SSブログ

ものがなくてもできる教育はないのか? [ブータン]

施設が不足しているからニューノーマルのカリキュラムは難しい
Lack of ICT facilities affect implementation of New Normal Curriculum
Karma Wangdi記者、BBS、2021年9月4日(土)、
http://www.bbs.bt/news/?p=156824
LZMS.jpg
【抄訳】
この新学期から運用開始された教育省のニュー・ノーマル対策カリキュラムは、長年にわたる教育制度の中でも最大の改革の1つである。新カリキュラムは、ICT設備を使用して、教科書や教室を超え、間断なく学習を続けることが目的である。 但し、この変化に欠点がないわけではない。

ティンプー市内にあるルンテンザンパ中期中等学校には、インターネット接続の改善を除いて、ニュー・ノーマル対策新カリキュラムを開始するのに必要な施設がほとんど揃っている。このため、学校の機能はそれほど変わっていない。カルマ・ワンディ副校長によると、学校のインターネット速度はわずか15MBだという。教員がクラス7からクラス10までの生徒の約37の教室で使用すると、インターネットが遅くなりすぎる。「したがって、インターネットの帯域幅を改善する必要があります」と副校長は指摘する。

加えて、同校の教員の1人、ツェリンさんは、新カリキュラムに沿った教育を実現できるスマートテレビ導入が学校には必要だと述べる。

生徒たちは、新カリキュラムを完全に実施できれば、学習が楽しく簡単になるので、非常に役立つと述べる。「作業負荷が重い場合がありますが、ほとんどの場合、それは非常に簡単で、先生はとてもよく説明してくれるので、多くを理解することができます」――そう答えるのは、ナムゲイ・リグフェル・ワンチュク君である。

一方、遠隔地の学校では状態が悪化する。ほとんどの学校にはコンピューターラボがないだけでなく、インターネット接続が不足しており、新制度の実施を難しくしている。ティンプー県カサダプチュ中期中等学校の教員であるジャンバ・ゲルツェンさんによると、教員、特に歴史を教える教員は、オンラインで入手可能な資料を必要としている。しかし、インターネット接続がなければ、課題が山積みで、教室での授業運営にも支障があるという。「現在、教科書は参考としてのみ使用されています。何を学び、何を学ばないでいいのかはわかりません。さらに、私たちは新制度に慣れておらず、アプローチをよく理解するには時間がかかるでしょう」――同校の生徒の1人、ミンジュール・ドルジ君はこう述べる。
(後半に続く)
かつて王立教育評議会と呼ばれていた教育省のカリキュラム・専門能力開発局は、2016年より新カリキュラムの開発を開始した。新制度では、通常の教室授業に加えて、オンライン学習を奨励している。新制度ではまた、緊急時においても中断されることのない学習スタイルが推奨されている。しかし、十分な設備がなければ、ほとんどの教員にとって、新制度を十分実装することは難しい。

ICT施設整備が十分進んでいない遠隔地の学校の1つが、チュカ県にあるタシラカ初等学校である。同行のチェク・ドルジ校長によると、ICT施設はもちろんだが、インターネット接続も良好ではないと述べる。「私たちにはインターネット接続がなく、ほとんどの教員は自分のデバイスを使用して教えています。施設整備が進むことを、私たちは祈っているところです。」教員の1人であるツェリン・テンジンさんも、施設整備が学習プロセスを促進するだろうと述べた。

教育省が今会計年度に確保した150億ニュルタムのうち、1億5,000万ニュルタム以上が、ICTラボやPC調達などを支援する教育フラッグシッププログラムに配分された。しかし、JB・ライ教育相によると、すべての学校にICT設備を完備するには何年もかかるかもしれないという。「3年後、5年後、私たちの子どもがこれらすべての装置を手にするようになるでしょう。子どもたちはすべてのICT設備を利用できるでしょう。その後、私たちは求められていることに取り組まねばなりません。」大臣によると、現在、国内の学校の少なくとも60%が基本的なICT施設を既に有しているという。

ニュー・ノーマル対策カリキュラムは、学習者に知的、社会的、行動的、デジタル的な能力を与えるよう設計された。ただし、必要な設備がすべて整っていないとしたら、この政策変更がどれほど効果的かは時の経過とともに明らかになっていくことだろう。

全国の学校にコンピューターラボを整備するという話を、プログラミング教育促進の観点から論じていた全国紙クエンセルの記事を、8月にもご紹介したけれど(「コーディングが進められる環境づくり」(8月12日))、実際に新学期が始まって現場の声を拾ってきたレポートがBBSで報じられたので、これもご紹介する。

内容的には「まあ、そうだろうね」というものでもあった。ちょっと驚きなのは、ティンプー市街から20分程度しか離れていないカサダプチュあたりでもそんな感じなのだというところだった。あとの取材もチュカ県で行われており、東部の方の遠隔地の取材は行われていないのだが、首都からわりと近いところでもこんな感じなら、東部の方も推して知るべしといったところだろうか。あと、その限られた施設整備の範囲内でではあっても、各学校で整備されているコンピューターラボというのがどんな様子なのかも、記事に使われている写真が参考になる。

プログラミング教育だ、STEM教育だとワイワイやっているから、きっと施設整備に話はもっと早くから進んでいるんじゃないかと思っていたが、そうでもなかったということなのだろう。

一方で、教員や生徒のコメントを読んでいても、あまり生徒に考えさせて、自分で課題発見して自分で解決方法を考えさせるような新しいやり方は、教員の間でも、生徒の間でも、まだほとんど浸透していないのではないかと想像される。ニュー・ノーマルの時代の教育って、施設を整備してインターネット接続させられたらすぐに可能というものではなく、教育に携わる人々のマインドセットの変革も求められる。生徒が自分から学びの対象を発見して、自分で調べていくというものなのだと僕は思っている。でも、なんとなくここで引用されているインタビューの引用では、「教師が教える、生徒は教師から教わる」という今までのマインドセットがそのまま前提になっているのが垣間見える。

施設の整備もネット接続も一朝一夕に達成できるものでもないのだから、ないならないなりに今の環境の中で、地域にある学びの素材をどう生かすか、行政の側にいる人たちも考えられないものなのだろうか。さらに教師の側について言わせてもらえば、生徒は今まで解決を求められる課題の提示を教師に頼ってきていたようで、自分で課題発見するというのにあまり慣れていない。課題を発見させるような機会の提供の仕方、もう少しできないものかなと思う。そして、それをやろうと思ったら、別にICT施設等のインフラ整備は必ずしも前提ではない。

タグ:STEM教育 ICT
nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント