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『さよなら妖精』 [読書日記]

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/10/18
  • メディア: Kindle版
内容紹介
1991年4月、雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。謎を解く鍵は記憶のなかに――。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。米澤穂信、デビュー15周年記念刊行。初期の大きな、そして力強い一歩となった青春ミステリの金字塔を再び。
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週末なので、読書日記。久しぶりに、米澤穂信作品を読むことにした。最初は『真実の10メートル手前』の再読だった。『真実の10メートル手前』の収録作品は6編ある。その第1作品「真実の10メートル手前」とその後の5作品の間に、時系列的には『王とサーカス』が入って来る。なので、『真実の10メートル手前』から先ず読んで、続いて『王とサーカス』を再読しようと考えていた。しかし、そこで気になってしまったのが、太刀洗万智が登場する作品シリーズにはもう1作あることだ。それが時系列的には「真実の10メートル手前」よりもさらに過去の、太刀洗らが高校3年生だった時代が取り上げられている『さよなら妖精』である。

しかも、『真実の10メートル手前』に収録されている「ナイフを失われた思い出の中に」では、マーヤの兄が日本を訪れ、彼の目線で太刀洗の取材活動を傍観するという手法で書かれている。この短編だけ読んでいてもなぜ彼女が高校時代の同級生から「センドー」と呼ばれていたのかはわからない。だから、時系列で並べていくためには、次に読むべきなのは『王とサーカス』よりも、『さよなら妖精』だろうと、僕は予定を変更することにしたのだ。

それで、『真実の10メートル手前』再読については、『王とサーカス』再読も含めて先送りにして、後から読了した『さよなら妖精』の方を先に紹介する。

この順番の妥当性については論ずるのを控えるが、読み終えてひと言。こんな高校生、イメージしづらい。今どきの高校生を間近に見ているからでもあるし、作品の舞台である1991~92年頃のことを振り返ってみても、そんなにいたとは思えない。僕が高校生だったのは、この作品の舞台よりもさらに10年前の80年代初頭だったが、それでも学校でこんな話題が飛び交っていた記憶は全くない。レベル高すぎである。

一方で、共通点も垣間見える。例えば、僕らの高校時代、中東の白地図を見せられて、国名を記入しろという試験問題が地理で出されたことがあったが、クラス全滅だった。こんなの試験範囲で習ってないと先生のクレームしたところ、「こんなの常識だ」と言われてしまった。大人にとっては新聞読んでりゃ当たり前のことも、新聞読まない高校生には当たり前ではない。同じことが、作品の当時のユーゴスラビア紛争でもいえる。一般の高校生がユーゴ連邦を構成していた6つの共和国について名前や位置関係すら承知している可能性は非常に低いのだ。

日本と関連性がほとんどないような遠くの国で起こっていることに、もう少し思いをはせよう。もっと言えば、ユーゴ紛争について読者に知ってもらおうという意図が著者には感じられる。

もう1つ感じた共通点は、男子でも日記を書いていたこと。守屋君が記録していたマーヤとの交流記録を1年後に振り返る形で、マーヤの帰っていったユーゴスラビアの街の名前を探り当てるという展開になっていて、ベースは日記で書かれていた、いつどこでマーヤは何と言ったかの記録だった。今の高校生が日記をどれだけ書いているか、親兄弟の目を盗んでこっそり書いているケースが多いだろうから、判断するのは難しい。でも、僕は高校時代、大学ノートに相当量の日記を書いていた。また、高校卒業後も、留学とか海外駐在といった特別な期間は日々の記録を残していた。

同質性の高い社会で育ってきた若者が、マーヤのような異国から突然やって来た同年代の若者と交流することで、今まで当たり前のように捉えて考えてみることもなかった自分の苗字や名前の由来、神社と寺の混在の理由、慶弔のしきたりとその由来等、異文化の理解とともに自身のアイデンティティについて改めて考える機会を得るという展開を通じて、読者にも、改めて自分自身や地域コミュニティについて思いをはせよう―――そんなメッセージでもあるのかなという気がする。

作品中で繰り広げられる会話が高校生離れしていたので、高校を舞台とするような作品で僕がいつも感じる戸惑いというのは少し和らげられたように思う。また同時に、単なる高校生を主人公にした青春小説ではなく、もう少し大人の世界の「毒」を孕んだ作品にもなっている。こうしてオヤジの僕が先に読んでしまったわけだが、本書は、できたら、今まさに守屋君や太刀洗と同じ高校3年生の夏を過ごしている我が家の次男坊に、読んで感想を訊いてみたいものだ。こんなオヤジよりも、現役の高校生が、高校生であるうちに読んでおいた方がいい青春推理小説だといえる。

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