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シンカル村のメガソーラー発電プラントの行方 [ブータン]

牧草地喪失を危惧する住民の声が、シンカルの大型太陽光発電を混乱に
Community’s fear of losing pastureland puts mega solar project
in jeopardy in Shingkhar, Bumthang

Kipchu記者(ブムタン)、BBS、2021年8月24日(火)、
http://www.bbs.bt/news/?p=156164
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【抄訳】
ブムタン県シンカル村の人々は、村に太陽光発電プラントを設置する計画をキャンセルするよう経済省に求めている。これは、国内最大の太陽光発電プロジェクトになる見込みだったが、村の人々はこのプロジェクトのために彼らの牧草地を失うことを恐れている。

シンカル村のすぐ上にある牧草地は、ソーラーパネルが設置される場所だ。 100エーカー以上の牧草地を8万枚以上のパネルでカバーするというもので、サッカー場70面分もの広さになる。

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6年間にわたって行われた実現可能性調査により、この土地がこのプロジェクトに最適地であることが明らかになった。しかし、村の人々はこのプロジェクトをキャンセルするため、過去2回経済省に嘆願書を提出した。最近、経済大臣が村の人々と会い、プロジェクトの重要性を説明した。

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ロクナート・シャルマ経済相は次のように述べる。私たちは通常、電力輸出国だと言われるが、それは夏の間だけのことで、冬には、国内需要を満たすためにインドから電力を輸入する必要がある。ジグミリングのような工業団地が開発中であるため、まもなく多くの工場が国内に建設されるだろうという。

「従って、私たちの毎日の国内電力需要は、今後約1年で1000MWを超える見込みです。プナサンチュ第1、及び第2発電所が稼働した場合でも、涸れた季節の発電量はわずか600MWにしかなりません。電力貿易の赤字は依然存在します。だからこそ、私たちは代替エネルギー源として太陽光に焦点を合わせているのです。」大臣はこう述べる。

「シンカルの太陽光発電プロジェクトは30MW想定であり、国内最大です。これは、当地の環境が太陽エネルギーを閉じ込めるのに最も適しているからです。周辺の山はそれほど高くないので、パネルに影を差すことはありません。水力発電とは異なり、トンネル工事、道路建設、発破工事はありません。混雑や汚染の影響もありません。」そう言うのは、再生可能エネルギー局のプンツォ・ナムギャル局長だ。

同局では、地域コミュニティはプロジェクトから利益を得るとも指摘する。「プロジェクトには良い道路が必要なので、既存の農道をアスファルトで舗装します。また、村の集会所にも太陽熱温水器を設置します。また、村の街灯も修理できます。このプロジェクトは熟練労働者をそれほど必要とせず、地域の人々もプロジェクトに参加できます。」ナムギャル局長はこう付け加える。
(後半に続く)
しかし、ツォッパ(村長)によると、村の38世帯のほぼすべてがこのプロジェクトに反対している。

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「これまで、私たちは生計をその牧草地に依存してきました。他の影響に加えて、パネルから反射された光も村に直接当たります。」住民の1人、タシラさんはこう指摘する。

「プロジェクトが土地を占有するなら、私たちは不幸なままです。私自身村の若い男性として、今牧草地のために闘わないと、将来的に望ましくない結果に直面すると思います。土地は私たちの魂のようなものです。それがなければ、牧畜と農業はやっていけません。」別の住民、プンツォ・デンドゥップさんもこう述べる。

「私たちは、プロジェクトを進めないよう政府に訴えます。土地は国に属するため、私たちにはプロジェクトに全面的に反対する権利はありません。書面であれ口頭であれ、これが私たちの立場です。」住民の一人であるリンチェン・ラモさんは付け加えた。

「経済大臣は、このプロジェクトはここが適地なのだと言います。彼は、国全体の利益のために我々が提案を歓迎すべきだと言ったに違いありません。しかし、ここは私たちの牛にとって最高の放牧地なのです。古い放牧地は今では木々や茂みで覆われています。」別の住民であるドルジ・ツェワンさんは述べた。

ブータン国土地理院の記録によると、この地域には800エーカーを超える国有地がある。このプロジェクトは、その国有地の総面積の約14%しか占めない。しかし、住民によると、そのほとんどが現在牧草地として使われている。

一方、経済大臣は、損害はごくわずかだと述べた。大臣は住民との対話の結果を内閣に示し、そこでこの総額200億ニュルタムにものぼる大型プロジェクトの運命が決定される。

前回駐在時から経済省が進めたくてしょうがなかったシンカル村のメガソーラー発電プラントの話が、今日のBBSで取り上げられていた。以前僕がこのメガソーラーのことを書いたときは、ウラからシンカルを経由してルンツィに抜けるバイパス道路の建設計画がメインの記事だった(「バイパス道路の要否」(2019年1月2日))。その進めたがっている経済省に開発資金を付けるのはアジア開発銀行(ADB)だと聞いている。欧州のコンサルタントが事業化に奔走しているとも耳にした。

日本でソーラー発電といったら、たいていオフグリッドで、地域の電力を地域でまかなうための仕組みなのだと僕は理解している。(そう言いつつ、ラジオの番組などで、「どこそこの風力発電施設から電力を買って視聴者に電波をお届けています」的な報じられ方をしているのを聞くと、そうでもないのかなと思ったりもするが。)なので、シンカルのような遠隔地で発電して、どこで消費するのか、送電コストが高くつくのではないかと気になってしまう。どうやらジャカールらしいが、そんなに電力需要が増える見込みの町なのだろうか。

僕の理解では、ブータンの電力需給が需要超過に陥り、インドから電力を購入しなければ賄えないのは、1年のうち、1月と2月の2カ月だけのことだ。しかも、どこが需要超過しているかといえば、首都ティンプーなのだ。ティンプーの街を周辺の山から見下ろしたら、屋根がいっぱい見える。あの屋根にソーラーパネルを設置したら、送電コストは考えずに需給ギャップを埋められるのではないかと素人目には思えるのだけれど。また、ティンプーにゴミ焼却施設を作ってそれも発電に充てたら、ゴミ問題と電力需給問題を両方に解決できるんじゃないでしょうか。公共事業省と経済省にまたがる話だから難しいのだろうか。

「なんでシンカルじゃなきゃいけないのか」―――それがずっと疑問だった。そりゃ気候条件から言ったら国内最適なのかもしれないけれど、わざわざ遠隔地に作らなくてもいいのに。どういう検討プロセスが踏まれたのか、知りたいところだ。

ついでに言えば、シンカルの乳製品は評判がいいので、牧草地を取り上げられたらそちらに影響が生じるだろうと予想もつく。地域の得る恩恵についての経済省の説明も、説明するようになっただけ偉いが、やって当たり前のことを言っていないか。シンカルには行ったことがあるが、ウラからシンカルに至る道路は、それほど悪路ではない。地元に雇用は生むかもしれないが、この村の人々は牧畜でかなり生計維持ができている。

拙速な開発事業を持ち込んで欲しくないなと思いつつ、ハラハラしながら内閣での決定を見守っている。
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