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トイレ修理も研修のうち [ブータン]

前回のブータン駐在時は、現地メディアで幅広く紹介された報道を拾って、その要約とコメントをつけるようなことをずっと繰り返していました。おかげで自分の情報収集にもなったし、ブログのPV数も結構稼げたのですが、方や長年ブータン関連情報を集めて毎日日本語で配信しておられるメルマガが存在し、以前は記事の要約もチラっとしか載せて下さってなかったのが、ここ数年でグーグル翻訳の機能が相当上がったようで、記事の全文を日本語に訳して紹介されるようになってきています。

僕自身もそのメルマガを重宝している状況です。同じことを自分のブログでやっててもあまり意味はないし、今回のブータン駐在は前回とは立場も目的も違うので、前回ほど広範なブータンレポートは今回は多分しません。でも、立場が変わったおかげで、地元メディアやJICAブータン事務所のFacebookですらあまりカバーしてくれていないような出来事を、直接その現場で見てきてレポートするようなことは可能かもしれません。そういうニッチを狙って、時々レポートしてみようかと思っています。


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6月21日(月)から25日(金)まで、南ティンプーにある市民向けデジタルものづくり工房「ファブラボ・ブータン」で行われた、ブータン王立ボランティア「Desuup」向けのデジタルファブリケーションブートキャンプについて、以下レポートする。

Desuupは、COVID-19緊急対応において、陽性者の隔離や入国者の強制隔離への誘導、食事配給その他のケア等で現在大量動員がかけられている。僕自身もブータン入りして最初に経験した21日間の強制隔離期間中、彼らには大変お世話になった。

Desuupは、プログラム自体が若者の雇用対策の側面もあり、COVID-19感染拡大下で就業機会を失った観光ガイドやホテル従業員等の受け皿にもなっている。ブータンでは、現在の大量動員中のDesuupが、COVID-19緊急対応期を終えて通常オペレーションに戻った時に、すぐに就業機会を得られるかどうかが懸念されていて、その時に向けたスキルアップを目的に、Desuup向けに様々な研修が行われている。今回ファブラボ・ブータンが受入・実施する研修もその一環であ、これ以外にも、製菓や大工、プログラミングといった研修が同時並行的に行われているそうだ。

受講は希望に基づく。Desuupも第何期とかバッチがいくつかあるが、研修参加者のバッチは様々で、研修会場で初めて会ったというケースがほとんどだった。また、これは研修発注側の企画立案にやや課題があるからだと考えられるが、各研修実施機関の間での連携、例えば、製菓とデジタルファブリケーションとか、プログラミングとデジタルファブリケーションとの間のシナジーは、あまり想定されているようには思われない。

今、ブータンでは、25人以上の集まりは規制されており、ファブラボブータンも、元々職業訓練施設として設立登記されているにも関わらず、COVID-19感染拡大以降、ずっと研修受入れはしてこなかった。これが久々の研修受入れだったようだ。

受け入れたDesuupは2グループに分かれ、この週は第一バッチ14人が受講。6月28日(月)から始まっている第二バッチは12人で、しかも第一バッチの受講者の修了時評価が好評で、「時間が短い」とのコメントが多数あったようで、Desuup技能向上プログラム事務局は、急遽第二バッチについては10日間の研修日程に倍増しろと指示があったらしい。それじゃブートキャンプじゃないじゃないとも思うが、そういう突然の計画変更はブータンあるあるだ。

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僕も別件での呼び出しがあったり、Zoom会議があったりして(ファブラボブータンのWIFIが弱いこと、別途紹介するが僕が携帯加入でトラブり、ファブラボにいてZoom会議に出るというのができなかった)、全日程張り付いて研修を見ていたわけではないけれど、第一バッチと第二バッチの間で日数が倍増したという大きな違いはあったものの、基本は①3Dモデリングと3Dプリンティング、②Pi-Topコーディング、③レーザー加工、④CNC切削加工で構成されていたと思う。

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ちなみに、第一バッチも第二バッチも、3日目に僕もしゃべらせてもらった。今回は自分専用のデスクトップ3Dプリンターを日本から持ち込んできていて、隔離期間中に部屋で必要になったもの――スマホスタンドや洗濯バサミ、デスクランプスタンド、ペン立て等をその場で作るという活動をしていたので。というか、僕はブータンでのデジタルファブリケーション普及に関して著書もありますし。また、3DモデリングのモデリングソフトTinkercadも、Pi-Topコーディングも、多少かじったことがあるため、グループワークではある班に張り付いて適宜助言をしたりもしていた。

元々Desuup奉仕期間終了後を想定したプログラムなので、参加したDesuupのスキル習得意欲は高いと感じた。これまでファブラボブータンに見学に来た政府関係者は、ここに揃っている工作機械を見て、「若者のスキルアップにはすごくいい」との期待感を表明することはあっても、自分で何か作ろうという発想にはなかなかならないらしい。そこが、50代になってからこの分野の技能習得を自分自身でやってきた僕には忸怩たるところがある。でも、今回受講したDesuupのうち、おそらく何人かはファブラボを再訪して機械をもう少し使用してみたいという思いはありそうには見えた。

でも、一方で、研修受講直後の高い意欲を次の行動につなげていく何らかの仕掛けが必要だとも思われる。僕の住んでいた街では、こうしたファブスペースでのものづくり研修が行われた後、市が主催するファブコンテストへの出品を慫慂するような連携が行われていた。

さて、タイトルでも触れたトイレの補修だが、第一バッチのDesuupの誰かが、ファブラボのトイレを使った際、フラッシュボタンを破損させたらしい。カルマ代表が、その複製を課題として与え、研修最終日の修了式の後、2人ほどのDesuupがファブラボに残り、あ~でもない、こ~でもないと頭を悩ませていた。結局、その週いっぱいではどうにもならず、翌週、僕も参戦してモデリングに取り組むことにした。

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寸法測ってモデリングやって、そのデータをもとに3Dプリンターで試作して、そのたびに不具合を調整してもう一度2Dスケッチから形状を変えてみる―――そんなことを何度か繰り返して、ほぼほぼ最終版というところまでデータが仕上がってきた。4日かかった。週明けファブラボで実装できるか再挑戦する予定。(出来上がったら写真追加挿入します。←しました!)

間もなく60にもなりなんとするオヤジが、家屋の修繕を3Dモデリングで試行錯誤している姿を見て、今週研修に来ていた第二バッチのDesuupの中にも、感銘を受けたという子も出てきました。Desuupが3Dモデリングのスキルを身に付けたら、大規模災害の被災地に入っても、現場で必要なものをその場でモデリングし、3Dプリントして実装するということもできると期待してしまいます。実際そういう活動を2015年のネパール大地震以降、同国で進めてきた国際NGOもあるので。Desuup向け研修には、そういう可能性も期待してしまう僕なのでした。

Fusion360操作ガイド ベーシック編 2021年版―次世代クラウドベース3DCAD

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  • 作者: 三谷 大暁
  • 出版社/メーカー: カットシステム
  • 発売日: 2021/02/01
  • メディア: 単行本

今回もこの本のシリーズにはお世話になっている。初版からFusion 360の操作も随分と改編がされてきているので、こうやって定期的に改訂版を出してくれるのは良心的だと思うが、このシリーズの難点として、目次がモデリング対象物を見出しにしているため、どの操作法がどの巻のどの章で学べるのかがわかりにくいと感じる。実際にモデリングをやっていくと、「こういう造形をしたい時には何をどうしたらいいのか」がピンポイントでわからない事態に多く直面する。そういうのを引ける、シリーズ全体での目次のようなものがあったらなぁと思う。

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