プログラムが組まれているのかもしれない。それなら僕の指摘は的外れだ、もうやってると一笑に付してもらって構わない。ただ、もしもやっぱり障害者だけを集めて技能訓練をやってましたということだったとしたら、UNDPもKOICAも、こんなやり方で本当にいいのか、もう一度考えてみて欲しい。

ついでに申し添えると、このタイプの技能訓練のプロジェクトを実施してみて、その評価結果も1年後か2年後に公表して欲しい。

【関連記事】
"Persons with disabilities to venture into group businesses"
Kuensel、2021年10月8日(金)
https://kuenselonline.com/persons-with-disabilities-to-venture-into-group-businesses/
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