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『スマホ脳』 [読書日記]

昨日、大学時代から30年以上親交のある友人が移住先の北海道で主宰している図書館研究会というのをオンラインで聴講した。自らMCを務めていた友人が「今日は海外からも参加されている方がいらっしゃる」と言っていたのは、僕のことだ。

いろいろな論点があったと思うが、その友人がこのところSNSで発信していた、北海道では公立図書館や書店が減少しているという話は結構衝撃的で、これ以上減らさないために、図書館の魅力をどう高めるか、さらにもっと究極的には、読書という習慣をどう広げていけるか、関係者の方々が危機感をもって取り組んでおられる姿が印象的だった。

パネリストの鼎談ではいろいろな論点が出てきていた。40分遅れての参加だったので、すべてフォローしていたわけではないものの、いくつか気になった点を挙げておく。

1つめ。以前、僕が主宰した大学生とのフリーディスカッションの中で、本にはいくらぐらいならお金を出してもいいかという問いに、「1500円でも高い」という声が大半だった。今の大学生が何にお金を使っているのかは今すぐわからないものの、本は高いというのが若い人々の実感なのかも。

2つめ。僕は長年にわたってお金を払って本を買うことを当たり前のようにしてきたのだけれど、還暦が目の前に迫ってきて、特に20代の頃に読んでいた本が実家の書棚を占拠している状況が両親の断捨離努力とバッティングして、処分せざるを得なくなった。では東京の自宅で引き取れるかというと、子供が大きくなってきてただでも狭い我が家において、僕が買い溜めた本が邪魔だと家族に言われるようになり、図書館や電子書籍にかなり頼るようになりつつある。図書館の利便性向上は方向性として支持するが、電子書籍の普及は僕はしょうがないと思っている。

3つめ。僕自身は本を読むのは好きなのだが、自分の家族を読書好きにすることには失敗している。僕自身が率先して読書に取り組んでいる姿を見せたからといって、我が子はそれをまねたりはしないし、リビングの目立つところに意図的に本を放置したところで、彼らの視界には飛び込んでこない。僕が子供の頃母からしてもらったように、小学生時代の我が子を図書館に連れて行くことはやってみたが、結局続かなかったし、小学校で主宰されていた父兄による朝の本の読み聞かせも出てみたけれど、我が子に対しては全く効果がなかった。

もはや全員が大学生以上になりなんとするわが家の場合、子供を本好きにする努力などする気にもならないが、過去のどの時点で、何をやっていたら、子供たちは本好きになってくれたのか、僕にはいまだにわからない。すごく厳しい感想を言えば、本好きの大人が理想を述べていてもダメで、実際に子供が本好きになってくれた方の取組みとか、あるいは中高生で本が好きという方々にご登場いただいて、何が本好きになったきっかけだったのか、その中での親や地域の役割が何だったのか、そういうのを今後掘り下げて聞けたらよいかもしれない。

ただ、1つだけ。この研究会を聴講し終えて、こと僕自身について言えば、無性に本が読みたくなった。3週連続でまた宮本輝というのもなくはないが、こういうお話の後だけに、読書を妨げる筆頭ともいえるキラーコンテンツに関する考察でもいいかなと思い、本日ご紹介する本をキンドルでダウンロードした。

スマホ脳(新潮新書)

スマホ脳(新潮新書)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/11/18
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
平均で1日4時間、若者の2割は7時間も使うスマホ。だがスティーブ・ジョブズを筆頭に、IT業界のトップはわが子にデジタル・デバイスを与えないという。なぜか? 睡眠障害、うつ、記憶力や集中力、学力の低下、依存―最新研究が明らかにするのはスマホの便利さに溺れているうちにあなたの脳が確実に蝕まれていく現実だ。教育大国スウェーデンを震撼させ、社会現象となった世界的ベストセラーがついに日本上陸。
【購入】
先ほどの読書との関連で言うと、僕が「ひょっとしたら我が子に対して余計なものを与えたかも」と感じたのはスマホだ。それなりに読書好きになってくれるかもと小学生時代に期待を抱かせてくれた我が娘の10代後半から20代初頭にかけての生活を見ていて、「推し」のYouTubeを見たり、チャットで過ごしたりする夜の長さはものすごく気になるし(その分日中の居眠り時間が長い…)、同じく小学校時代に重松清作品に多少興味を見せて僕に「三度目の正直」への淡い期待を抱かせてくれた末子も、今や大学受験を控えて本来なら勉強に集中しなければならない時期なのに、自宅で自室にこもってスマホでしゃべっている時間がかなり目立ち、いったい勉強にどれだけ時間をかけているのかと気になって仕方がない。いずれも、スマホに影響を受けていると言わざるを得ない。

それについて親が何か言うと反抗的な態度を見せる。何か秀でたところ、親として一目置けるところがあるなら僕らも言うのは控えるが、そうでもないのに痛いところを突かれると向きになるのである。

それじゃスマホを取り上げたらいいのかというとそういうわけにもいかない。彼らにとってはスマホやインターネットは情報収集の道具の1つだ。わからないことがあればそれなりに検索しているのだ。クックパッドで確認しながらお菓子や料理を作ったりもしているし、わからない時事用語があれば調べたりもする。

その点では僕ら大人も一緒で、外にウォーキングやジョギングに出かける際にはSpotifyやRadikoを聴いたりするし、屋内にいても、英語ニュースの聞き流しで英語のリスニングをやろうとだってする。高血圧が指摘されている僕は、朝と夜の血圧測定結果をスマホアプリで管理し、薬局で処方された薬も、おくすり手帳ではなくスマホアプリで記録している。FitBitによる毎日の歩数記録もスマホだ。それらも悪いことなのだろうか。

本書で述べられていることは、一般論としては理解できる。よく言われていることであり、それを裏付ける研究成果がどんどん出てきており、その中でも代表的な研究の結果について本書では紹介されている。「睡眠、運動、そして他者との関わり」が、精神的な不調から身を守る3つの重要な要素だそうだが、スマホがそれらに割く時間を奪っており、精神的不調を訴える人が、この10年ぐらいで確実に増えたと著者は指摘している。

僕たちはデジタルな道具を賢く使わなければならないし、それにはデメリットがあることも理解しておかねばならないと著者は言う。新しいテクノロジーに適応すればいいと考える人もいるが、著者によると、人間がテクノロジーに順応するのではなく、テクノロジーを我々に順応させなければならないともいう。しかし、テクノロジーの開発にはお金も絡み、企業は儲かるなら人々を自社のテクノロジーに順応させる方向を望む。それが人間によい影響を及ぼさないことがわかっていたとしてもだ。だから、IT業界のトップは我が子にデジタル・デバイスを与えないのだという。

でも、本書はタイトルは「スマホ」という括りで述べられているが、スマホ自体が悪いというよりも、スマホでインターネットにアクセスしやすくなった点が問題なのだと述べられている。特に、「SNSを通じて常に周りと比較することが、自信を無くさせているのではないか」という指摘はものすごく腑に落ちる。

Facebookを見ていると、他人の庭が青く見える。それだけでなく、ウェビナーやらクラウドファンディングやらの情報がうじゃうじゃ飛び込んできて、世の中の動きの速さに戸惑うことが多い。僕なんぞよりもはるかに若い人が、さっそうと腕組みなどして写真に写っていたりして、いかにも「仕事人」って感じで登壇するイベント、さらには、うちの子供たちとほとんど同い年なのに我が子よりもはるかに高い意識を持って企画運営するイベントなどの情報が連日紹介されると、「オレ何やってんだろう」と自己嫌悪に陥ることが多い。逆に自分がFacebookに記事を上げる時も、ネガティブなことは封印し、なるべく背伸びする自分をアピールするよう心掛けたりもする。SNSも、あまり精神衛生上いいものではないなと思っていたら、まさにこの点が本書では指摘されている。

読書との関連でいえば、本書では北欧のIQの上昇が頭打ちになり、平均スコアが今ではいくらか下がり始めているというジェームズ・フリンの指摘を取り上げており、それが学校が以前より緩くなり、読書が推奨されなくなったせいだとフリンが解釈しているというのを指摘している。しかし、著者はそこから論点を移し、身体を動かす時間が減ったことも可能性としてはあると述べている。読書の方も議論を深めて欲しかったなと思う。

ダラダラと長い駄文になってしまった。結局、本書はインターネットにつながったスマホ端末が潜在的に持つリスクが利用者自身がもっと意識し、利用者自身が賢い使い方を見出せと言いたいのかと思う。

さて、ここまで書きながらふと思ったのは、スマホ、というかSNSから意識的に自分自身を切り離すためには、運動するか読書するかなんだろうなということであった。走ったり歩いたり外でしている時にはSNSはやらないし、読書は面白い本なら時間を忘れられるぐらいに集中できる。たとえそれが電子書籍であったとしてもだ。実際本書は電子書籍だったが、読み進めている間はSNSにはほとんど注意が行かなかった。

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