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『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』 [読書日記]

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/04/13
  • メディア: 文庫

内容(「BOOK」データベースより)
地元を飛び出した娘と、残った娘。幼馴染みの二人の人生はもう交わることなどないと思っていた。あの事件が起こるまでは。チエミが母親を殺し、失踪してから半年。みずほの脳裏に浮かんだのはチエミと交わした幼い約束。彼女が逃げ続ける理由が明らかになるとき、全ての娘は救われる。著者の新たな代表作。
【MKレストラン文庫棚から拝借】
初の辻村深月作品挑戦であった。なんでこれを選んだのかと訊かれると、「そこに文庫が置いてあったから」としか答えようがないのだが、以前、辻村さんが『朝が来る』で2016年の本屋大賞候補になった時、ちょっと読んでみたいなと思った時期があった。実際に作品に手を伸ばすには、きっかけが必要だったのだ。で、なぜ週も半ばの読了になったのかというと、今週は日月と夜に微熱が出て、解熱剤を飲んでベッドで横になっている時間が長かったからである。難しい本よりも小説をということになった。

こういう作品を読むと、ついつい、作品の原風景が何だったのかを考えたくなる。舞台は山梨県の旧塩山市あたりなのだけれど、辻村さんは笛吹市のご出身らしいので、おそらく実際の場所を思い浮かべながら作品を描かれたのであろう。

それにしても驚いたのは、山梨県なんて東京都の隣だから、もっと東京との交流が多い地域なのだろうと勝手に思っていたけれど、この作品で登場するアラサー女子たちは、東京と地元との間に明確な壁みたいなものを作っていて、東京に行ってしまった友人をこういう目で見ているのだという点であった。毎日のように合コンを企画していたりとか、ちょっと信じられないのだけれど、そうだったのですか?作品が発表されたのは今から12年も前だし、合コンに着ていく衣装やアクセサリー、乗っていく車の見栄のの張り方はバブルの頃かとすら思わせる。

日本初の赤ちゃんポストは2007年らしいので、それが作品のモチーフになっているのだけれど、作品中で、日本発の赤ちゃんポストで最後に残った富山県高岡市のポストが、開設からわずか5年で閉鎖に追い込まれるという話も出てきているので、これは1986年に群馬県前橋市に設置されて、92年に閉鎖された「天使の宿」もミックスして描かれているのかなという気がする。

さて、そうした時代背景も踏まえた上で、アラサーになる前の20代女子の交友の回想をこれだけ読むと、正直言って男性の読者としてはドン引きしてしまう。合コンに出ては友人の一挙手一投足をここまでチェックして、相手の男性じゃなく一緒に来ている同僚女子を評するのって、結構スゴイ。そうなのですか?母親を誤って殺してしまった娘の、東京に出てしまった友人が、当時の合コン仲間の回想などから、どの動機を探り、行方不明になった幼馴染の所在を突き止めるというミステリーなのだけれど、そうした謎解きよりも、とにかく合コン仲間や元カレ、職場の後輩女子への聞き取りの会話がスゴイ。

こうしたバブル全盛あるいはバブルの名残がまだ残っていた頃、合コンにもほとんど出たことがなかった僕は、劇中の登場人物としては、立場的にみずほの夫の啓太に近いと思う(痩せてはいないが)。で、啓太は聴き上手で、話の本質をつかむのがうまく、かつあまり妻の事情に深く干渉しないけれど、ポイントポイントで良いセリフを吐く。いい奴だなと思うと同時に、そういう目線で自分の妻も見てあげたいと強く思った。

妻の女性同士の交友関係とか、母親と娘の関係とか、近くに住む老いた恩師の女性との関係とか、勤め先での先輩後輩女子との関係とか、僕は妻から随分と話を聞かされる立場にはあるが(そしてたいていは愚痴だが)、何気なく聞かされてきたそれらの話が、この作品を読んでしまうとなんだかものすごくリアルなものに感じられるようになった。僕が思っている以上に、根の深い、なかなか忘れられない話なのかもしれない。

女の世界も大変なのだ。もっとちゃんと話を聞いてあげられるようにならなきゃ。
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