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『マーケットデザイン』 [読書日記]

マーケットデザイン: 最先端の実用的な経済学 (ちくま新書)

マーケットデザイン: 最先端の実用的な経済学 (ちくま新書)

  • 作者: 坂井 豊貴
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2013/09/04
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
社会制度は天や自然から与えられたものではなく、人間が作るものだ。いまそこで当たり前のように受け入れられている制度は果たして上手くできたものなのか。効率性は満たされるのか、公平性は実現するのか、戦略的操作にはうまく対処できるのか。マーケットデザインはこれらの要素を全て組み入れたうえで制度の精緻な設計図を描くことができる。実用化の進展も目覚ましく、関連分野には次々とノーベル経済学賞が与えられている。新時代の経済学は私たちの常識を美しく塗り替えてゆく。
【購入(ただし中古)】
2015年1月、「週刊東洋経済」が「ピケティ完全理解」という特集を打った。その前年10月にピケティが大方の予想通りにノーベル経済学賞を受賞し、それを受けての特集だった。僕はいまだに、あの『21世紀の資本』の原文は読んでいないのだが、当時から、あの分厚さを敬遠して、なんとか原文に触れずにエッセンスだけ理解する方法がないかと考え、東洋経済の特集号に飛びついたのである。

ところが、この特集号、ピケティの特集以外に、「こんなに面白い最新経済学」という第2特集までくっついていた。当時この週刊誌を読んだ感想として、僕は「第2特集の方が面白かった」と記録を残している。そこでいずれ読もうとチェックして、実際に今までに読んだ本には、以下が挙げられる。(こんなもんだったかなと、振り返ってみたら思えるが、他にも1,2冊はあったかもしれないが思い出せない。)
 エドワード・グレイザー『都市は人類最高の発明である』
 伊藤秀史『ひたすら読むエコノミクス』
 リチャード・フロリダ『クリエイティブ都市論』

そして、その時にいずれ読みたい本のリストに挙げておきながら、以後6年間、まったく読もうともしていなかったのが、「マーケットデザイン」という分野を紹介した、その名もズバリの『マーケットデザイン』であった。

この分野も、2012年にその開拓者と言われたアルビン・ロス教授とロイド・シャプレー教授がノーベル経済学賞を受賞し、それから脚光を浴びるようになった。それ以前にも、2007年にはジョン・マクミラン『市場を創る』が出ていて、発刊してすぐに僕も飛びついて購入し、当時の海外駐在時代に暇つぶしで読んだりしていたが、一般的には両教授のノーベル賞受賞で、解説本が世に出るようになった。その初期の1冊が本書である。そして、そういう経緯からも、東洋経済の特集でも「マーケットデザイン」が取り上げられるに至るのである。

そうした、初期の日本語での紹介本の中でも、読み物として手が届きやすい本書は、マーケットデザインの理論と実践が華々しい成果を上げた具体的なケースとして、「腎臓ドナーの交換プログラムによる人命救済」や「学生寮の希望部屋交換」といったアルゴリズム交換、「学校選択マッチングによる希望校への進学」や「学生のゼミ志望とゼミ側の学生選抜とのマッチング」といったマッチング理論、そして周波数オークションや国債オークション、競争入札といったオークション理論と、大きく3つを取り上げている。

近年、AIの発達により、アルゴリズム交換やマッチング等で瞬時に最適解を見つけ出すのがやりやすくなってきていると思う。「読みたい本」リストに挙げてから6年、発刊からだと既に8年も経過しているので、その間のテクノロジーの発展ぶりを加味した内容には本書がなっていないのは残念だが、数学の知識が乏しくても、取りあえずは概略理解できる、平易な表現ぶりになっていて、理解を進めるためのベースとしては今でも有用な入門書だと思う。

そして、くしくも昨年、2020年10月のノーベル経済学賞では、本書でも紹介されている周波数オークション研究の先駆者である、ポール・ミルグロム教授とロバート・ウィルソン教授が受賞者に選ばれたのである。だから、まさにこのオークション理論を紹介した第3章だけでも、両教授の受賞の意義を知るのに、うってつけの本として再び脚光を浴びたのである。

とはいえ、マーケットデザインが今の僕の仕事と接点があるような領域でもないため、本書はあくまでも週末読書の範囲で良しとしたい。サブタイトルに「最先端の」と銘打っている以上、増補版をそろそろ期待したいところだが、出たらすぐ読むかと言うと、その領域のこれまで8年間での広がり具合によっては、自分の生活に影響が出てくるような領域がカバーされるようであれば、後学のために読んでみることはありそうだ。

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