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コーディングが進められる環境づくり [ブータン]

学校のデジタル化、始まる
Major digitalisation of schools begins
Yangchen C Rinzin 記者、Kuensel、2021年8月9日(月)
https://kuenselonline.com/major-digitalisation-of-schools-begins/
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【抄訳】
教育省は、教育フラッグシッププログラムの一環として、学校のデジタル化に取り組んでいる。拡張教室を含むすべての学校にコンピューターの設置を開始した。フラッグシッププログラムは、生徒が就学前(クラスPP)から情報通信技術(ICT)にふれ、生徒にITの知識を身に付けさせることを目的としている。プログラムでは、教師も訓練を受ける。

全国のほとんどの学校には、ICT教員、PC、インターネット接続環境などの不足、インターネット接続のための予算不足、PC交換など、多くの問題がある。そのため、教育省は、学校のデジタル化実現への第一歩として、ラボとPCの両方が不足している学校にコンピューターラボを建設することから開始した。既存ラボの改装または新しいラボの建設が必要な約120のラボを特定しており、これまでに約33のラボの建設を終えた。

教育省ICT副主任担当官であるイシ・レンドゥップによると、ICTインフラへの投資には費用がかかるという。 「しかし、私たちはラボを建設し、可能な限りPCを供給しようとしています。これにより、すべての小学校に専用のラボと適切なPCが配置されます。」氏によると、クラス4からクラス10までのICTリテラシーカリキュラムも見直され、ITは、コーディングに重点を置きクラスPPからクラス12までの必須科目に組み込まれたという。

同省ではまた、ICTフラッグシッププロジェクトを通じて既存のLANネットワークの刷新も進めている。すべての中等学校と50の初等学校で、改訂されたICTカリキュラム(コーディング)の実装が始まっている。「残りの学校でも、コンピューターラボが完成し次第実装を開始します。既に施工業者とPC・ラップトップの調達業者の選定は終えています」と、イシ・レンドゥップ氏は述べる。

コンピュータラボを備えた学校では、この新学期から利用開始し、改訂されたICTカリキュラムに基づく指導を始めている。また、同省では、ICTインフラを備えていないすべての初等学校と拡張教室に4,696台のコンピュータを提供した。計3,420台のコンピューターが15の県(Dzongkhag)及び都市(Thromde)の中等学校に既に配置され、さらに2,900台が残りの県または都市の中等学校に8月末までに配置される予定だという。イシ担当官によれば、約1,000人の教員が改訂されたICTカリキュラムに基づきコーディングの研修を受講済みだという。 「Pythonの研修は中等学校の教員を対象に実施されましたが、ScratchとCodeMonkeyは私立学校を含むすべての教員を対象に研修が行われた。」

PCとラボの提供が完了したら、同省では、ICT科目に参加する機会がない残りの学校が今年度の第2学期の初めに学習機会を持つことを期待していると付け加えた。 政府では、フラッグシッププログラムに10億ニュルタムを配分している。教育省では今年12月までに9億ニュルタム近くを投入する見込みで、その予算は、ICTラボの完了、PCとラップトップの配布、周辺機器、教員の能力開発に投入される。

一方、教育省は、情報通信省とも協力して、すべての学校のインターネット接続を強化している。この作業は情報技術局(DITT)が担う。「インターネットは重要です。これがなければ、すべてのPCを提供して、ラボ設置を終えたとしても、ICT化は困難にでしょう。同時に、教育省では、コーディングを教える教師の能力をさらに強化する必要があります」とイシ担当官は述べた。

「デジタル」に惹かれて取り上げた記事ですが、今までに断片的には聞いていたことのまとめみたいな感じですね。教育省がこういう方針を取っていて、それに向けて事業を行っているというのを理解しておきたい。

これは他の記事のコメントでも指摘していることなのだが、ブータンで「STEM教育」が過熱気味なのはいいとしても、それが示すところが「プログラミング教育(コーディング)」と同義である感が非常に強いところに、僕は危うさも感じている。

先日、ティンプーのユースセンターで行われていた夏休み中の中高生向けのデジタルリテラシー研修を覗いてみた。この研修は、3Dモデリングとコーディングの二本立てで行われていて、必ずしもコーディング一辺倒というわけではないものの、両者を組み合わせて実装していくところまでは参加者に意識させておらず、コーディングについては簡単なコードを描くこと、モデリングはごく簡単な造形をやっておしまいだった。

参加していた中高生に、自宅にPCはあるのかと尋ねてみたところ、たいてい「ある」と答えた。たぶん、都市部の学校生徒にコーディングを学ばせるのはいいかもしれないが、地方部の学校でコーディングを教えても、自宅で復習もできない環境で、どうやって学習定着を図れるのだろうか。そこは、学校のコンピュータラボを昼休みや放課後もオープンにして、学校を越えて教え合い、学び合いができる環境づくりをファシリテートできるような教員がいないと難しいのではないかと危惧する。

まあその辺は実際のデジタル教育の現場をもう少し見てみないとわからないので、これ以上論じないけれど、1つだけ付け加える。この国のSTEM教育推進の関係者と少し話してみて驚いたのは、コーディングが若者の雇用につながっていくシナリオを必ずしも描けていないということだった。

かといって僕が解答を持ち合わせているわけでもないのだが、ずっと感じていたモヤモヤ感をわりとクリアにしてくれる出来事が今週あった。インドのファブラボ・ケララが主催していたウェビナーの中で、こんなスライドがあった。

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パーソナルファブリケーションを進めるために必要なスキルセットが、「プログラミング」の他にも、「3Dモデリング」「電子(electronics)」「ユーザーインターフェース(UI)/統一ソフトウェア開発プロセス(UP)」、それに「機械操作」だと挙げられている。

別にブータンがパーソナルファブリケーションを目指しているわけじゃないけれど(そういうレベルまでデジタルファブリケーションが普及して欲しいけど)、単にプログラミング(コーディング)だけでなく、これに他のスキルを組み合わせていければ、仕事になっていく可能性が高まることを十分示唆しているように僕には思える。少なくとも、僕がこのスキルセットの中で、この国で貢献できるところは「3Dモデリング」だというのも確認できた気がする。

もう1つ、これは学生に「3Dモデリング」を教えていて再三強調しているのは、モデリングに唯一の正解というのはないということである。自分でデザインをやっていると、デザインにはアートのセンスみたいなものも結構必要だというのを強く感じる。囲碁や将棋でも戦術の美しさが話題になることがあると思う。数式でも美しさを問われることがあると思うが、3Dモデリングにも似たようなセンスが求められることはあるし、プログラミングにも美しさやセンスが求められるところがあると感じる。アプローチの仕方は必ずしも1つだけではない。

こちらの学生は自分のやっていることが正解なのかどうかをものすごく気にして、「これでいいか見て下さい」と僕に求めてくるけれど、僕はいつも、「自分がそれでいいと思ったのならそれでいい」という言い方をしている。実際、そのデザインは僕的にはイケてないことも多いし、実際3Dプリントしてみると失敗するだろうなと予想できてしまうケースも多い。でも、そこはあえて失敗させて、後から考えさせるよう仕向けている。

コードが書けて、モデリングができて、しかも機械も操作できる。残る電子やUIは学生が大学で習うことだろう。そうしてトータルでのものづくりの能力を高めていけたら、この国で頼られる存在になっていってくれるんじゃないだろうか。
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