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再読『ハルロック』 [仕事の小ネタ]

ハルロック コミック 全4巻完結セット (モーニング KC)

ハルロック コミック 全4巻完結セット (モーニング KC)

  • 作者: 西餅
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/04/23
  • メディア: コミック
内容紹介
時代はアプリ?いやいや、電子工作でしょ! 女子大生の向阪晴(さきさかはる)が得意の電子工作を駆使してあれやこれやを一気に解決!? 前代未聞の「電子工作コミック」、待望の第1巻がついに発売!
【購入(キンドル)】
1つ前のブログ記事でも触れた通り、この土曜日、5カ月間準備を進めてきていた某私大の夏期講座が無事終了した。タダ働きだったわりに3月下旬の準備段階の作業で精神的負担が大きかったことや、講師をお願いしていた方々のレスが直前までほとんどなかったことからハラハラしたこと、そして1週間のプログラムを時差3時間の当地から運営したこと(毎日の講義は朝6時30分スタート)等、終わった時点では非常に疲れた。もっと言うと、僕は先々週の週末からひどい下痢に悩まされ、食べたものが水になって出ていく状態が5日続き、その後ようやく収まってきたと思ったら、お腹は痛いのに何も出ない日がさらに2日続いた。外を歩くとめまいがするような状態で、かなり苦しい中での夏期講座運営だった。

それが土曜午後3時(当地時間)にようやく終了し、僕は一種の「燃え尽き」状態に陥った。何も手に付かない状態で、普通の読書も手に付かなかった。特段娯楽がある国でもないため、そこで僕がやったのは、昔キンドルでダウンロードしてあったマンガを読み返すことであった。

読んだのは、2015年9月に一度ご紹介している『ハルロック』。高校時代に教わった教師から電子工作を習い、身近な課題の解決を電子工作によって次々解決していく女子大生が主人公の、ジャンル的にはコメディである。

僕が最近いろいろな場所で吹聴しているのは、ものづくりに必要なのは、①プログラミング、②モデリング、③電子工作、④ユーザーインターフェース、⑤マシン操作、という5つの知識だということである。そしてこれも何度も指摘しているが、ブータンでは①プログラミング(コーディング)の知識習得をもってSTEM教育と称されている。

一応、②モデリングや③電子工作もファブラボ・ブータンが受注して実施している研修会では教えられているが、このような全体の枠組みも示さずに研修機会だけを提供しているため、それぞれの要素がぶつ切りになっている。要するに、ものづくりを完成させるために必要な要素の全体像も示されず、コーディングだけが一生懸命行われている。STEM教育のカリキュラム開発を司る部署の人に訊いても、なぜSTEM教育の一環でモデリングを教える必要があるのかまでは、理解されていないようであった。

上記の枠組みについて、改めて確認するいい機会となった『ハルロック』再読だった。晴のものづくりは、これらの知識を動員して行われる。モデリングはあまり描かれていないし、マシン操作も出てこないが、よくよく見てみると、3Dプリンターを自宅で持っていない晴は、六祐に頼んで、六祐の学校にある3Dプリンターを使わせてもらっているらしいということもわかる。たぶんデータだけ作ってSTLファイルにして六祐に持って行ってもらっているのだろう。

こうして、元々晴が上記の5つの知識とスキルをもって、最初は身の回りの課題、日常の暮らしをちょっとだけ便利にするようなものづくりに取り組むところから、徐々に社会の課題、より多くの人の暮らしを便利にするようなものづくりにどんどん進んでいく姿が描かれる。また、1人で取り組んでいるとなかなか出てこないいい発想を、工業高校に在籍しているのに実は読書家で文系人間である六祐のアイデア出しによって補っているという点にも惹かれる。六祐はまったく電子工作に興味がなかったが、学校生活の中で同級生から喜ばれるものづくりの可能性に興味を持ち、遅ればせながら電子工作に入っていく。作品のタイトルが示す通り、晴と六祐の成長ストーリーでもある。

ただ、今回読んでいて最も興味深かったのは、元々プログラマーだった今村さんが、東京メイカーフェアで晴と出会い、そこからものづくりに入っていく姿だ。

今村さんは、晴が教えていた秋葉原の電子工作教室の門を叩く際、「頭で考えたものを実体にできるって、すごく楽しそうやと思うんです」「ずーっとパソコンの中だけでシステムの構築を続けてると、たまにはビット(データ)の世界から飛び出して、実体をいじって何かを作りたくなる事があるんです」などと語っている。

習熟度の差は大きいが、このプログラマー今村の姿が、コーディングだけを学んだブータンの中高生の姿なのではないか。そうすると、今村さんを惹きつけた、晴の出展した「猫ツイッター」のような、プログラマーの琴線に触れるようなハードウェアの実例が出て来れば、単にコード書いているだけの次元から、より多くの若い人の目を、「ものづくりによる社会課題の解決」の方に向けられるのではないか。

残念ながら、ファブラボ・ブータンは「猫ツイッター」のような魅力的なハードウエア製作の実例を提示しきれていない。作品で出てくるような、秋葉原の電気街のように気軽に電子パーツが入手できる場所が国内にあるわけではないから、この国はどうしても電子工作にあまり力を入れられないと思われているかもしれない。残念ながら、そういうところは確かにあるが、とはいえ同様の状況の国はそこらじゅうにあり、そこも中国の深圳からAli Expressを使って購入していたりはしているだろう。

電子工作に気軽に取り組める環境、どうやって作ったらいいのだろうか―――。これはもう少し考えていきたい。




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